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第10話: 進化の余韻

「……ん、ここは……?」


ゆっくりと目を開けると、暗い洞窟の天井が視界に広がった。体を起こすと、思わず頭がふらつく。どうやら深く眠りについていたようだ。ぼんやりとした思考の中で、何をしていたのかを思い出そうとするが、記憶が曖昧だ。


「……俺、何してたんだっけ?」


目が覚めきらないまま、喉の渇きに気づいた。思考はまだぼんやりとしているが、とりあえず川へ水を飲みに行くことにした。


洞窟を出て、川へたどり着く。冷たい水が心地よい。顔を近づけ、川の水を一気に飲み干す。喉を潤しながら、何度もがぶがぶと水を飲み続けた。


「ふぅ…、うまい…。」


ひとしきり飲んだ後、両手で水をすくって顔を洗った。その瞬間、ふと水面に映る自分の顔に目が止まった。


「……ん?」


思わず目を見開いた。そこに映るのは、見覚えのある顔だったが、どこか違う。肌が以前よりも少し黒くなっている。薄暗い夜の闇に溶け込むかのようなその色合いに、ハッと胸が高鳴った。


「そうだ…俺、進化したんだわ…。」


一気に記憶が蘇る。コボルトを狩り続け、ついに進化可能なレベルに達した。そして選んだのは――シャドウゴブリン。冷静さを取り戻した俺は、自分の体を確認し始めた。


「身長が…伸びてる……。」


以前はせいぜい120cmほどだった自分の体が、今では140cm近くに成長している。手足も以前より太く、しっかりと筋肉がついているのがわかる。握った拳も以前より力強く感じた。


「これがシャドウゴブリン…か。」


肌の色は闇の中に溶け込むかのように黒く変わり、身長も筋力も大幅に向上している。体全体が軽く感じられ、動きやすさも増しているようだ。これなら、今までよりもはるかに戦える自信が湧いてくる。


「……悪くないな。」


体の変化を確かめながら、俺は新しい力に期待を抱いた。そしてステータスを確認してみる。


名前: 不明

種族: シャドウゴブリン

レベル: 1

HP: 160

MP: 30

力: 50

敏捷: 100

知力: 60

スキル:•[短剣 Lv5]•[弓術 Lv5]•[ゴブリン語 Lv2]•[隠密 Lv3]

特技:•[影潜り Lv1]


「…おおお!、これは思ったり凄いかもな。」


レベルは1に戻っているが、ステータスは大幅に上昇していた。進化先の説明にもあったように素早さと隠密に特化しているようだ。

スキルに関しては全然使用しなくなった「棍棒」が消えてしまっているが、他のスキルLvの上昇していた。そして今までは無かった「特技」の欄が追加され「影潜り」を習得していた。


「よし、早速使ってみるか。」


俺は足元に広がる自分の影を見つめ、意識を集中させた。すっと影が揺らめき、自分の体がその中に吸い込まれるような感覚が広がる。冷たい空気が肌に触れるような感覚が走った。


「……これで、どうだ?」


次の瞬間、俺は完全に影の中に溶け込んでいた。周囲の視界は不思議とそのまま保たれているが、外から見れば、俺の姿は影の中に隠れて完全に消えているはずだ。影の中に潜むこの感覚――自分がどこにも存在しないような、奇妙な感覚だが、自由に動くことはできる。

だが、周りから見れば影のみ移動しているように見えてしまう…。日中や明るい場所で容易に使用出来ないかもしれない。

影から一旦出ると、他の影に潜伏可能なのかを試してみる。近くの木の影に触れてみると、影が揺らめきその影へ潜伏する事が出来た。そして対象物内では完全に対象の影に溶け込んでいる為移動しても、周りから見たら分からないだろう。


「ククク…これなら……完全に気づかれないな。」


俺は影から抜け出し、再び川のほとりに姿を現した。冷たい水を一口飲み、ふと微笑んだ。これなら、どんな敵にも見つかることなく、背後に回り込むことができるだろう。

 


影の練習と体のチェックに没頭していると、突然、洞窟の方から誰かが走ってくる気配を感じた。振り返ると、仲間のゴブリンが慌ただしく駆け寄ってきた。息を切らし、目を見開いている。どうやら緊急事態らしい。


「オマエ、キンキュウ、イソイデカエレ。ミンナ、アツマッテイル。」


そう言い残すと、ゴブリンはまた走り去って行った。


「緊急……?何かあったのか?」


俺は急いで川から離れ、洞窟へ向かって走り出した。戻ると、洞窟内は普段の静けさとは打って変わって、ゴブリンたちが慌ただしく走り回っていた。あちこちで指示を飛ばす声が響き、緊迫した雰囲気が漂っている。


