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第29話 剣術

宿で朝食を食べた後、俺は王直属軍の訓練場に足を運んだ。進化により短剣から長剣へと武器が変わり、ちゃんと剣術を学ぼうと思ったからだ。今までの我流剣術とは異なり、長剣を扱うには新たな技術と基礎を身に付ける必要があるだろう。剣技を磨くために兵士達の訓練に参加することを決意していた。

ガイウスは俺の姿を見るとびっくりしていた。


「シャ、シャドウ殿…なのか?」

「ああ、そうだ。元気そうだな、ガイウス」

「な、なんというか見違えましたな。

気品に満ち溢れているといいますか…。

…それで本日は何用で?」

俺は長剣の扱いを教えて欲しいと伝え訓練に参加させて貰えることになった。今日はガイウス自ら指導を行うらしい。


訓練が始まると、ガイウスが声を張り上げて号令をかける。兵士たちは一斉に動き出した。まずは剣の基本の振り方からだ。

「剣は常に体の中心から外さないようにしろ。切り下ろしから突き上げまで、ムダな動きを削るように!」

ガイウスが指導する中、俺は自分の動作を細かく見直し、しなやかさと鋭さを意識しながら長剣を振るっていく。上級剣術のスキルのおかげか剣筋はすでに安定しており、他の兵士と比べてひときわ正確かつ速い。

隣で剣を振っていた兵士がシャドウに驚いた表情で話しかけてきた。

「お、お前、すごいな…。今日が初日なんだろ?」

「ん、そうなのか?言われた通りにしてるだけなんだが。」

そう思い、他の兵士を見たが確かに俺の方が動きが綺麗で力強さがあった。

これもスキルのおかげか?長剣の扱いはまだ慣れてないはずなんだが…



だが俺の成長ぶりは凄まじかった。あらゆる基礎動作はすぐに定着し、メキメキと腕を上げていく。一週間も経つ頃には、ガイウスと模擬戦で互角に渡り合っていた。


「はあ…はあ…、経ったの1週間で一体どうなってるんだ?」

ガイウスが汗だくになりながら話しかける。


「ふう…、これもアンタの教えの賜物だろう。」

水を一口飲みそう言うとガイウスは首を振った。

「いやいやいや、ありえない事なんだ。

たかが1週間でこれ程まで強くなるとは…。

全く、これも進化の影響ってことなのか?

王国内でも俺の剣の腕はそこそこ有名なんだが…」

凹んでいるガイウスを励ましていると、

「ほう、貴様が訓練場に居るとは意外だな。」

振り返ると、フェリシアが居た。いつもの騎士装備ではなく練習着だ。綺麗な太ももが見えない。


「あれ?今日お前休みじゃないっけ?」

今日はグリーダが護衛任務についている。

俺含め他の近衛隊は休みのはずだが?

「何を言っている!休息も大事だが私は初心に帰り訓練に加わることにしているのだ。

手合わせをお願いしたいのだが…ガイウス殿は疲れているようだな?」

はあはあと息切れをしているガイウスを見ながら、フェリシアは困惑していた。


「あ〜、さっきまで俺と派手にやってたからな。」

「ほう?貴様はまだまだ余裕のようだな?

進化の影響か?」

フェリシアはニヤリとする。


「さあ?どうかな。やってみれば分かりと思うぞ?」

「面白い、貴様とは一度やりあってみたかったからな…いざ勝負!」



フェリシアとの模擬戦は結果的に俺の勝利だった。俺はかなり強くなったらしい。戦闘力が極めて高いとの情報は本当だな。

フェリシアは悔しそうに「もう1回だ!」やら「次は負けない!」等と再戦を申し出たが全て返り討ちにした。

ここまで剣の腕が上がればゴブリンスレイヤーにも、簡単には負けないはずだ。



訓練が終わると、近衛隊の待機室へ戻る。

そしてコーヒーを飲みながら外の景色を眺める。

これが最近のルーティンだ。汗を流した後のコーヒーは美味しい。もちろんアイスコーヒーだ。そしてこの部屋には近衛隊のメンバーしか入らないから基本静かなのだ。

今日も平和だ…と思っているとドアがガチャっと開いた。

入ってきたのは、女トロールであり近衛隊の一人、更にルナリス教聖職者のグリーダだ。

「シャドウ、姫様が呼んでいます。

隣室へ来ていただけますか?」

「…?

