一時間目
(五)
星川沙耶の家の一階、リビングにミズルはいた。
沙耶の母親が出してくれたクッキーをムシャムシャと食べ、それを紅茶で流し込む。
「うめえな」
自分の前に置かれた分を食べ終えたミズルはなんの躊躇もなくみつきの前のクッキーに手を出した。
「おばさん。沙耶の体どうしちゃったの?皮膚の病気?」
ミズルを無視してみつきは沙耶の母親に聞いた。
「分からないの。春休みの終わりぐらいからなんだか様子がおかしくて、次第にあんな体へ変わっちゃって。色んな医者へ連れていったんだけどどの医者もこんな症状は見たことがないって」
「さっきのお坊さんみたいな人は?」
「夫の知り合いが紹介してくれた霊能者の方なの。除霊も出来るって聞いて来てもらってるんだけど」
沙耶の母親は血の気の少ない青白く疲れきった顔でため息をはいた。
「治りそうなの?」
「どうかな?私の目には日に日に沙耶じゃなくなっていくみたいに感じる」
その言葉にみつきは泣きそうになった。
自分がヘラヘラと過ごしている裏で友達が苦しんでいた。
しかも思春期の女子にとっては地獄のような残酷な悩みで。
「このクッキー、まだありませんか?」
みつきの分も平らげたミズルはクッキーをつまんでいた指をペロペロと舐めている。
その態度にみつきは憤慨した。
「先生も真面目に考えてよ!自分の生徒が苦しんでるんだよ!」
「何を考えるんだよ?」
「わかんないけど、先生だって沙耶に学校へ来て欲しいんでしょ?だったら…」
「あー、それなら問題は解決したから別に良いや」
「は?」
「勝手に出席にでもしとけば良いってあいつが言ってたろ?まさに目から鱗だったぜ。そうだよ。チェックするのは俺なんだから出席にチェックしとけば良いんだ。はははははー」
「信じらんない。私は沙耶に学校へ来て欲しい」
「本人は嫌だって言ってるのに?」
「うるさいなぁ!私と沙耶は親友なの!だからもう一回話してくる!」
みつきは勢い良く立ち上がるとリビングの出入口へ向かう。
「わざわざ面倒に首を突っ込むとはバカな奴」
ミズルの言葉にみつきは足を止めた。
そしてミズルを指差し「だいたい高崎先生が勝手に出席にチェックしても他の授業では違う先生がチェックするからすぐにバレるからね!」と言い残しリビングから出ていった。
ミズルは目をぱちくりした後、沙耶の母親を見た。
「お母さんもそう思います?」
沙耶の母親は申し訳なさそうに目を伏せた。
「ええ……まぁ……そうなるかと……」
それを聞いたミズルの顔は徐々に青ざめていくのだった。