第23話 潜伏
近衛隊の自己紹介が終わると、セリーナ姫は
「皆さん、シャドウと仲良くしてね。
フェリシア、後は宜しく。」
と言い、自室へ戻った。
王族として執務がたんまり残っているそうだ。
この近衛隊の待機室は、姫の隣の部屋なので執務中は無理に一緒に居る必要は無いらしい。
姫が出ていくと、フェリシアが話し始めた。
「では新人が入ったので改めて説明しておく、姫の護衛は交代制だ。数日置きにローテーションする。今後は4人になったので少しは楽になるだろう。」
…ほう、常に4人での護衛じゃないのか。
まあ365日付きっきりでは休めないからな。
「基本、執務中も同席して欲しいが各々の判断に任せる。もちろん部屋から出る際は常にお側に居るようにしろ。」
フェリシアは一呼吸置くと続けた。
「次に、今回の二度の姫様暗殺未遂についてだ。
どちらもそこのゴブリンが姫様を助けたとの事だ。お前、刺客の装備や服装、種族で何か特徴は無かったか?」
と全員の視線が俺に向けられた。
特徴と言われても、1度目は盗賊の格好だったし、2度目は黒ずくめだったからなあ。
「特徴ってほどでもないが、1度目は用意周到だったな。人数も襲撃タイミングも計画的だった。最初に弓を射掛け、すかさず近接戦で仕留めていたから戦闘になれていたな。2度目は完全に素人だ。下手な尾行だったし、ナイフしか持ってなかったぞ。」
「ふん……それでは何も手掛かりとならんな。」
「………。」
フェリシアの発言に思わず黙り込む。
「…俺の情報提供者の話だと、人類至上主義派の行動が活発になっているらしい。
そしてセリーナは共存派だ。奴らの犯行しか有り得ねえんじゃねえか?」
と白髪の青年アクセルが言った。
情報提供者が居るとは、なかなか策士なのか?
というか、ルナリス教にそんな派閥があるのは知らなかった。
「私も教会内部の至上主義派が活発であると思います。2度目の襲撃は教会を出た後だったとか…、内部に協力者が居てもおかしくありません。」
トロールのグリーダが同意する。
ルナリス教聖職者として、教団内部の事は詳しいのだろう。
「やはり奴らの可能性が高いか…、よし引き続き奴らの襲撃に備え警戒してくれ。グリーダとアクセルは情報収集も引き続き頼む。
裏で糸を引いてるものが居るはずだ。」
グリーダとアクセルが部屋を出ると残ったのは俺とフェリシアだけになった。
「……で、お前はいつまでここに居る?
用が無いなら宿へ戻れ。」
「情報収集の件だが、少しは役に立てるかもしれん。」
「なんだと?」
フェリシアが眉を顰める。
「あまり知られたくない事だから2人になるまで言わなかった。
俺の能力があれば、誰にも見つからずに潜入調査が出来るだろう。」
「ほう、そんな事が可能なのか…。
いや恐ろしい能力と捉えるべきなんだろうな。分かった。お前の好きにするが良い。暫くは私が姫の護衛を務める。」
そう言うとフェリシアはセリーナ姫の元へ向かった。
「さて、どこから始めるべきか…」
俺は考えていた。
近衛兵に任命され、いきなり主人が狙われてると分かったのだ。拾ってくれた恩もある。役に立ちたいという思いでつい発言してしまった。
だが、俺の影の能力はこういうのに打ってつけだ。誰にも気づかれずに他人の会話を聞く事が出来るだろ。
問題は誰が怪しくて、どこから始めれば良いかなのだ。この城に来てから日が浅い為、一人一人に尾行していれば何ヶ月もかかってしまうだろう。それでは効率が悪すぎる。
「下っ端ではなく、もう少し上の人間がいいか…例えば隊長クラスとか?」
そうだそうしよう。数日監視すれば白か黒か分かるはず。白ならば協力を打診してみよう。断れる可能性が高いがやれる事をやろうと思い、俺は影の中へ姿を隠した。
影移動で城の中を散策する。
暫くすると目当ての人物を見つけた。王直属軍隊長ガイウス・ハートフォードだ。
以前より少し痩せたか?兵士を多く失った責任を問われているのかもしれない。
彼は自室に戻ると、机の上に溜まっている資料に目を通し始めた。隊長も仕事が山ほどあるらしい。俺は数日間、彼の生活に密着した。




