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第14話 降伏勧告

「ふ、ふざけるな!!」

「貴様ァ…、このまま生きて帰れると思うなよ!!!」


目の前で2体のゴブリンが俺に槍を向けている。


「やっぱりこうなるよなあ…。」


俺は頭を振りながらつぶやいた。


コボルトに無駄な温情を掛けたせいで、余計な仕事が増えてしまった。彼らの住処まで来て、降伏勧告をしているが、門番の2体は怒り狂っている。

何せ自分達のボスを暗殺し、混乱を起こした張本人なのだ。この反応は当然だろう。


「お前らはいいのか?このままだと全滅だぞ?

そもそもお前達が仕掛けて来た戦争なんだ。

犠牲が出るのは当然だろ…。」


「!??

何を言っている!! 貴様らが同胞を殺ったのが発端だろ!」


「薄汚い、卑怯共めが!!」


……あれ、バレてる?

いや、何も証拠を残してない以上、大丈夫だ。きっと…。


「……ほう。何か証拠でもあるのか?

それとも目撃者でも居るのか?」


大丈夫だ。奇襲は夜に絞っていたし、彼らは松明を使う。つまり夜目が効かないのだ。1体で居るところを襲ってる以上目撃者は居ない…。


「う、それは……。」

「…くっ、しかし、お前らしか考えられないではないか! 他に脅威となる魔物は居ない!」


きたきた。証拠も目撃者も何もないとみた。


「ほほーう、何だと? つまり…お前達は何の証拠も無く、俺達を犯人だと推定し進行して来たわけだな。これは我らも黙っては居れんぞ。

全員殺されかけた上に、仲間も死んでしまってるからなあ?!」


少し声を荒げると、コボルト2体はビクッと怯えていた。構えてる槍先が少し震えている。

根拠も無く、消去法で俺らと断定したみたいだが甘い。証拠が無い以上、こちらが正当だと主張出来る。


声を荒げたせいか住処の中から、生き残りのコボルトが出てきた。15体ほどしか居ないようだ。


「何を騒いで…、!?貴様は!!」

「早くそいつを殺すぞ!! ボスの仇だ!」


コボルト達が殺気立っている。

だが、よく見ると彼らは以前よりやせ細っている様に見えた。戦場から命からがら逃げ出し、住処に帰ったのは良いものの、常に俺達の襲撃が来るかもしれないと眠れない日々を過ごしていたのだろう。クマが酷い個体もいる。


「こりゃダメかな。」


諦めて引き返そうとした時、門番コボルトが声を上げた。


「ま、待ってくれ!!」


俺は足を止めた。…驚いたな、先程まで怒り心頭だったのに。


「…俺達が傘下に入れば、命の保障をしてくれるんだな?」


他のコボルトが、「お前!」「勝手に何を言っている!」と騒いでいるが、気にせずこちらを見ていた。


「その通りだ。俺がボスに提案した。他のゴブリンでお前達は殺すべきとの案も出て居るが、俺は有効活用すべきだと提案したのだ。ボスの感触も悪くない。

だが、俺との交渉が決裂した場合、お前達、いや、コボルトという種は消え去るだろう。」


「そうか…、アンタが提案してくれたんだな。

アンタを全て信用した訳じゃないが仲間達と話し合いたい。いいか…?」


「……うむ、いいだろう。但し3日しか猶予は与えない。

その間に返事を聞かせてくれ。」


そう言い残すと俺は影の中へ姿を消した。




「貴様!何勝手に話を進めてんだ!?」

「そもそも、奴はボスを殺したやつなんだぞ!!

信用出来ん!」

「そうだ! 今回も卑怯な手で我らを全滅する気だ!」


住処に帰ると一斉にヤジが飛んでくる。


「そうかもしれない。だが、彼方にはホブがいるし、先ほどの黒ゴブリンも強い。卑怯な手を使わずとも我らを殲滅出来るはずだ。」


「だが、傘下とはどう言う事だ!?

お前はコボルトとしての誇りを捨てたのか!

奴らの下に付くなど、断じて認められん!」


他のコボルトもそうだそうだと賛同している。

やれやれ、先ほどの話を持ち出すしかないか…。

もう一体の門番と顔を見合わせ、頷くと黒ゴブリンとの会話内容を話し始めた。


この戦の発端、そもそも同胞を殺したのはゴブリンなのか?確かな証拠は無く、目撃者も居なかった。

そして、自分達はこの一体を支配する為に侵攻したのではないか?

ゴブリンは正当防衛しただけで、非は我らにあると…。


先程まで怒り狂っていた者達は静まり返り、考え込んでいた。証拠は無いが犯人はゴブリンだと断定していた。

弱小なゴブリンに負ける事はなく、繁栄をする為に支配地域を広げようとしたという思いの方が大きかったのだろう。

同胞が殺されたと言う大義名分が曖昧だと分かった今、欲に目が眩み我々は戦争を仕掛けたのだ。俺もそうだ。まさかこんな事になるとは…。


「……奴らの意見を飲むしかあるまい。

どの様な扱いを受けるか分からんが、全滅よりマシだ…。死ぬ事より屈辱だがな。」


先程まで怒り狂っていたコボルトが静かに呟いた。この中で一番武闘派だったコボルトの発言により、武闘派の者達の反論する声は無く重々しく頷いていた。

そして、あちこちで啜り泣く声が聞こえた。

我々は負けたのだ……。

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