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第31話 冒険者登録

受付に進むと、担当の女性が少し驚いた顔を見せたが、すぐに職務に戻り微笑みながら声をかけてくる。一連の流れを見ていたから、俺をただのゴブリンとは思わないようだ。


「いらっしゃいませ、冒険者登録をご希望ですか?」

「…ああ、そうです。ルナリス神聖王国から推薦状と、ルナリス教特使の書類も持ってます。」

「まあ、推薦状までお持ちなのですね!では提出をお願い致します。」


俺はうなずき、必要な書類を渡すと、彼女は丁寧に内容を確認して手続きを進めてくれた。そして冒険者ギルドの等級の説明を始めた。


「当ギルドでは冒険者の等級を、実績に応じて昇格・降格するシステムを取っています。初登録の方は全員『鉄等級』からのスタートとなります。等級が上がると、受けられる依頼も増えますが、逆に成果が乏しい場合やトラブルが多い場合は降格もありますのでご注意ください」


そう説明を続けながら、彼女は隣の掲示板を指差した。


「依頼は、あちらの掲示板に貼り出されているものから自由に選べます。まずは、『鉄等級』にふさわしいものから挑戦してください。モンスター討伐や薬草採取といった比較的危険度の低いものが多いですね」


彼女が示すとおり、掲示板には大小様々な依頼が貼られていたが、初心者向けには「小型モンスター討伐」や「薬草採取」といった内容が並んでいる。とりあえず、手始めに薬草採取の依頼を選ぶことにした。

まあゲームでもそうだが、序盤は1つ1つこなすしかないのだ。


「薬草採取ですね。これなら初級でも安全に行えるでしょう」


受付嬢はそう言って微笑みながら、依頼の手続きを進める。


「では、最後にこちらを…」


と受付嬢は小さな銀の台に乗せられたプレートをシャドウの手に渡した。錆びついた色合いの鉄製プレートには、細かい傷が無数に刻まれていたが、それがこの等級を象徴する印のようにも見える。


「これが、あなたの等級を示す鉄プレートです。持っている限りは冒険者として活動できますし、依頼を受ける際に提示してください。ランクが上がると、新しいプレートが支給されます」


なるほど、これで冒険者のランクを判断するんだな。

俺は小さく頷き、鉄のプレートを握りしめ、首にかける。その重みが、自分が冒険者の一員となった実感を静かに与えてくれた。



プルーク王国の郊外、俺は本を片手に薬草を摘み取る。最初はつまらない仕事だと思っていたが、思いのほか性に合っていた。薬草書にある情報を頼りに、必要な数を確実に集めていく。こうして集中して無心に何かをやるのは、かつての自衛隊での任務を思い出させる。行軍や筋トレ…淡々と進めるだけの単純作業には、どこか心が落ち着くものがあった。


採取を終えて戻ると、受付嬢は驚いた表情で俺を見上げた。


「あら、もう戻ってきたんですね。モンスターに注意しながらの採取は、初心者の方にはけっこう時間がかかるものなのですよ?」

「フッ、俺には造作もない事です。

次はもう少し骨のある依頼が受けたいですね。」

と軽く返すと、受付嬢も微笑んで頷いた。

…なかなか可愛いじゃないか。



その時、ギルドの扉が勢いよく開き、ドアが壁にぶつかる音とともに1人の老人が転がり込むように入ってきた。顔は恐怖で引きつり、額には汗が滲んでいる。


「た、助けてくれ!ワシの村がアンデッドに襲われとる!どうか冒険者の派遣を頼む…!」

ギルド内がざわつく。アンデッドは普通のモンスターより厄介な相手で、対応出来る冒険者が限られているのだ。受付嬢も困った顔で老人を見て、肩をすくめながら申し訳なさそうに応えた。


「も、申し訳ありません…現在、銀等級以上の冒険者は皆、別の依頼で出払っておりまして…」

「そ、そんな…ワシらを…村を見捨てるというのですか!」

老人はその場で崩れるように膝をつき、肩をがっくり落として項垂れた。


周りの冒険者たちも眉をひそめ、ヒソヒソと小声で話し合っているが、助けに向かえるほどの力量があるわけではない。鉄等級でこの程度の依頼しかないのだ。今ここにいる鋼や銅等級の者ではやり合えるかも微妙だろう。


