第20話 ルナリス神聖王国2
謁見が終わると、ルナリス神聖王国第一王女
セリーナ•ルーンフォードと会食となった。
俺は気にしてないと言ったんだが、セリーナは気にしている様だ。謁見後にしきりに謝ってきたので会食に参加し1泊する事となった。
今からベットが楽しみだ。
「まさか父上があんな手段に出るなんて、信じられません!」
会食が始まるといきなりセリーナが口を開いた。先程の事が余程頭に来たのだろう。父親に対して怒り心頭だった。
「一国の主人があのような考え方だから、国がどんどん衰退するのです!貴方もそう思いませんか!?命の恩人にあのような真似を…。」
セリーナの愚痴は止まらない。
俺も城まで呼ばれた上、剣を突きつけられ良い気はしなかったが今は別だ。セリーナの話を真剣に聞きながら目の前のご馳走を食べ漁る。
多少日本人としての知恵があるお陰で、マナーはギリギリの様だ。同席している王女直属近衛騎士のフェリシア•レイヴェルは顔を顰めながら俺を見ていた。だが、俺の食事マナーに対して口を出してこない。
セリーナが少し落ち着くと俺は答えた。
「姫様、確かに驚きこそしましたが俺は怒っていませんよ。人間社会に俺みたいな者が来たら、あの反応は当然でしょう。」
「それがダメだと言っているのです!!
全く…、ここはルナリス神聖王国ですよ。
ルナリス教は全ての命を等しくとの教えなのに…。」
「その…ルナリス教というのは?」
いかん、セリーナの目がキラキラと輝き始めた。だが聞かない訳にはいかない。魔物の価値観も普通とは違う様だしこの際教えてもらおう。
「ふふ、よく聞いてくださいました。
やはり貴方もルナリス様のお導きなのですね…。
大変興味をお持ちの事でしょう。」
「………。」
俺は何も言わず飯を食べ続ける。聞く相手を間違えたか?
「ゴホン…。ルナリス教とは、月の女神「ルナリス」様を崇めています。人々は、月の女神ルナリスを敬愛し、日々の安全と豊穣を祈り求めます。ルナリス様は「夜の守護者」として暗闇の中でも光をもたらし、困難に立ち向かうための精神的支えの象徴となっているのですよ。」
セリーナは紅茶を一口飲むと続けた。
「また、ルナリス教は人間だけでなく、魔物も信仰を持つことで救済が可能であるという教えを持っています。この教義は、異種族や魔物と人間の間の調和を促し、共存社会を目指しています。このため…特に魔物にとって、ルナリス教は受け入れられる稀有な宗教でありますね。
如何でしょう?素晴らしい教えだとは思いませんか?」
なるほど、それでセリーナは俺のようなゴブリンでも受け入れているのか。まさかそんな宗教があるとは思わなかった。だが王や他の者の反応を見る限り、全ての人間が受け入れてる訳では無さそうだ。
説明を終えたセリーナがグイッと俺の目を覗き込んできた。急いで口の中の物を水で流し込む。
「す、素晴らしいと思います…。
ですが俺はゴブリンですし、明日には帰らねばなりませぬ故…。」
勧誘から逃げようとするが、セリーナは首を横に振った。
「大丈夫です。ゴブリンでも入信は可能ですし、私から1つ提案があるのですが…。」
ん?先程もこのような流れになったな?
まさかまた脅しなのか?
だが、この部屋には女騎士のフェリシアくらいしか武器を持ってる人間は居ない。
「私の近衛兵にならないかしら?」
「……はい?」
「セリーナ様!?
それだけはダメです!断固として反対です!
こんな者を側に置いておけばどんな災厄が降りかかる事か…。
殺人、強盗、強姦と何でもやりたい放題ですよ!」
フェリシアが立ち上がり抗議する。
んー、心外だ。俺はどちらかというと紳士なのだ。外見で判断してもらいたくない。
というか近衛騎士?? この姫様は頭のネジはぶっ飛んでいるのだろうか?
「私はとても貴方が気に入りました。こんなに知性あふれて流暢に話すゴブリンは見た事無いもの!
普通のゴブリンとは違う進化を遂げてるみたいだし。是非とも側に居て欲しいんだけど如何かしら?」
なんだろう。面白い動物が居たから飼いたいと言われてる様な気分だ…。面白そうな提案だが不安が大きい。どこまで信じて良いのか、何か裏があるんじゃないかと考えてしまう。
「…まさかこの提案を飲む訳ないよなあ?ゴブリン!!」
黙り込んでいるとフェリシアから怒号が飛んできた。
そうだよなあ、俺は可愛いペットじゃない。魔物だ。彼女達と住む世界が違う。大人しく洞窟へ帰り元の生活に戻ろう。
「…姫様、大変ありがたい御言葉ですが私には…」
「そーだわ!ルナリス教に入ると神聖魔法が使える様になるとか!そして、魔物の信徒にはルナリス様の加護で特殊な進化を果たした者が居るとも聞いた事があります!何より毎日ここで美味しいお食事を食べる事が出来ますわね!」
「こんな私で宜しければ誠心誠意努めさせていただきます。」
「…な!?貴様!!何で急に提案を受け入れているのだ!!セリーナ様も通販みたいな押し売りはやめて下さい!」
気付けば俺は近衛兵になる事を承諾していた。




