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第18話 来客

盗賊に襲われていた一行を救出後、洞窟に帰った俺は皆に状況を伝えた。


「そんな奴らほっとけば良かったんじゃないか?

まあ、結局助けてしまうところがお前らしいが。」


と呆れた様にチーフが言う。


「やはり不味かったか?」


俺は緊張気味に聞き返す。

自然の動物を保護しない方が良い様に、人間達にも関与しない方が良かったか…。

俺の問いにボスが答えた。


「いや、一先ずは大丈夫だろう。

お前の能力なら追ってくる事は不可能だし、わざわざゴブリン1体の為に軍を派遣する事も無いだろう。

関わらないのが一番良かったんだがな。

ガハハハハハ!」


「以後気をつけます…。」


それから数日、特に討伐軍らしき者は来ていない。たまに怪しい人影を見るが森を偵察しているだけの様だ。仲間に迷惑がかからなくて良かったと安堵している。


こっちの世界に来て急に忙しくなった。

今日は釣具でも作ってのんびりするか。

竿を作るのは簡単だ。

まず折れにくい枝を探す。枝はいくらでもあるので、直ぐに見つかった。次に糸だ。これは盗賊から剥ぎ取った服の布で代用する。最後に針だが、動物の骨から作った。なかなか良い感じだ。小さい魚しか狙えないがこういう気分転換も必要だ。


あ、重りが無いと針が沈まないな…と思い竿を作り直していると、アーチャーが話しかけてきた。少し変な顔をしている。


「おい、取り込み中悪いがお前に来客だ。」


「…来客??」


はて、この世界の知り合いは洞窟内の者だけのはずだが。

まさか奇襲アーチャーが帰ってきたのか?

それなら師匠アーチャーが来客なんて遠回しの言い方をする訳無いから違うな。

となると、この前の人間達か?  


「それは…人間か?」


「ああ、何人か居て武装している。こちらも応戦できる体制は取っているが、どうやらお前に話があるとの事だ。」  


「分かった、まずは話を聞いてみよう。」


アーチャーは頷き、俺は洞窟の入り口へ向かって行った。



洞窟前には、以前助けた隊長と複数の兵士、それと馬車があった。兵士達は既に剣を抜いて臨戦体制だ。まぁ無理もない。魔物の住処の前だもんな。それにしても一体何しに来たんだ?やはり俺達を討伐に来たのか?

俺の姿を確認すると、隊長がおおと声を上げた。


「やはり居られたか、我らの恩人よ。

突然の訪問、非礼をお詫びする。そして武装してる事をお許し下され。この辺は我々人間が生き抜くには辛い場所でしてなあ…。」


「何しに来たんだ?」


隊長の話を遮るように聞いてしまった。

だが、長々とした挨拶では用途が分からないのだ。御礼だけならさっさと帰って欲しい。

俺の後ろではアーチャーとチーフがいつでも援護できるように、神経を張っている。彼らの名でゴブリンの弓が一斉に射掛けられるだろう。


「こ、これは失礼しました。

申し遅れましたが私はガイウス・ハートフォードと申します。

ルナリス神聖王国、王直属軍隊長を任されております。」


ほほう、王直属軍の隊長さんなのか。

というか、ルナリス神聖王国?どこにあるんだそんな国。この世界でまた新たな疑問が増えたな。あとでボスに聞いてみるか。


「そうでしたか、俺の名は……。

失礼、特に固有名は無いもので、名もなきゴブリンです。それで今回はあの時助けた御礼という事でしょうか?

……それとも、危険なゴブリンの討伐に?」


俺が低い声で問うと、ピシッと周りの空気が凍りついた。相手の出方を見ていたがハッキリしないので、こちらから仕掛けてみたのだ。


「と、討伐とは、ご冗談を…。

この度は、以前助太刀頂いたお礼に参りました。何より姫様が直々に御礼申し上げたいとの事で、ここ数日貴方を探していたのです。姫様どうぞ。」


なるほど、最近の怪しい人影は彼らだったのか。 

ガイウスが命じると馬車を警護していた兵士が扉を開けた。中から可憐で金髪をした女性が降りてきた。年齢的に16か17ほどだろうか?


