第27話 真相
ゴブリンスレイヤーが逃走した後、俺達はイザルドの部屋を調べ上げていた。
隣国ラジアン帝国から送られた多額の賄賂や詳細な計画書といった暗殺計画の証拠が次々と見つかるにつれ、全ての謎が少しずつ明らかになってきた。
イザルドはラジアン帝国から多額の資金を受け取り、王国を混乱に陥れるために一連の暗殺計画を練っていた。そしてルナリス教人類至上主義を煽り、セリーナ姫暗殺を企てた。
「あのゴブリンスレイヤーと呼ばれている冒険者…帝国からの派遣ではなく、自ら志願して来たらしい。」
フェリシアが見つけた書類を指しながら、険しい顔で言葉を続けた。
ルナリス神聖王国で、ゴブリンが雇われたとの噂を耳にしたゴブリンスレイヤーは俺に関する情報を集めた。そこまで俺の情報は無かったが、ゴブリンの変異種で知恵がある危険個体と判断したらしい。
だが、冒険者である者が他国の兵士を殺す訳にはいかない。そこでイザルドの計画に乗っかったという訳だ。彼はイザルドから逐一情報を得て、俺達の動きを予測したらしい。帝国から暗殺者派遣を提案したのも彼だったとの事だ。俺を葬る事を第一に考えていたらしい。
証拠品を纏めると、セリーナ姫の取り計らいで王へ事の真相が報告された。イザルドの裏切りに王は驚愕し、しばし絶句していた。やがてその重みを感じ取ったのか、近衛隊員である俺たち一人一人を見回し深く頷いた。
「そうか…、よくぞ王国の未来を救ってくれた。セリーナの誇り高き近衛隊よ。感謝する。」
そして深くため息をついた。
「すまぬな……このようなことになったのも全て、ワシの至らなさが招いた結果だ……」
その言葉には、宰相の裏切りに気づけなかった自責の念がこもっていた。権力の重みに苦しむ王の姿に、誰もがその場で息を呑んだ。王の肩に見えるわずかな震えが、彼の心の揺らぎを物語っている。
セリーナ姫がそっと王の手を取り、優しく微笑みかけた。
「お父様、どうかご自分を責めないでください。それに近衛隊の皆様のおかげで、大事には至りませんでした。」
王の表情がわずかに緩み、彼女の言葉に救われるように一息つく。そのやりとりを見ていた、王直属軍隊長のガイウスが口を開いた。
「いえ、陛下。責任は私にございます。私がもっと徹底して捜査を行っていれば、イザルドの謀略に気づけたはず……」
王はガイウスに一瞥を向け、しっかりと首を振った。
「ガイウス、貴殿の働きには常日頃から感謝している。今後も皆を導いてくれ。
そして近衛隊の者達よ、よくやってくれた。お前たちがいなければ、我が娘も王国も危機に晒されていた……本当に感謝する。」
王への報告を終えると俺たちは近衛隊待機室へ戻った。暗殺者達と戦い、朝まで書類の確認や証拠品を押収してたからクタクタだ。
グリーダとアクセルも眠そうにしている。
暫くすると、セリーナ姫が改めてお礼を述べにやってきた。
「皆さん、今回の一件は本当にありがとうございました。何と御礼を申せば良いか…。
シャドウ。あなたの情報がなければ、このような展開にはならなかったでしょう。
本当に感謝してます。」
「いえ、俺を拾ってくれた恩を返したまでですよ。それに皆の協力無しでは何も出来ませんでした。」
そう返すと、姫は軽く頷いた。
「そうですわね、フェリシア、グリーダ、アクセル、貴方方にも感謝していますわ。
今後も私の側に居てくださいね!」
セリーナ姫は悪戯っぽくニコッと笑う。
「姫様…。
はい!我々近衛隊、いつまでも変わらぬ忠誠を捧げます。」
フェリシアが頭を下げると、他の近衛隊も頭を下げ忠誠を誓った。
「ふー、流石に疲れたなあ」
宿に戻って一息つくと、今回の一連の出来事が改めて頭を巡り始めた。イザルドの裏切り、ラジアン帝国の暗躍…そして何よりも、“ゴブリンスレイヤー”の存在が脳裏に焼き付いている。彼はただの冒険者ではなく、ゴブリンに対して異常なまでの執念を持っていた。今後も彼は俺を狙ってくるだろう。そう考えると、俺も対策を講じなければならない。