「これは……ただ事じゃないな。」


周囲の状況を把握しようと耳をすますが、断片的な情報しか聞こえてこない。何が起こったのか、まず状況を聞こうとした矢先、近くのゴブリンが俺に気づき、駆け寄ってきた。


「オマエ、コッチコイ。」


強引に腕を引っ張られ、洞窟の奥へと案内される。歩くごとに緊張感が高まっていく。何が起こったのかはわからないが、ただならぬ空気が漂っていた。


洞窟の奥には、ボスとアーチャーが待ち構えていた。アーチャーは落ち着いた様子で矢を確認しているが、その顔には険しい表情が浮かんでいる。ボスはホブゴブリンの強大な体を岩に預けていたが、目つきは鋭く、何かに対して強い決意を抱いているように見える。


「なんだ……?」


俺が近づくと、ボスがこちらをじっと見てから、重々しい声で言った。


「これで全員揃ったな。アーチャー、始めてくれ。」


「御意。状況を説明します。お前、そこへ座れ。」


俺は指示通り壁際に腰を下ろした。進化後にゴブリン語が上達したせいか、アーチャーの言葉が今まで以上に流暢に聞こえる。だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「一体、何が起きているんだ?」


「戦争だ。コボルトの連中が夕刻にも攻め込んでくる。数はおよそ40。今、俺以外のアーチャー2体と数体のゴブリンが威力偵察と妨害行為で足止めをしているが、そう長くは持たないだろう。その間に、こちらで防衛の準備を進め、作戦を決める必要がある。」


俺は驚いた。この世界に来てそこまで月日が経ってないうちに戦争に巻き込まれるとは…。


「……だが、なぜ俺がこの作戦会議に?」


ボスが少し頷いて言った。


「お前が進化個体だからだ。この集団ではオレとアーチャーの3体しかいなかったからな。その辺のゴブリンの知識じゃ役に立たないのは明白だろ?進化まで到達した経験と知恵が欲しい。」


俺は軽く頷いた。自分がシャドウゴブリンになったことを話すタイミングではなかったが、今はとにかく作戦を練ることが最優先だ。アーチャーが地面に簡単な地図を描き、説明を続ける。


「まず、奴らが攻めてくる場所はここ。洞窟の入り口から狭い通路を通らねばならない。ここで数の有利を失わせることができるはずです。私はそこに弓兵を配置し、狙撃で数を減らす算段です。」


「狭い場所なら弓での一撃は確実だな。ただ、それだけでは奴らを止めるには足りないだろう。」ボスが腕を組んで考え込んだ。


「オレの案は、入り口近くに罠を仕掛けることだ。罠に引っかかった奴らを即座に片付け、士気を下げる。問題は、その罠を仕掛ける者が必要だということだが……。」


アーチャーが頷き、俺に目を向けた。ボスも同じく、眼差しを向けてくる。


「お前、何か他に使える案はあるのか?」


俺は少し戸惑った。

確かにそれでも勝てるかもしれない。

だが、俺はより勝てそうな案を提示する事にした。リスクはあるし、作戦成功後どうなるか分からないが敵の指揮は崩れるはずだ。


「俺は………やつらのボスを狙おうと思う。」


「!?」 


「実は……俺には『影潜り』という新しい能力がある。影の中に潜り、気づかれずに移動できるんだ。自分の影にも潜れるし、他人の影を利用して近づくことも可能だ。」


ボスとアーチャーは驚いた表情を浮かべた。彼らはそんな力を持つゴブリンを見たことがないのだろう。


「なるほど……影の中に潜んで敵の裏をかくか。それなら、奇襲に最適だな。」

アーチャーがすぐにその利点を理解した。


「この能力なら、指揮をしてるコボルトを容易に葬れる…はずだ。あとは烏合の衆となったコボルト共を叩きのめす。」


「確かに。それなら、奇襲をかけることができる。あとは、残りのゴブリンたちに防御の陣形を敷かせ、オレとアーチャーとお前でコボルトの数を減らしつつ戦う形でいけるな。」ボスも賛同した。


俺は影潜りの力を使い、敵のボスを討ち取る役割を担うことになった。アーチャーは遠距離からの狙撃、ボスは前線での指揮。こうして俺たちはそれぞれの役割を決め、意見を交わしながら、最終的な作戦を固めていった。


「よし、これで決まりだ。お前の影潜り、期待しているぞ。」ボスが力強く言った。


「お任せ下さい。奴らを地獄へ叩き落として見せましょう!」

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