分かった、今から行くよ」


俺が部屋から出ようとするが、グリーダは動く気配が無い。

「…どうした?行かないのか?」

「貴方と二人だけで話がしたいとの事です。

私はこの部屋で待機してます。」


なるほど、これは何か企んでいるな…。


扉をノックして中に入ると、セリーナ姫が待っており、シャドウの姿を見るなり感嘆の声を漏らした。


「まあ、相変わらずルナリス様を感じる…なんて素晴らしい武器と防具でしょう!こんなにも美しい装いで、まさにルナリス様のご加護を体現しているわ。」


姫はエクリプスゴブリンの進化によって一変した俺の装備にうっとりと見入っている。彼女にとって、ルナリスの象徴である月や銀の輝きが施された装備は、まさに崇拝の対象そのもののように映っているようだった。俺もそれに応えるように軽く頭を下げた。

しばらくは他愛のない世間話が続いた。訓練のことや、王城での噂話まで、穏やかな口調で言葉を交わしていたが、ふとセリーナ姫が真剣な表情に変わった。


「それで、ここからが本題なんだけど…。

シャドウ、あなたにお願いがあるの。」

「な、なんなりと。」


姫は頷き、視線を俺をじーっと見つめる。

「冒険者にならないかしら?」


…はあ?


「!? ええっと、姫様…?」

俺が困惑していると姫は話し続ける。


「貴方はルナリス様のご加護を体現している存在。その姿はまさに神の意志を具現化したようなもの!

それを見た人々は、あなたの姿にルナリス様の存在を感じずにはいられないわ。」

初めて俺の進化姿を見た彼女は大変だったな。

いつもこんな感じで俺の装備をまじまじと見入っていた。まあ悪い気はしないんだが。


セリーナ姫は紅茶を一口飲むと更に話を続ける。

「ただ…、ルナリス神聖王国には冒険者ギルドが無いから隣国に行く必要があるの。でも、異国の地であなたが活躍すれば、ルナリス教も更にその土地に浸透していくはずよ。冒険者として名を上げることで、人々に教えを伝えられるだけでなく、ルナリス様を信じる者たちが増えていく。戦士であり信徒であるあなたにしかできないことなんです!」


俺はその意図を理解し、静かに頷いた。

「…なるほど、つまり俺が冒険者として活躍することで、ルナリス教の信仰も広まるというわけですね?」


「…ええ、そういうことです。

もちろん旅のお金はこちらが用意します。

貴方はただひたすらに冒険者として上を目指して欲しい。ルナリス神聖王国としても強い冒険者が居るだけで抑止力になりますからね。」


そうか、信仰だけの名目かと思ったが、国としても抑止力になるのか。

この国では冒険者ギルドは無い。代わりに教会が町に来ている冒険者へモンスター退治や捜索を依頼するのだ。冒険者ギルドが無い分、有名な冒険者がこの国にはいなかった。

俺がその第一号となるのか…


「ですが、俺はゴブリンです。

冒険者登録できるんですかい?」

問題はそこだ。

亜人種ならともかく、進化した俺でも詰まるところゴブリンだ。狩られる立場の代名詞だろう。


「問題ありません。

王の推薦状とルナリス教の特使という事で派遣しますので、冒険者登録は100%可能でしょう。」


おいおい、凄いな。

わざわざ王が推薦状まで出してくれるのか。


「正直貴方を手放したくはありませんが、この姿を世間に見てもらう為なのです!そしてルナリス教のためにも…

このお願い受けていただけますでしょうか?」

姫が上目遣いでこちらを見ている。


受けるしかないだろうな…。王の推薦状まであるし、姫にここまで頼まれては…。

正直言うと、このまま安泰生活を送りたい。だがいつまでもここに居れる保証は無い。何せ俺はゴブリンだ。いつ討伐対象になってもおかしくない。

ここは冒険者という資格も取っておくべきだろう。民間で働ける資格も重要なのだ。


「分かりました。その任務、謹んでお受けいたしまする…。」

俺がそう言うと姫はニッコリ笑った。


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