第12話 奇襲
辺りがすっかり暗くなったころ、ゴブリン達が住む洞窟の前にコボルトの群れが集まっていた。その数32体。
途中幾度かゴブリンの襲撃があり、何体かやられてしまったものの、捉えたゴブリンを拷問し洞窟内の残りのゴブリン30体以下と判明した。
進化個体もホブが脅威なくらいで、残りのアーチャーや未進化ゴブリンは大した事はない。
コボルト達の士気は高く、もう時期この一体を支配出来ると興奮していた。
群れのボス、ハイコボルトが前に出て、洞窟入口のバリケード内にいるゴブリン達へ叫んだ。
「よく聞け!洞窟内の汚らしいゴブリンども!
お前達は、俺の同胞を殺しすぎた!!
その報いを今夜受ける事になるだろう!
我らの手によってな!」
ギャハハハハと群れのコボルト達が笑い出す。
「だが、俺も鬼じゃない! そこのボスのホブゴブリンの首を差し出せば、他の者の命だけは助けてやろう!」
もちろん嘘だ。ホブゴブリンは厄介な相手なので同士討ちで数を減らすのが狙いだ。
ゴブリン共は、卑怯で意地汚い奴らと聞いている。この話に乗ってくるはずだが…。
そんなハイコボルトの思惑とは裏腹に、洞窟の奥よりホブゴブリンが出てきた。チッ、仲間割れの様子は無しか…。思ったより結束は固いのか?
「悪いが、この一体は元々オレ様達のものだ!
どこぞの弱小兎にやられる筋合いは無い!
大人しく帰るなら、種の繁栄を約束してやるぞ。ガハハハハ!!!」
ギャハハハハと今度はゴブリン達が笑い出す。
「チッ、調子に乗りやがって!!格下の分際で…!」
そう言うとハイコボルトは群れの後方に下がり、そして叫んだ。
「やれ!!! ゴブリン共を根絶やしにしろ!!そして、皆…ゴロ……し……………。」
だが最後まで言葉を発する事は無く、ハイコボルトは倒れた。その背後に立っていたのは黒いゴブリンだった。
辺りは静まり返っていた。コボルト達は何が起きたが状況が分からずにいた。さっきまで喋っていたハイコボルトの首が斬られ、倒れている。そしてどこから出てきたのか黒いゴブリンが血の滴る短剣を握って立っていた。
コボルト達が唖然としている中、ホブゴブリンは叫んだ。
「今だ!!! 突撃しろ!!! ここで奴らを根絶やしにするのだ!!!!!
生きて返すな!!!」
そう叫び雄叫びを上げなら走り出すと、周りのゴブリン達も雄叫びを上げながら走り出す。
アーチャー含む、ゴブリン達も一斉に矢を射かけ始めた。
数体のコボルトが矢を受け倒れると、他のコボルト達も我に帰り反撃を始めた。
「ひ、怯むな!!相手はゴブリンだ!迎え撃つぞ!」
「待て! まずは、ボスを殺したあのゴブリンを打ち取れ!!」
「ここは撤退だ!一旦体制を立て直すぞ!
…って、お前ら!話を聞け!!」
コボルトは完全に混乱状態だった。
ボスが居ない今、指揮系統は無くなり各々が好きな事を言って纏まりが無い。
「こんなに指揮官を叩くのが有効だとはな…。」
作戦を立案した、シャドウゴブリンも戦場を眺めながら驚いていた。現役時代は上官が戦死した場合、次の階級の者が指揮を取っていた。だがモンスターがそんな事を決めてるはずもなく、未進化のコボルト達は同じレベルの言う事に耳を傾けるはずもなく、個々で行動をし始めた。
ある者は率先して戦い、ある者は逃げ、ある者は中途半端に逃げたり戦ったり…。
「うおおお!!! ボスの仇!!」
「死ねえ! ゴブリンめ!!」
その内の2体がこちらに狙いを定めたようだ。
以前の俺なら、太刀打ち出来ないだろうが今は違う。
「…ククッ。」
そう笑いを残すと影の中に姿を消した。
「!?」
「おい!今のやつはどこに消えた!?」
コボルト2体は目の前から急に消えたゴブリンを必死に探す。
無理もない。灯りのない夜の世界では、影に隠れた俺を探すのは至難の業だろう。
「くそ…、すぐに見つけて八つ裂きにして…、グハッ!?」
コボルトの背後に回り込み喉元を掻っ切る。
まずは1体。…ククク、手慣れた者だ。
「貴様!! いつの間に!? これでも食らえ!」
残りのもう1体が、槍を構える突進してくる。
だが、遅い。
俺はコボルトの槍捌きを何なく交わした。
以前は速さとパワーで圧倒されたが、進化後の今は違う。
「くそ!調子に乗るなよ!」
そう言い何度も槍を繰り出すが、交わす、交わす、交わす…。
コボルトは息が乱れて、大きく息を吸う瞬間を狙い間合いを詰めた。
「なっ!?」
そしてコボルトの胸へ短剣を突き刺す。
グァガ!?と変な声を出し、しばらく痙攣した後、コボルトは絶命した。
進化後の初戦闘だが、自分がこんなに強くなっているとは思っても見なかった。
あれだけ苦戦したコボルトをこんなに容易く…。
だが慢心はいけない、俺はまだまだ強くなりたい。
戦場を見渡すと、概ね勝敗は決していた。
未進化ゴブリン達が敵の注意を引きつけ、その隙をアーチャー2体と他のゴブリン達が仕留める。
そしてもう1体…、
「うおおおらああああ!!!」
「!? グハァ!」
…うちのボスだ。
木の大きさくらいある棍棒を軽く振り回し、コボルトたちを潰していく。
流石に多数のコボルトが相手だと苦戦していただろうが、烏合の衆となった今ではコボルトはただの的だ。潰された死体が複数散見される。
何体か逃げ出したコボルトも居るようだが、戦闘の意思のある者が残り10体ほど戦っていた。
俺は残りの経験値を狩り尽くすべく、仲間達の加勢に向かった。




