第6話:コボルト戦の後
コボルトを倒した後、俺は仲間の亡骸の前で手を合わせていた。
「俺は生き残った…。お前達は無念だったろうな…。」
この世界でどの様な宗教があるのか知らないが、短い期間共にした仲間には安らかに眠ってほしいとの思いで手を合わせた。こういう異世界では仏ではなく神が多い気がするが俺は元日本人なので気にしない。
川で体に付いている返り血を流すと、洞窟へ戻った。他のゴブリン達は特に気にしていない様だ。弱肉強食の世界だから当たり前のことなのかもしれない。先日まで話していた者が突然この世から居なくなるという現実に……。
そして気づいたら、朝になっていた。
どうやら疲労と戦闘のダメージですぐに眠ってしまったようだ。
朝食がてら、保存していた果実を食べつつ現在のステータスを確認してみる。
名前: 不明
種族: ゴブリン
レベル: 7
HP: 85
MP: 10
力: 24
敏捷: 21
知力: 15
スキル: [棍棒術 Lv1] [短剣 Lv2] [弓術 Lv3] [ゴブリン語 Lv1] [隠密 Lv1]
「…おお、レベルが4も上がってる…。」
コボルトは余程格上だったのだろう。
レベルが3→7へ上昇し、短剣のスキルLvと隠密という新スキルを取得している。
だが俺のステータスはHPのみ高いが、他のステータスはまだまだだ。
「種族的にこの程度なのだろうか…?」
まぁ、異世界物でゴブリンが強いなんて話は見た事が無いが、当事者になってしまった今では話が違う。
「そもそも、俺のレベルは幾つまで上がるんだ?進化は可能なのか?他のゴブリン達も同じようなスキルを持ってるのか…?」
この世界で分からない事は沢山あるが、一先ず最優先で知りたいのがそこだ。昨日のように、いつ生死をかける戦いになるか分からない。
まず進化が可能なのは確実だ。この集団にゴブリンアーチャーが3体と、集団のボスであるホブゴブリンが1体いる。彼等なら何か進化について知っているはずだ。
そう思い、まずは弓の指導をしてくれたアーチャーを探しに行った。
アーチャーは稽古場で弓の練習をしていた。
こういう先輩の稽古は見てるだけで勉強になる。なんで動作はゆっくりなのに、あれだけの威力が出るんだろう。
「すまない、ちょっと聞きたい事があるんだが…。」
「………。」
俺が話しかけると、アーチャーは弓の練習をやめてこちらを振り返った。無表情だが、早く言えと言われてる様な気分だ。
「実はレベルと進化について聞きたい。今は7まで上がったが上限はあるのか?進化は出来るのか?出来るとして上限は……」
「……マテ、…シツモンオオイ」
話してる途中で遮られてしまった。
「…シンカハ、10レベルカラ、デキルハズダ。
アトハ、ボスニキケ。
オレモ、ヨク、シラナイ…。」
10レベルから進化可能なのは分かったが、後はボスに聞け?
話が終わるとアーチャーは弓の練習に戻ってしまった。これ以上話すつもりはないらしい。知らないというなら仕方ないが、俺が嫌われているのか、ゴブリン同士の会話はこんな物なのだろうか?
ボスであるホブゴブリンは、洞窟の1番奥にいた。結構な年な為か基本動かない。食料等は専属のゴブリンが持って来きている。彼が行動するのはこの集団が敵に殲滅されそうになった時のみなのだ。
手持ち無沙汰では悪いかと思い、魚と果実を持てるだけ持参した。
「…ボス、今日は森の実りが良く、自然の恵みが沢山取れましたので献上します。」
「…お前、ユニークだな。」
「…??」
ボスは寝そべったまま俺の献上品の果実にかぶり付くとそう答えた。
「100年に1度、お前みたいなのがいるんだ。
他の奴らとは違う奴がな。長年生きていると、こういう面白い事があるもんだな。
んで、お前みたいな流暢に話す奴が何の用だ?」
ボスも流暢に話してると思うんだがと心の中でツッコミつつ本題に入る。
「…進化の事について知りたいのです。昨日死にかけた上に、自分はまだまだ弱い。この世界で生き残るには、まずは知識を増やしたいと考えた次第なのです。」
「ほう、それで普段見ない顔の奴が、こんなちっぽけな品を持ってヘコヘコと挨拶に来たという訳か。」
まずい…、機嫌を損ねてしまったか…!?
そもそも他のゴブリンも同じような食料しか持ってきてないだろ!
「…だが、せっかくの面白い奴だ。俺の知ってる限りの事は話そう。他の奴らはカタコトな上に、会話を好まんからな。」
…とりあえず今回は合格のようだ。