「あいつ…、まるで機械のように動いてたな。ゴブリンという種族に相当恨みがなければ、あんな人間にはなれない。次も会った時は逃げ切れるかどうか……」
冷ややかな感触が背中を這い上がり、俺はその場でふと身震いする。思考を巡らせ、いくつかの対応策を頭の中に浮かべてみたがどれも確実とは言えない。だが今は休息が必要だ。
ため息をついてベッドに腰を下ろした。
そういえば、ここ最近の戦闘でレベルアップしていたはずだ。俺は意識を集中させ、現在のステータスを確認してみた。
名前: 不明
種族: シャドウゴブリン
レベル: 10
HP: 300
MP: 100
力: 120
敏捷: 290
知力: 120
スキル:•[短剣 Lv7]•[弓術 Lv6]•[ゴブリン語 Lv2]•[隠密 Lv5]
特技:•[影潜り Lv4]
称号: 闇の初陣者、ルナリス教徒
加護:ルナリスの加護
レベルは10まで上がっていた。最近ステータス画面を見てなかったがルナリスの加護も付いてた。
ゴブリン時代より成長に必要な経験値は増えているはずだが、コボルトより強い人間を何人も倒しているからこの短期間の成長も頷ける。
寧ろまだレベル10なのかと突っ込みたいところだ。
「ゴブリンの時は10で進化出来たが、今はどうなんだ?」
その疑問を払拭すべく、頭の中で意識してみる。
《シャドウゴブリンレベル10に到達しましたので、進化可能です。》
おお、どうやらシャドウゴブリンもレベル10からは進化出来るらしい。
ゴブリンスレイヤーに狙われてる以上、早めに次の進化をするべきだろう。
「候補先を見せてくれ」
そう言うと次の進化先が表示される。
進化候補:
•ムーンシャドウゴブリン
シャドウゴブリンの進化形で、より隠密性と攻撃力が増した形態。移動速度やスキルのスピードが強化され、月光の加護で一定の神聖魔法も使える。
•ルナリスアサシン
影の力を極め、暗殺術と月の魔力を融合させた存在。高速で動き回り、致命的な一撃を繰り出す。対魔物や人間の強敵にも有効なスキルを持つ。
•セレナイトロード
月の加護を最大限に活かし、同時に統率力を持つリーダー格の存在。
•エクリプスゴブリン
非常に希少で強力な存在として、光と闇を融合させた特殊能力を持つ。戦闘力は極めて高い。
「え…、ちょっと待ってくれ、凄すぎないか?」
動揺しながらも、俺は興奮していた。
ルナリスの加護の影響だろうが、かなり特殊な存在へと進化出来そうだ。
どの個体も月の力を使える。それも今持っている影の能力と併用しながらだ!
「どこかのゲーム主人公みたいだな、光と闇を扱えるとは…」
進化先の説明を見ながら考え、迷っていた。
正直どれも捨てがたい…。どの選択肢でも、かなり上位の存在になれるのは間違いないだろう。
だが、ゴブリンスレイヤーはシャドウゴブリンに対して知識があるようだった。それを踏まえるとムーンシャドウゴブリンは辞めておくか。
残り3つ…。
「あー、くそ!決まらない!
どれも強そうだし、カッコいいじゃないか!」
気づけば昼になっていた。
腹ごしらえに宿の1階で昼食をする。
進化が始まると急に眠気がきて、暫く寝てしまうだろうからな、沢山食べた。
再び部屋へ戻ると、再度検討する。
「うーむ、各進化先の名前に踊らされていたが説明的にはエクリプスが良いかもなあ…。
希少って書いてるし、戦闘力も高いなら奴を返り討ちにできるかもしれない。」
ゴブリンスレイヤーは、以前の戦闘でシャドウゴブリンという種族を知っていた。
俺にとって初めての経験だった。自分の種族を知られ劣勢になり、影移動も読まれていたのだ。希少で強い魔物になればその点を補えるだろう。
「よし、エクリプスゴブリンで頼む!」
そう言うと同時に強烈な眠気に襲われた。
意識が薄れていく中、清らかな女性の声が聞こえる。
「我、ルナリスを崇める者よ。汝に力を授けよう」