受付嬢が俺をチラチラ見ている。少し困惑した表情で何か言いたげにしている。

俺は少し息をつき話しかける。こういう人助けをする事で、俺の名とルナリスの信仰は広まるだろう。


「普段なら鉄等級の依頼じゃないだろうが…

俺なら今から行けるぞ。それに、ルナリス教徒として生きる屍を見過ごせないしな」

少しキザなセリフだったが、受付嬢の表情は曇ったままだった。新人の俺がアンデッドに対処できるか、不安を抱いているのだろう。ギルド登録したばかりでは信用がないのも無理はない。だが、戦力が限られている以上急がなければ犠牲者は増えるだろう。


「…悪いが、今は時間がないんでな。俺は先遣隊として先に向かう。あなたは銅級の者を掻き集めて第二陣を派遣してくれ。聖水と傷薬も大量に必要となるだろう」

俺は受付嬢に簡潔に指示を出すと、さっさと出口へ向かった。驚きの表情を浮かべる受付嬢をよそに、背後から聞こえる老人の声に、すぐさま反応する。

「ゴ、ゴブリン…?いや、鉄等級とはいえ冒険者なのか。戦える者なら誰でも良い!ついて来てくれ!」

俺は無言で頷き、老人の先導に従いギルドを後にした。



村の兵士、サムソンは汗だくで剣を振り続けていた。夜闇の中、じわじわと迫り来る無数のゾンビが視界を埋め尽くし、幾人もの兵士がその波に飲まれていく。剣で斬り裂いても、倒れるどころか次から次へと現れる異様な光景に、兵たちの士気も急速に削がれていった。そもそもゾンビの数が多すぎる上に、村人の避難を守りながらの戦闘だ。既に犠牲者は多く、背後の母親が怯えた声で子どもを抱きしめる様子が視界にちらついた。


「…こいつら…数が多すぎる…」

実家の母親を思い出した。俺が兵に志願する事に反対だった。心配だったのだろう。こんな兵士にならず、農家でもやれば良かった。そして好きな人と平和な家庭を気づけば安心していただろう。

そういえば、まだ幼馴染のジェシカに気持ちを伝えていなかったな。赤毛の良い女だった。小さい頃はよく喧嘩もしたが、大きくなるに連れて女として認識していった。気持ちを言うタイミングは何度もあったと言うのに…。

様々な思いが溢れ、俺は最後の雄叫びを上げていた。

「くそー!!ジェシカー!俺はお前を愛してるぞおお!!」



そう叫び、諦めかけた瞬間、

「…ルナライトニング!」

という声が響き渡った。その言葉と共に、一閃、黒白の雷が荒れ狂うように走り、目の前のゾンビたちを一瞬で焼き焦がしていく。灼熱の光があたりを包み込み、俺は思わず目を見開いた。

冒険者か? いや、それにしては威力が尋常じゃない。声の方へ振り向くと、そこに立っていたのは暗い装束に月の紋章をあしらった装備を身に纏う異形…ゴブリンだ。しかし、ただのゴブリンではない。その威圧感に息を呑む。俺たちが見たことのない圧倒的な存在感を放つ姿だった。鉄等級のプレートを付けている。


「状況を教えてくれ」

ゴブリンが鋭い眼差しでこちらを見て言った。

「う、後ろに村人がいます。兵士の数が足りず、防ぎきれなくて…!」

言葉を詰まらせる俺の隣をすり抜けるように、ゴブリンは目の前のゾンビたちに向かっていく。次の瞬間、彼の剣が閃き、数体のゾンビが粉々に砕かれていった。反応も遅いゾンビ相手にはまるで戯れているかのように、ゴブリンは軽々と足払いをかけたり、盾で叩き伏せたりしながら、あっという間にゾンビの群れを蹴散らしていく。


「お前たちは村人を守れ、俺はこいつらを片付ける。暫く経てば第二陣も来るだろう。」

ゴブリンの冷静な声が響く。俺たち兵士がその姿に圧倒される中、彼は次々とゾンビたちを焼き尽くし、時に剣を鋭く振り抜いては、闇に飲み込まれた村を次第に明るくしていくかのようだった。

「なんて強いんだ…それに、何というか神々しさを感じる…」

サムソンと他の兵士はシャドウの戦いぶりに見惚れていた。




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