第24話 潜伏2
王直属軍隊長のガイウスは苦虫を潰した様な顔で話し始めた。
「今回のような大掛かりな事が出来る至上主義派の人物は宰相のイザルド殿か、ルナリス教団司教くらいのものだろう…。」
俺の事を信用したのか意外にあっさり話してくれた。1度目の奇襲で助けた恩も感じてるのかもしれない。
「なるほど…。確かに宰相や司教レベルなら可能だろうな。司教も人類至上主義なのは驚きだが。」
「グリーダ殿もその影響で聖職者止まりとの噂だ。だが1度目の襲撃時の手際が良すぎる。
宰相の可能性が高いだろう。」
確かにそれは思っていた。教会にはルナリス聖騎士団という戦力があるが、王国軍ほどの規模はない。今回のような奇襲、暗殺はしないだろう。
「では宰相だという証拠を探してみよう。
貴重な情報、感謝する。」
そう言うと俺は影へ潜った。
「くれぐれも気をつけろよ…。」
静寂の帳が下りる夜、王宮の一角。宰相イザルドの部屋には微かな蝋燭の灯りが揺れている。俺は暗闇に紛れ影の中に身を潜める。体が空気と同化するかのように気配が消えていく。
「――計画は滞りなく進んでいる。次の機会を逃せば、全てが水の泡だ。」
宰相イザルドの低い声が聞こえる。彼の目の前には、王国の兵士の中でも忠誠を疑われる一部の者たちが跪いていた。至上派と呼ばれる彼らの表情には、ただならぬ決意が刻まれている。
「ご安心ください。宰相様。我らはすべてを捧げ、この計画を必ず成就させます。」
「うむ、よい心がけだ。だが失敗は許されぬ。今回の計画が失敗すれば、我々は奴の近衛隊に消されるだろう…既にグリーダとアクセルが色々と嗅ぎ回っているようだ。姫を早急に排除せよ。」
俺はは息を潜め聞き逃さぬよう集中する。
宰相イザルドで当たりだ。そしてこんなにあっさり尻尾を掴めるとは夢にも思わなかった。
王国内の人類至上主義派と共に、宰相が次なる暗殺計画を具体的に指示していることが明白だ。さらに会話が進むにつれ作戦の詳細が次々と明かされていく。
イザルドの指示が終わり兵士たちが退室した後も、俺は待ち続けた。そして完全に城内が寝静まった頃、行動を開始する。影に潜んだまま音を立てずに宰相の執務室へと侵入し、机の中を探り始めた。
「…くくっ、これだな。」
机の奥から一冊の計画書が現れた。表紙には何の印もないが、中をめくるとそこには姫の暗殺計画が克明に書かれている。書かれた内容は驚くほど具体的だ。襲撃の時間、場所、人数、そして役割分担までもが詳細に記されていた。
「これが確実な証拠にはなるんだろうが…、ここから持ち出すのはまずいな。」
計画書を手に取り、速やかに要点を書き写し始めた。どれほど精密に書き写したい気持ちがあっても、時間は限られている。最も重要な部分のみを記録し、イザルドに気づかれる前に元の位置へと戻した。
計画書の写しを手に、俺は再び影に紛れて部屋を抜け出した。
翌日、俺はフェリシアの元を訪れ近衛隊を招集してもらうよう頼んだ。
案の定俺を見るとギャーギャー騒いでいたが、姫の口添えもあり、何とか落ち着いた。
正午には近衛兵待機室に全員揃っていた。
フェリシアもアクセルも俺のことなど上の空だったが、暗殺の計画書を出すと表情が変わった。
「結論から言うと宰相イザルドの机から見つけた。実行役の兵士と綿密に計画してるのもこの目で見て聞いている。」
「お前、一体こんな物どうやって…。」
アクセルが信じられないと言った表情をしていた。
そりゃ、そうだ。イザルドも相手が悪かったなと心から同情する。影から情報漏洩するなんて夢にも思わないだろう。
「なるほど、中々優秀な能力だな。
これで奴らを返り討ちにし、宰相の犯行だと証明も出来る。」
フェリシアが満足そうに頷く。
「何も待つ必要は無いだろう。
これだけ丁寧に計画しているんだ。襲撃の直前に奇襲を掛ければ、奴らの出鼻を挫けるはずだ。」
「…ギャハハハハハ!
そいつは面白いな!俺はその意見に賛成だ。
奴らの驚く顔が今から楽しみだぜ〜。」
アクセルが同意する。
血の気が多いんだな。
「ですが、些か数が多いように思われます。
姫様を護衛する人員も裂かねばなりません。
共存派の兵士と聖騎士団からの増援が必要でしょう。」
「いや、俺達だけで実行しようと思う。
人数が増える分、こちらの作戦がバレる可能性が出るからな。」
冷静に指摘するグリーダに俺の意見を述べると、フェリシアとグリーダは驚愕した。
アクセルはギャハハハと笑っている。
「そ、それは無茶だ!
幾ら我々でも数が違いすぎる!
ましてや姫様を守りながらとなると…」
「大丈夫だ。俺の能力なら1人でも何とかなるだろう。お前達3人で姫様を守れば良い。」
フェリシアは反対するが、俺なら出来るはずだ。自信はある。
「それはダメだ。俺にもヤらせろ。
護衛なんて、フェリシアとグリーダで十分だ。」
アクセルが興奮気味に意見した。
「俺は別に構わないが…。フェリシア、グリーダどうだろうか?
奴らを確実に抑え、宰相の企みを暴くならこの案が1番良いと思う。この千載一遇のチャンスを無駄にしたくない。」
俺が決意めいた目で力説すると、フェリシアが漸く頷いた。
「分かった。決して無理はするな。奇怪な能力を持つゴブリンよ。
ルナリスの加護が在らん事を。そして、我々近衛隊に勝利を!!」




