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4. 侯爵夫人と話をしました

「よく来てくれたわね。私はフリージア・セインジャー。現セインジャー侯爵の妻で、アレンの母親よ」


 フリージア様の髪は淡い栗色で、アレン様は黒髪と髪色こそ違うものの柔和な笑顔はよく似ている。

 それにしても……フリージア様はアレン様の姉と言われても信じられるくらいに若々しい。


「お初にお目にかかります。クラリス・シーヴェルトと申します」


 私は7歳までに覚えたカーテシーを初めて人前で披露する。

 何せ10年間下女のように扱われてきたから、社交場はおろかデビュタントさえも済ませていないのだ。


「まあ、まあ!可愛らしいお嬢さんね!……シーヴェルト子爵家にこんな可愛らしいお嬢さんがもう一人いたなんて……知らなかったわ?」


 フリージア様は含みを持たせた言い方をする。

 彼女が何を言いたいのかは分からないが、とりあえずニッコリ笑ってスルーしておくことにする。


「とにかく、お座りになって?」


 勧められるままにテーブルに着席すると、すぐに脇に立っている侍女がお茶を淹れてくれる。


「クラリス、と呼んでも構わないかしら?私のことはフリージアと呼んでね」


「はい。構いません、フリージア様」


 私がそう言うと、フリージア様は満足そうに微笑む。


「ああ、嬉しいわ!私、あなたのような可愛い娘が欲しかったのよね〜」


 思わぬ言葉に、私は紅茶を噴き出しそうになる。


「む、むすめ……ですか?」


「そうよ〜。うちには4人息子がいるって話は聞いた?」


 私は首肯する。

 確か、アレン様は四男だと自己紹介の時に言っていた。


「結婚してから長男のディディエが生まれて、それから翌年もそのまた翌年も子を産んだの。どうしても娘が欲しくてさらにその翌年にも子を産んだのだけど、アレンが生まれた時点でもう諦めたわ。男の子4人の子育てで子を産むどころじゃなくなってしまったしね」


 何と、4人兄弟は年子らしい。


「だからこうやって女の子が我が家に来てくれて嬉しいのよ!我が家の男たちはどうも唐変木でね。なかなか良い出会いがないみたいなのよね〜」


 アレン様が唐変木……。

 エスコートもスマートで、とてもそんな風には見えなかったけどな。

 私がぼんやり考えごとをしながら視線を遠くにしていると、いつの間にかフリージア様が心配そうに私の顔を見ていた。


「……クラリスは大変な目にあったわね?自分のミスなのに少女をさっさと追い出すなんて、ガルドビルド公爵は噂通りの御人みたいね」


「閣下の噂……ですか?」


「ええ。公爵はあの見た目でしょう?それでもあの歳までご結婚なさらないのは、女性が苦手で避けているからと言われているけれど。……実際は、朴念仁すぎて女性の方に逃げられるらしいわ」


「えっ?」


 つい数時間前に私を不機嫌そうに見つめていたアイスブルーの瞳を思い出す。

 あれだけの美丈夫で、宰相という肩書き。

 さらに公爵という高貴な地位をもってしても逃げられるとは俄かに信じ難い。


「……公爵夫人に見合うような高位の女性はね、案外地位や見た目に惑わされないものなのよ。高位の女性には皆断られてしまったから、釣り合いの取れない子爵家に求婚状を出したのでしょうね」


「……でも、閣下は私の顔を見てはっきりと『君ではない』と仰ったのです。だからどこかで義姉と出会ったのだと思うのですが」


 私の話を聞いて、フリージア様は首を傾げる。


「あなたの義姉というのは、イベリン嬢のことでしょう?『春の妖精』だとか言われて下位貴族に持て囃されているという。……一体どうして閣下はイベリン嬢の名前を『クラリス』だと勘違いしたのかしら?

 それに申し訳ないけれど、シーヴェルト子爵家に『クラリス』というお嬢さんがいたことを私は今回初めて知ったのよ。閣下はどうしてそれをご存知だったのかしら?」


 フリージア様の疑問は尤もだ。

 私は一度も社交界に顔を出したことはないし、家族扱いもされていなかったので義家族は私のことを口外したことはないはずだ。


「……義姉は、仮面舞踏会などでは『クラリス』と名乗っていたようです。『イベリン』のイメージを保ちつつ、派手に男遊びをするために」


 私がそう言うと、フリージア様はあからさまに顔を顰める。


「まあ……。普段から男性を侍らせて喜んでいる程度の低い方だとは思っていたけれど、まさかそれ以上に下品な方だったとは……」


「だから、そういう場で閣下は義姉と出会ったのではないでしょうか?」


「仮面舞踏会で仮面を外すということは、つまり()()()()()だものね?……ああ、穢らわしいわ」


 フリージア様はさらに顔を顰める。

 私はそのフリージア様の様子を見ながら、何となく笑いが込み上げる。

 だって、私以上に怒っているんだもの。

 私の緩んだ表情を見て、フリージア様も顔の強張りを解く。


「……閣下はとことん人を見る目がないようね。イベリン嬢なんかよりもよっぽどクラリスの方が美しいのに」


 フリージア様の言葉に、私は目を見開く。


「いいえ、そんなことはありません。私は10年間下女として過ごしてきましたから、体はガリガリだし肌も髪もガサガサです。磨き上げられた義姉と比べれば塵芥も同然でしょう」


「あら、クラリスは私の審美眼が信用できなくて?……いいわ、私はあなたを徹底的に磨いてイベリン嬢なんか足元にも及ばないミューズに仕立て上げるわ!!」


 そう言って鼻息荒く立ち上がるフリージア様を、私はぼうっと見つめる他なかった。




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全24話で完結。

毎日7時と17時に更新。

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【お知らせ】

拙作『義姉と間違えて求婚されました』が4/18に小学館ガガガブックスfより書籍化されます!
web版より大幅加筆しておりまして、既読の方も楽しんでいただける内容となっております。
こちらもぜひチェックをお願いします!

i948268
― 新着の感想 ―
[気になる点] 1/25 1. 義姉と間違えて求婚されました 「短い間でしたが大変お世話になりました。それでは」  そう言って恭しくカーテシーをすると、私は応接室を出た。 4/25 4. 侯爵夫人と…
[気になる点] >私は7歳までに覚えたカーテシーを初めて人前で披露する。 1話目で公爵との別れ際にカーテシーをしていたので、初めてではないのでは?
[一言] うっわ公爵クズじゃん
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