第16話 共同生活
俺達ゴブリンとコボルト達の共同生活が始まった。今の所大きな問題は無い。
コボルトは近距離戦が得意との事で未進化のゴブリン達の訓練をしていた。その成果かゴブリンファイターへ進化した者も出てきた。この集団で更に近距離戦用の兵士が増えたのだ。
その訓練には俺もたまに参加していた。
「はあ…はあ…、相変わらずお前の動きにはついて行けないな…シャドウよ…。」
以前門番だったコボルトはチーフへ任命された後、コボルトチーフへと進化していた。
毛の色が紫色になり、体格も他のコボルトより少し大きいようだ。
「うっ…ぷ…。お前も中々だぞ。チーフよ。」
と余裕ぶって答えた。正直かなり息を切らしているが、先輩感を演出したい。
「だが、進化の影響は凄まじいな。
コボルト達の攻撃は余裕で交わせるが、チーフ相手ではギリギリといったところか…。」
「それでもまだ1発と入れてないんだが?」
「ククク…闇の支配者である俺に当たる攻撃は無いんだよ。チーフ君。」
「なんだと??もう1回だ!!早く剣を持て!構えろ!」
こんな感じで訓練に励んでいた。
チーフとは仲良くなっていた。俺がボスへコボルトを生かすべきと進言し、更にゴブリン達と同等の扱いをするようにと進言したのも俺だからだ。おそらくアーチャーが話したんだな。余計なことを…。
その事を知ってからは、チーフや他コボルトはよく話しかけてくるようになった。まるでコボルト達のアイドルになった気分だ。メスコボルトの熱い視線を感じることもある。
夜が更け、訓練を終え洞窟へ戻っている時、近くの森林で剣と剣が交わる金属音が響いた。
戦闘音だ。他にも叫び声や怒号が聞こえ、遠くにはちらちらと松明の明かりが揺れているのが見えた。
「なんだ…?」
俺はすぐさま姿勢を低くし、木の影へ隠れた。
かなり距離はあるが警戒するに越した事はない。他のコボルトやゴブリンも同様に身を潜める。
「どうした?俺には何も見えないが、何が起きてる?」
俺の近くへチーフが来て尋ねてきた。
夜目が効かない彼らにあの松明の明かりは視認出来ないらしい。
「戦闘音は聞こえるな?俺の目には松明の明かりも見える。詳しい事は分からないが偵察に向かうべきだろう。」
そういうとチーフは頷いた。
「分かった。俺は偵察とか苦手なんだが、他のゴブリンを連れて行くか?」
確かに体の小さいゴブリンなら適任だが、数が多すぎてもバレるリスクが高まる。
「…いや、ここは俺だけで行く。幸い今は夜だから俺のスキルが完全に生きるんだ。ヘマはしないさ。」
「そうか、お前の事だから大丈夫だとは思うが…、何かあればすぐ逃げるんだぞ?
俺は先に帰りボスへ報告する。」
そう言うと、チーフは残りの部下を引き連れて洞窟へ向かって行った。安心して任せられる同僚が出来て頼もしい。
さて、俺も仕事をするとしますか…。
慎重に音の方向へと進んでいく。近づくにつれ、金属がぶつかり合う激しい音が増え、怒号や叫び声も聞こえ始めた。
松明の明かりの元にたどり着くと、そこには馬車が襲われている現場が広がっていた。場所は豪華な装飾で月の紋章が入っていた。こんな辺鄙な森に、あの装飾の場所が来れば盗賊達の恰好の獲物だろう。馬車だけでも凄い金額になりそうだ。
護衛兵たちと盗賊たちの数は五確の様だが、護衛兵たちは奇襲を受けたせいか、既に多くの者が倒れている。弓で射抜かれた者が多いな。
「さて……どうするべきか…。」
俺は戦況を見守りながら、どうするべきか考えた。まず今の俺はゴブリンだ。盗賊達を倒しても護衛の兵は俺を殺そうとするだろう。そしてその護衛兵を始末してはこの先厄介ごとになるのは目に見えている。強い魔物が居るとの理由で冒険者か兵団が攻めてくるだろう。俺は穏やかに過ごしたいんだ!そこまでする義理はない。
そして戦いに加われば、俺の存在が人間に知られてしまう。それがどう影響するか分からないが可能な限り避けた方がいいとは思う。
だが、そうこうしているうちに目の前で兵士たちが次々とやられていく…。
「くっ…! グァ!!?」
「隊長!!」
護衛兵は残り3人。盗賊達は勝利を確信し不適な笑みを浮かべる。
今の俺はゴブリンだ。このゴブリンの体は、人間が死のうが何とも思わない。だが、前世で人間だった精神面は人間のままだ。このまま殺されるのをこれ以上見過ごせない。
「くそっ!なるようになれだ!」
俺は影の中に飛び込んだ。
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