魔法獲得
「大丈夫?」
俺は目の前で眠っている少女にそう問いかける。
改めて見ると年齢は同じのはずなのに大人っぽい見た目をしている。
少女の部屋は年相応だった。可愛いぬいぐるみが置いてあったり、大きめの熊のぬいぐるみがあったりする。あの性格でこの可愛いぬいぐるみを持っているのは意外だ、と思っていると、少女が目を覚ます。
「んん、ん?ここは、私の…あれ、貴方は、は!?なんで私の部屋に!?変態!」
「ちょ!?待って、俺は君が気絶したから運んできただけなんだ!」
「この部屋はいつも鍵をしてるのよ。貴方が入れる訳がないわ!」
「へ?いや、でもここ、君のお父さん普通にここ入れてくれたけど。」
「お父さん?鍵なんて渡してないわ。」
「じゃあ、どうして。」
「…て!そんなことは良くないけど置いといて。変態!」
ひどい。ある意味戦闘狂の方がへんt「なにか?」すみません。
「コホン。まあ、今回はそういうことで納得するわ。でも、部屋、物色してないでしょうね。」
「するわけないだろ。初対面の女性の部屋を漁るまで飢えてない。」
「ならいいわ。それにしても、お父さんが鍵を?妙ね。」
そんな会話をしていると、背後の扉から気配を感じる。おそらく彼女のお父さん、この部屋の鍵を持っている容疑をかけられている人。
ガチャ
「どうだい?ハルカ、怪我はないか?」
ハルカ、というのはこの少女の名前だ。
「うん、怪我はないけど、お父さん。この部屋には鍵をかけているの。なのに、なんでお父さんはこの部屋に入れたのかしら?」
「たまたま、ドアが開いていたんだ。君が、鍵をかけ忘れたんじゃないか?」
「じゃあ、その手に持っている鍵は何?お父さん。」
「これは、そのぉ。」
明らかに声が小さく、弱々しくなってしまう。
お父さんは、娘が心配なんだろう。
強くても、七歳だ。心配するなというほうが無理がある。
「お父さん。私は別に、お父さんが嫌いなわけじゃない。その鍵を渡して。」
「……はい。」
お父さんは渋々鍵を差し出す。
とても悲しそうな顔をしているが、子供ならこういう時期が来るのも仕方ない。ちょっと早い気がするけど。
ふと、あたりが暗くなっているのに気づき、部屋にあった時計を確認すると、時針が五を指していた。
「そろそろ帰ります。今日はありがとうございました。今後もよろしくお願いします。」
「ああ、もうこんな時間か。すまないね。それにありがとう。娘と戦ってくれて。できれば今後もよろしく。」
「それと、俺の親父が君と、壊さんとで話したいことがあるそうだ。悪いけど、付き合ってやってくれ。」
「はい、わかりました。」
話とは何のことだろうか。やはりこの刀だろう。これはそれほどに希少な代物なのだろう。
そうして部屋を立ち去る。長い廊下と階段を通り、この家を出ようとすると、ハルカが走って追いかけてきた。
「ハァ、ハァ。今日は、ありがとう。楽しかったわ。」
彼女は一度呼吸を整え、俺に問う。
「ねえ、私、強かった?」
彼女との勝負は俺の勝ちだった。だから自信を失くしてしまったのだろう。
あの高度な魔法を剣士が使用するだなんて、相当な努力が必要なことだ。実際の戦闘も隙を逃さず、良い剣さばきだった。
「ああ、強かったよ。俺も危なかった。まさか、剣を折っても炎で刃を作るとは。」
「そう。ありがとう。少し、自信がついた気がする。次は、絶対負けないから。覚悟しておいて。」
「ああ。でも、次も俺が勝つよ。」
俺たちは固い握手を交わした。
ハルカのおじいさんに呼ばれ、いつも鍛えてる山の小屋を訪れた。
「おお。来たか。ほれ座りなさい。」
そう言われて座布団に座る。
「しかし、壊さんのお弟子さんはすごい逸材ですな。」
「はっはっ。そうでしょう。こいつは成長速度も速いもんで、まだ七つなのを忘れそうだ。」
「そういや、七つなら、もう学園に通わせられるんじゃないですか?」
「学園、ですか?」
俺は褒められていると小っ恥ずかしいので、学園について聞くことで少し話題を逸らそうとした。
「ああ。最近話題でな。なんでも、教育方法が他の学園とは違うらしい。厳しいがその分卒業生はかなり活躍してる。」
「そんな学園が」
「…正直言って、刃をそこに通わせるつもりはない。」
納得だ。というか、おじさんならそういう。その学園とやらに行くより、おじさんに鍛えてもらったほうが強くなれる。
「え!?そうなんですか。でも壊さんもずっとこの子育てられるわけじゃないでしょう?」
「それでも、だ。短い時間だからこそ、その間にこいつを、刃を鍛えたいんだ。俺の息子も強いが、教えるのには向いてないからな。その為にも、土台は作っとかないといけねぇ。」
