第13話 勝利の宴
コボルト達との戦いは、ほぼ圧勝に終わった。戦う意思のある者はすべて討ち果たし、逃げ出した残党に処理は今後決める事になった。俺は自分の作戦が成功し、ゴブリンたちを勝利に導けたことに安堵している。ほんの一歩間違えれば、ゴブリンの全滅もありえたのだから…。
モンスター同士の殺し合いにおいて、人間社会の常識が通用するかどうか不安だった。しかし、ボスもアーチャーも俺を信じてくれた。それが何より大きかった。彼らが信じてくれたからこそ、俺は自分の役割に集中できたのだ。ハイコボルトに近づき、一番油断するであろうタイミングを見計らい、仕留めた…まさに、ベストタイミングだっただろう。コボルト達は何が起こったか理解出来ない状態でゴブリンの突撃を受け惨敗した。
そして今俺達は、勝利の宴をしている。ゴブリンたちは肉や酒を手に取り、火の周りで騒いでいる。彼らは笑い声を上げ、手を叩きながら踊り出す。俺も少し離れた場所からその光景を眺めていた。
「おい、ユニーク!お手柄だったな!!今回の勝利はお前の活躍あればこそだ!
あのコボルト共のアホヅラを今でも思い出すなぁ!? まぁ無理もない、急に自分達のボスがやられたんだからな? …ガハハハハハハ!!」
「……。」
ボスの大きい手で俺の背中をバシバシ叩きながら話かけてくる。痛い……。
「それにしても、お前は何に進化したんだ?
肌は黒いし、俺の知らないスキルを持っているようだが…。」
酒を片手に、俺に弓稽古を付けてくれたアーチャーが聞いてくる。
「シャドウゴブリンというらしい。俺も初耳だ。
他にもホブやアーチャーの選択肢もあったが、例のスキルが強いと思ってな。」
「……なるほど。流石ユニークだ。考える事が俺達と違う。だがそのスキルのおかげで今回は勝利出来た。礼を言うぞ。」
「いや、皆から生きる術を教わったからこそだ…。正直この作戦も成功する自信は無かった。」
俺がそう言うとボスが笑い出した。
「ガハハハハハハ!確かにお前の案を聞いた時、唖然としたな。そんな事出来るなら皆んなやってるってなあ。…だが実際成功した、司令塔が消えるとあんなにやり易くなるとは思っても見なかったぜ。」
ボスは手に持っている肉にかぶり付き、そのまま咀嚼中に酒で流し込んだ。
「クゥ〜、たまらん。兎に角、お前のおかげでこんだけ生き残れた。今日は飲め飲め!!
肉もたらふく食うぞ、ガハハハハハハ!」
そうして、肉と酒を思う存分堪能し、夜は老けていった…。
「うぅ…気持ち悪い…。」
翌日は胸焼けと二日酔いで目が覚めた。
川で喉を潤し、ステータスを確認してみる。
戦闘が継続した為、レベルアップのアナウンスがよく聞き取れなかったのだ。
「よし、ステータスオープン」
名前: 不明
種族: シャドウゴブリン
レベル: 5
HP: 220
MP: 50
力: 80
敏捷: 190
知力: 85
スキル:•[短剣 Lv6]•[弓術 Lv6]•[ゴブリン語 Lv2]•[隠密 Lv4]
特技:•[影潜り Lv2]
称号: 闇の初陣者
「おお、レベルが5になってるじゃないか!
ステータスの上昇も大きい。」
ハイコボルトを倒した影響か、思ったよりレベルが上がっていた。そして上昇幅が凄い。ゴブリンの時とは大違いだ。
スキルもレベルアップし、「闇の初陣者」という称号も増えていた。中2は嫌いではないので、どんどん増えて欲しい。
まだ頭痛が治らないが、俺はボスの元へ来ていた。今後のコボルトの処遇を考えるべく幹部会だ。とは言っても、この場にいるのはボスと師匠アーチャーと、奇襲アーチャーと俺の4名だ。奇襲アーチャーは昨日の宴に顔を出さなかった。早く仲間の仇を討ちたいのだろう。殺意が満ち溢れている。
「さて、今後のコボルト共をどうするべきか…。
ボスはどのようにお考えですか?」
師匠アーチャーが場を仕切る。
恐らくこの集団で彼がNo.2なのだろう。
実力もあり、冷静で頭も切れるから適任だと思う。
「ふん、やつらが仕掛けてきたのだ。皆殺しにしても構わんだろう。
…だが、既に勝敗は決した。それに奴らの寝ぐらに行っても数体しか居ないのであろう?
その程度、オレは放置しても構わんと思うが皆の意見次第だな。」
意外だ。ボスなら根絶やしにするという意見だと思っていたのに。
「何を呑気な事を言ってるんですか!?
奴らは俺達を皆殺しに来たんですよ?
実際、仲間もやられた!
この落とし前はキッチリ命で払ってもらわねーと…。」
奇襲アーチャーは怒りを露わにして発言した。
彼は仲の良かったゴブリンを殺された、コボルト達を憎んでいるのだ。彼と同じ思いのゴブリンも中にはいるだろう。
「ふむ、お前のいい分は理解した。
さて、シャドウ。お前はどうなんだ?」
うーん、この後で非常に言いづらいし、正直コボルトがどうなろうが知った事ではない。
だが、恐らく今回のコボルト侵攻の発端は俺であろう。ハイコボルトは同胞の仇とか言っていたし、実際俺くらいしかコボルト狩は出来なかっただろう。
せめて救いの手は差し伸べてやるか…。
俺は深く息を吸い、ゆっくり吐き出した。
「…アーチャーの前で言い辛いが、奴らを有効活用するべきだと思う。」
「…ほう」
師匠アーチャーは頷いているが、奇襲アーチャーは、いきなり立ち上がった。
「てめえ! それはどう言う事だ!
奴らを皆殺しにした方が余程役に立つだろう!」
どうやら彼とは意見が合わないようだ…。
最初会った時も突っかかってきたし。
「奴らを手下にした方が便利だと言ってるんだ。ただ殺すだけでは何も意味が無いし、生かして利用すれば良い。こちらの減った戦力を補充でき、奴らの知恵と経験次第では俺達の更なる繁栄に繋がるかもしれないぞ?」
奇襲アーチャーが更に文句を言い出す前に、ボスへ提案した。
「ボス、彼らを味方に加える事が出来るなら、心強い前衛兵が出来るでしょう。近距離戦において、この集団でボスと俺を除けば、コボルトに太刀打ち出来る者はおりません。彼らの体格と能力を前衛で活かしつつ、ゴブリン達の特化した弓攻撃、遊撃、罠支援が加われば正しく鬼に金棒となりましょう。」
おおお…と師匠アーチャーが感心して頷いている。
「うむ……。それが実現すれば理想的だが…。
だが、奴らもオレ達の下には付かんだろう?」
…確かに、そこばかりは何とも言いようがない。彼らがこの提案を拒む可能性も大いにあるが、受け入れなければ…。
「ふっ、とりあえず交渉の結果次第だな。
勿論、提案者のお前が行くのであろう?
良い結果を期待してるぞ、ガハハハ!!」
………やっぱりそうなるの?




