「閉じたゲーム」
この世界は乙女ゲームの世界である。そしてメアリーはそれを知っていた。何故か、それは教えられたからだ。”あの女”に。
何度目かの断罪の時、失意から崩れ落ちたメアリーを気遣うふりをして近づいてきた彼女はメアリーにこう耳打ちした。
「あのね?この世界って私の世界の乙女ゲームの世界なの!だから、知ってるのよ。貴方をはめる方法を、ね?」
「!?」
「きゃっ!?」
見た、彼女はわざと転んだ。見た、彼女の悪魔の様な醜い笑みを。
そんな彼女を王子は転ぶ前に支えた。
「ラインハルト様!メアリー様がっ!」
「分かっているよ。メアリー、君って人間は本当に醜い人間だ。君を気にかけた彼女に手をかけるとはな!!」
「違っ……!?」
「黙れ!誰かこの女を連れていけ!!彼女に怪我をさせようとした罰として爪剥ぎしておけ!」
「いやっ、いやぁああああああああっ?!?!」
この世界は残酷だった。メアリーの爪は全部剥がれた。痛みが襲う。だが、本当に痛かったのは身体じゃなくて心だった。絶望が彼女を襲う。1人ぼっちだった。涙が伝う。泣いていると看守がやってきた。
「うるせぇぞ!!こらぁっ!!」
「いやぁっ?!」
看守から暴力を受ける。そして、処刑台へと送られた。ギロチンの歯が落ちてくる。
目が覚めると断罪の1年前に戻っていた。
「はあ、はあ。」
メアリーは自らの首が繋がっていることを確認する。首はちゃんと胴体と繋がっていた。ほっと胸を撫で下ろす。手はまだ震えていた。そんなことを思いだす。
「嫌な記憶……、まあいいわ。弱い自分なんてもういない!今度こそあの女を、ラインハルトを、そして、私を陥れた全員を、あの世の送るのよ!」
そう言って部屋を飛び出す。どんっ。何かが扉に激突して吹き飛ばされる。
「いたた……。」
「……ルイ。」
「お嬢様〜、急に扉を開けないでください!いたた……。」
ルイはそういいながら強打した頭を撫でる。
ルイは蒼い瞳と金色の瞳をもつ金髪の少年で、バートリー家の執事である。とある事件のおりに執事として拾った少年である。
「ルイ、盗み聞きでもしていたの?」
「い、いえ!そんな!滅相もない!僕がちょうどノックしようとしたらお嬢様が扉を……」
「あら、そう。」
この会話も何度目だろう。もはやテンプレートである。もちろん扉はわざとあけました(回避しようとしても毎回同じイベントが起こるのでもう諦めているからである)。
「聞いていたのなら話は早いわね。さっそくお願いがあるの。」
「へ?」
メアリーはルイの唇をなぞると耳元でこう言った。
「キスして?」
「はぇ?!」
面食らってルイは驚いて赤面した。
「ふふふっ、冗談よ。」
「お、お嬢様!?」
「貴方が毎回同じことばかり言うからからかってみたの。」
「?ま、毎回?」
「いいえ、こっちの話よ。気にしないで。」
メアリーがその場を去ろうとするのをルイは引き止めた。
「お嬢様……。」
「?何?」
「い、いえ、なんでもありません!」
そうと、気のない返事をして図書室へと急いだ。ルイはその場に取り残される。
「メアリー様……ーー。」
呟く言葉はメアリーには届かない。ルイは歯を食いしばった。
★★★★
「あの本はどこに……。」
図書室へと入ったメアリーは本を探す。そんなに量がある訳では無いが父親の本好きがこうじたのかバートリー家には小さな図書室があった。本棚には本が隙間なくビッシリと詰められている。高い所にそれはあった。ハシゴを探してそれをかける。本を無事にとることができた。
「ふふ。これね。」
しかし、バランスを崩す。そのまま床へと叩きつけられる。前にルイがメアリーを抱きとめた。
「お嬢様。大丈夫ですか?!」
「ええ。平気よ。来るって知ってたから。」
「へ?」
そう、これもいつものことなのだ。どう回避しようとしても毎回このシチュエーションになる。もう、落ちるのも慣れた。メアリーはルイの腕から降りると本を見てニヤリと笑みを浮かべた。
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