第22話 陰謀
ルナリス神聖王国の宰相イザルド・ファーレンは頭を抱えていた。
二度にわたるセリーナ姫暗殺は失敗し、王国内を混乱させ国力を衰退させるという命もこなせていない。
隣国、ラジアン帝国からも催促が来ている。
彼らは莫大な資金をワシに提供する見返りとして、国内の混乱と衰弱を依頼してきた。
早々に成果を見せなければ彼らからの賄賂が打ち切られてしまう。金の力は偉大だ。ワシはまだまだ金が欲しいし、女も沢山買いたい。
だがこの暗殺未遂で、姫の近衛兵達も調査に踏み切り、いずれワシに辿り着くだろう。その前に手を打たなければ…。
今、目の前には王国内そしてルナリス教団内の人類至上主義派の者達が集まっていた。
ルナリス教の中での「人類至上主義派」と「全種族共存派」は、教義の解釈やルナリス神の教えに対する理解の違いから対立していた。
ワシはそこに目を付けた。彼らを煽り立てることで利用できると。「人類至上主義派」の彼らを煽り、「全種族共存派」のセリーナ姫の暗殺を確実な物にしてやる。ついでに、二度も暗殺の邪魔をした忌まわしいゴブリンも殺してくれるわ!
イザルドは椅子に深く腰掛け、目の前に並ぶ人類至上主義派の者たちを見渡した。彼の冷徹な視線が一人ひとりに突き刺さる。集まった者たちは、イザルドの一言一言を待つ静かな緊張に包まれていた。
「諸君、我が王国の未来がかかっている時だ。」
イザルドは、低く、重みのある声で語り始めた。その声には計り知れない陰謀と焦燥が込められている。
「我らが奉じる王が未だ健在であるにも関わらず、共存派などという愚かな考えを持つ者が、王位に手を伸ばそうとしている。そう、セリーナ姫がな。」
彼の言葉はまるで、姫の存在そのものが王国にとっての危機であるかのように響いた。小さなざわめきが一瞬広がるが、イザルドはそれを無視して続ける。
「諸君も知っての通り、彼女が次代の王として即位すれば、異種族との共存を名目に、この王国は崩壊の一途を辿るだろう。我々の民の安全が脅かされ、異種族による圧政に苦しむ未来が待っているのだ!」
イザルドの言葉に、人類至上主義派の面々は不安と怒りの色を露わにした。それを確認すると、イザルドはさらに声を低くし、あたかも秘密を語るように囁くような口調で話を続けた。
「諸君らも知っているだろうが、既に近衛兵どもが勘付き始めた。我々の立場はますます危うくなっている。…だが、今ならば手を打てる。我々が先に動き、王国の未来を救うのだ!」
イザルドは一同の顔を見回した後、決意を固めたように握り拳を示した。
「ワシの計画に従えば、姫を排除するのは容易い。我々はただ、この正義の行動に立ち上がれば良い。今こそ、行動を起こすべき時だ!諸君、王国を我々の手で守ろうではないか!王国の未来の為に!」
部屋の空気が揺れ、人類至上主義派の者たちは互いに顔を見合わせ、そして「王国の未来の為に!」と声を合わせ復唱した。イザルドはその様子を見て、心の奥底で冷笑を浮かべた。
セリーナ姫と城へ戻った俺は、とある一室に居た。近衛兵の待機所だ。
といっても城の他の部屋と然程変わりは無い。
そして今回、第一王女近衛隊のメンバーが集められていた。…が、俺含め4人しか居ないらしい。何処か遠出の際は他の兵を招集するので、普段はこの人数でも事足りるらしい。当然、一人一人の実力は本物だとセリーナ姫は自信満々に語っていた。
「ご機嫌様、近衛隊の皆さん。今日集まって貰ったのは新たなメンバーの顔合わせよ。既に知ってると思うけど、ゴブリンのシャドウです!
とても頼もしい方ですのよ?」
うう、やり辛い。
この部屋には俺と姫以外に3人いた。
1人は、女騎士のフェリシアだ。相変わらず俺を睨みつけている。今日も綺麗な太ももだ。
2人目は、ソファーに腰掛けている図体のデカい男?だ。フードを被っていて顔は見えない。
3人目は、白髪で平服の青年だ。唯一剣のみ腰に装備している。壁に背を預け腕を組み目を瞑っていた。こいつは俺と同じ匂いがするな。
「ええっと、今姫様より紹介ありました、シャドウだ。分からない事だらけだが宜しく頼む。」
俺が言い終えると、白髪の男が笑い出した。
「アハハハハハ!! 本当にゴブリンじゃねえか。しかも流暢に喋りやがる!
こんなので近衛兵が務まるのかよ、ギャハハハハ!」
「………。」
少しイラッとしたが我慢だ。相手の力量が分からない以上、こちらが大人の対応をしよう。
「アクセル。幾ら何でも失礼ですよ。
ルナリス教は種族間の壁に囚われずに共存の社会を望んでるはず。
それに、外見にとやかく言うなら私にも当てはまるのではないかしら?」
そう言うと、ソファーに座っている人物がフードを外した。
驚いた…なんと彼女はトロールだ。漫画やアニメでのイメージと違い、腹が出て太っていない……ただ図体がデカい。そして声色からして女性らしい。
「初めましてシャドウ殿。
私はグリーダと申します。見ての通りトロールですが、ルナリス教団の聖職者も兼任しております。お互いまだまだ生き辛い世の中ですが、頑張っていきましょう。」
そう言うとゆっくり頭を下げた。
見た目とは違い、温厚な人物のようだ。
「チッ、うるせー横槍が入ったぜ。
俺はアクセルだ。セリーナが連れてきたなら実力はあるんだろうが…。」
白髪の青年はアクセルというらしい。
口が悪いようだ。
最後に女騎士の方へ向くと、こちらを睨んだまま話し始めた。
「貴様には以前にも話したが、フェリシア・レイヴェルだ。本来ならこの城に居る時点で吐き気がするのだが、姫様の希望なら仕方ない。精々長生きする努力をするんだな。」
それだけ言うとそっぽを向いてしまった。
俺、嫌われすぎでは?