おじさんも歳だ。そう長く無いんだろう。
鍛えたい。そう思ってもらえて、とても心があったまる。人に期待されるということはあまり無かったからな。
「そう、ですか。まあ、壊さんに鍛えてもらったほうが良いのはその通りですから。」
「刃。ここまで俺の気持ちを話してきたがお前を学園だとかに通わせるつもりはない。いまのところはな。だが、お前が行きたいというのなら…」
「おじさん。俺は、学園には行かないよ。おじさんの気持ちを聞いて、いままでの事も考えて、おじさんに鍛えてもらったほうが良い。それに、短いなら、その間くらいは、おじさんといたい。」
これは、俺の本心だ。俺は、もう師匠を捨てるつもりはない。絶対だ。
「ありがとう。なら、これからも厳しくしていくぞ。いいな?」
「はい!」
おじさんとはまだ長い付き合いになりそうだ。
「よかったですね。壊さん。ところで、刃くん。君はまだあの刀以外の魔法を覚えていないのだろう。」
「はい、そうですね。」
「そこで、だ。俺が魔法について教えてやろうと思ってな。どうだ?」
「是非、お願いします!」
魔法が使えるようになれば戦略の幅が広がる。氷と併用できればコンボができるかもしれない。
「壊さんも、それで良いですか?」
「ああ。こいつに魔法を叩き込んでやれ。」
「勿論、全力で叩き込みます。」
「刃も、さっさと覚えてくれよ?」
「任せて、おじさん。」
そうして、俺の魔法の修行が始まった。
「まず、その刀での氷の魔法。それである程度の感覚は掴めているはずだ。君は、昨日のハルカとの戦いでイメージができていた。それを利用して、まずは炎でも出せるようになろうか。」
「はい。師匠。」
炎のイメージ。はじめから剣だとか、形を作るのは難しい。まずは炎を出す。目の前の空間に。ゆらゆらと揺れながら浮かぶ炎を。
「ふん!」
ボワッと炎が発生する。イメージ通りのゆらゆらと揺れる炎だ。その見た目は美しい。きれいな炎だ。
「おお!こんなに早く、しかも強い炎を!見た目の美しさもある。こりゃ魔法の才能まで持ってるな。さすがあの2人の子だ。」
あの2人とは俺の両親のことだ。両親はいまこそ平穏に暮らしているが、若い頃は優秀な武士と魔法使いだったらしい。あの2人から教えを乞うのもいいかもしれない。
にしても、才能か。結局、俺は才能だけか。
いじけていてもしかたないので、次の魔法の練習に取り掛かる。
「次はその炎を大きく、球体にするんだ。火球、というやつだ。」
そう言われ、先ほどの感覚と、球のイメージをする。炎を大きく。
さすがにただ炎を出すのとは訳が違うのか、少し時間がかかるが、なんとか成功する。
「おお!これは、なんという大きさだ!魔法使いでもないのにこの魔力!長いこと生きてきたが、ここまでの者はあまりいなかった、これはすごいぞ。」
と興奮気味だ。うむ、この人ほんとにおじさんと同年代か?おじさんに比べて元気があり過ぎる。タイプが違うだけか?俺は訝しんだ。
「ありがとうございます。でも、この火球のサイズは余り大きいとは言えないのでは?」
そうだ。今目の前にある火球はせいぜい直径10センチ、とても大きいとは言えない。
「違うんだよ。火球の中に凝縮されているんだよ。この炎を解放したら、この山を燃やせるかもな。ハッハッハ!」
「いや、冗談やめてくださいよ〜。この火球にそんなことができるはず…」
ない。と言いかけたとき
「ああ、さすがに山を燃やせるは言いすぎた。だが、あまり遠い話でもない。いいか、刃くん。その力の使い方には気をつけるんだ。適当に扱ってはいけない。」
「はい。」
「なんてな。そんな辛気臭い顔しないでくれ。大丈夫だ。お前がそんな使い方しねぇってのはわかってるからよ。」
はい、と返事をする。けど、俺の力は思っている以上に強大らしい。おじさんはこれも見抜いて学園には送らなかったんだろうか。
その後は炎で複雑な形を作ってみたりなどして魔法
を試した。
「ただいま〜」
「「おかえり」」
俺は我が家に帰り、今日の出来事について両親と話す。魔法を会得したことなどだ。
「えっ!?うそ、そんな魔法も、もう使えるの!?」
「そうか、頑張ったな。並の奴にはできないことだ。」
両親は互いに顔を見合わせる。
息子の目の前でキスでもするのかと、すぐに顔を背けられるように構える。
が、そういう訳ではないらしい。互いに頷き合い、こちらを向き、タイミングを揃えて
「「やっぱウチの子天才!!」」
とそう言うのだった。