「まぁ!貴方が私達を救ってくださったね!」


彼女は俺の姿を視認すると全速力で駆け寄り、気づけば目の前で俺の手を握っていた。


「!?」


あまりの突然の行動に誰もその場を動く事が出来なかった。手を握られてる俺も呆気に取られていると、


「姫様お下がりください!!」

「そいつは得体の知れない魔物なんですよ!!」

「姫様に触れるとは…万死に値する!

隊長、奴を始末する許可を下さい!」


周りの兵士たちがギャーギャーと騒ぎ出した。

この構図でなんで俺だけ文句を言われるんだ?

最後の奴に関しては、僻みにしか聞こえないぞ。

姫はゆっくりと兵士達の方へ振り返った。


「アナタたち……、仮にもルナリス神聖王国の兵なのですわよね?

ルナリス様は全ての命を等しく考えておられます。魔物だからと差別するのでしたら、今すぐ首を切られてはどうかしら?」


先ほどと違い姫の声は低くなり、目から光が消えた。


「ガイウス…、この者達を即刻反逆罪として首を…」


「も、申し訳ございません!」

「ルナリス様の寛容なお考えに我々も熱く心を打たれております!!」


兵士たちが必死の形相で弁明すると、姫はふーっと息を吐き先ほどの笑顔に戻った。


「それなら良いのです。信仰を忘れてはいけませんよ。今回のようにルナリス様の加護を得られるのですから」


うーん、どうやらこの娘はそうとうヤバい感じがするな。どっぷり宗教にハマっている人間という感じだ。

だが、不思議な事に神聖さも感じる。俺が魔物だからなのだろうか?


「えっと…、あなた方を助けたのは単なる気まぐれです。

見返りは特に入りませんし、感謝のお言葉を頂いたので光栄です。」


姫は俺の言葉を聞いても微笑みを崩さず、静かに首を振った。


「そんな、何かお礼をしなくては私の気が済みませんわ。王も貴方に直接お礼を申し上げたいと仰っております。どうか、ルナリス神聖王国へお越し頂けませんか?王都で丁重にもてなす準備も出来ております。」


「いやいやいや、俺はゴブリンですよ!?

そんな格式高い場所へ行けるもんなんですか?きっと姫様にも迷惑がかかります。」


正直、人間の王国なんかに行けば、どれだけ寛容な者でも俺を討伐しようとするに違いない。助けたのは単なる偶然、深く関わるべきじゃない。


姫は驚いた様子も見せず、さらに説得を続けた。


「ルナリス神聖王国は他の国々とは違いますわ。私たちはルナリス教の教えに従ってます。そして、ルナリス教は全ての生き物を等しく扱うことが基本です。たとえ魔物であっても、信仰を持ち、良き行いをする者には門戸を開いております。貴方もルナリス様の寛容に触れてみませんか?」


「……」


俺は一瞬言葉を失った。神聖王国と言われてる国が本当に魔物に寛容なのだろうか?

どちらかと言えば魔!滅するべし!とか言ってそうなんだが。判断材料が少ない。俺はこの世界の知識があまり無い事を悔やんだ。

だがこのまま森に居ても同じだろう。実際に行ってみる方が、この世界の事をもっと知る事が出来るはずだ。いざとなれば「影」で逃げれば良い。幸い、俺の影は今のところチート級だ。森や洞窟であればまず負ける事はないだろう。

問題は遮蔽物が無い場所だ。夜間なら何とかなるが、昼間に砂漠のような場所で戦闘だと今のスキルとステータスでは心許ない。

だが王国なら幾らでも影はある。影に入る前にやられたりしない限り、逃亡は可能だろう。

それに、目の前の姫が嘘をついている様子は無かった。これが罠の可能性も捨てきれないが、その時はその時だ。


「そこまで仰るなら……分かりました。

ルナリス神聖王国へ参ります。」


「まあ!良かったですわ。

それでは明日迎えを寄越しますね。」


姫はもう一度深く礼をしてから、ガイウスと兵士たちを従え去って行った。


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