24. きっと幸せになります
11/21 感想で複数指摘いただいていた敬称を修正しております。
↑誤字脱字報告で一つ一つご指摘くださったお優しい方!!誠にありがとうございました!!
あの夜会から3ヶ月後。
私の18歳の誕生日に、私とアレン様の婚約披露パーティーが開かれた。
あれから私は子爵家を継ぐための勉強を始め、同時にセインジャー侯爵家の助けを得ながら子爵邸の改装、いつも陰で私を助けてくれていた執事のピーター以外の使用人の一掃、クラナガンの悪行により傾いた事業の立て直しに取り組んだ。
クラナガン一家が好んだ華美で悪趣味な調度品は売り払って、私好みの上質だが落ち着きあるデザインのものに統一した。
結婚するとアレン様が子爵家に婿入りする形になるので、婚約披露は子爵邸にて行われた。
王太子殿下の訪問以外は、セインジャー侯爵家と繋がりのある貴族、また亡き父と懇意にしていた貴族や事業で協力関係にある人たちを招いたアットホームなパーティーとなった。
「3ヶ月で子爵邸も見違えたものだね」
パーティーの前に屋敷を訪れた王太子殿下を応接室に招き、お話をする。
殿下はクラナガン家の罪状調査のために、改装前の子爵邸に直接訪れたことがあったのだ。
「あんな趣味の悪い屋敷に住みたくありませんでしたから。……ところで、殿下。何かご報告があっていらしたのではないですか?」
アレン様が淡々と尋ねると、殿下は肩を竦める。
「今日は純粋に君たちの婚約を祝いたいと思って来たんだよ。……報告はそのついでさ」
それから、殿下はあの後の出来事を話し始めた。
夜会の後に一般牢に収監されていたクラナガン家の面々は、平民ながら貴族相手に犯罪を犯したために、貴族裁判にかけられた。
罪状は爵位乗っ取り未遂、王家に任ぜられた職務を怠った罪、貴族に対する虐待行為など、どれも即刻首を刎ねられてもおかしくないものだった。
しかしクラナガン家が10年もの間シーヴェルト子爵家の財産を食い潰したことを鑑み、すぐに処刑するのではなく、無期限の囚人労役刑に処して収入分を全てシーヴェルト子爵家に返還させるという判決が下された。
既に元義父と元義兄は辺境の鉱山に、元義母と元義姉は鉱山に併設された作業員用の娼館に送られているという。
なぜこうやって王太子殿下がわざわざ報告をしてくださるかというと、私は裁判に参加しなかったからだ。
もちろん証言は全て調書を取ってもらって証拠として裁判に提出したし、裁判官には厳しい処罰を嘆願した。
裁判に参加しなかった一番の理由は、クラナガン家の人たちと二度と顔を合わせたくなかったから。
私の顔を見れば、追い詰められたあの人たちは私の温情を乞うて縋ろうとしたはずだ。
もちろん直接文句を言ってやりたい気がなかったわけではないが、私が顔を見せないことこそが彼らの唯一の希望を奪う最も良い方法だと思い至った。
その思いを聞いたらアレン様は幻滅するかなと思ったが、私の決断を聞いて、アレン様は笑っていた。
「それで良い。復讐心に囚われるより、私と歩む明るい未来を楽しみにして生きてほしい」
そう言って、頭を撫でてくれた。
「裁判にクラリス嬢が出席しないと聞いた時の奴らの絶望に染まった顔……くくっ、思い出すだけで笑えるよ。クラリス嬢の予想通り、君に泣きついて刑を軽くしてもらう算段だったのだろうね」
裁判のことを思い出しながらくつくつと笑う王太子殿下は、割と良い性格をなさっていると思う。
アレン様の1つ歳下だそうだが、未だ婚約者が決まっていないのも頷けるような……。
流石に不敬なので口には出さないけれど。
◇
婚約披露パーティーが終わり、今日から子爵邸で暮らすことになる。
引き続き侯爵家で指導を受けるため、週に3回はセインジャー邸に顔を出す予定なのだけど。
湯浴みを済ませて夜着にガウンを羽織った楽な格好のまま、サロンでアレン様と2人の時間を過ごす。
「お疲れ様、クラリス。色んな人に会って疲れたんじゃないか?」
暖炉の前のソファに寄り添ってホットミルクを飲みながら、アレン様が頭を撫でてくれる。
「そうね……疲れたけど楽しかったわ。この3ヶ月は本当に忙しかったから……やっとゆっくりできるね」
慌しかった3ヶ月が過ぎ、ようやく得られたゆったりとした心地良い時間に安心して身を委ねる。
「私としてはこの3ヶ月、クラリスが他の男に目移りするんじゃないかと気が気じゃなかったよ」
アレン様は私の頭を撫でながら引き寄せ、肩に頭を乗せる。
夜会の日にアレン様が言った通り、私が子爵を継ぐことが公になって以降、たくさんの釣り書きが送られてきた。
爵位を継げない貴族家の次男や三男からすると、子爵家への婿入りは余程魅力的に見えたらしい。
「目移りなんかするはずないわ。彼らが見ているのは私自身じゃなくて爵位だもの」
「……クラリスは自分が周りからどう見られているかを全く分かっていないな。まぁ、分かる必要もないが。そのまま私からの愛だけを信じていてくれ」
そう言って、アレン様は私の額にキスを落とす。
……そういえば。
あの夜会の後、一度だけオスカー様と対面した。
初めて会った日に、話も聞かずに追い返したことを謝られた。
特に傷つきもしなかったし、あの出来事があったからアレン様と出会えたわけだから謝ってもらう必要はなかったのだけど。
オスカー様は「自分はつくづく女性を見る目がない」と項垂れていて、あまりに可哀想だったからすぐに謝罪を受け入れた。
それまでは積極的に縁談を探していたオスカー様だったが、あの一件で妻探しを諦め、後継は祖父を同じくする傍系家門の有能な子供を養子に取ることにしたようだ。
あれだけ見目も整っていて、有能で、大変高貴な方なのに勿体ないことだ。
「もしかして他の男のことを考えてる?」
暖炉の中の炎を見ながら色んなことを思い出していると、アレン様が顔を覗き込んでくる。
「漸く私が婚約者だと胸を張って言えるようになったが、結婚まであと一年か……。クラリスが余所見しないようにしっかり捕まえていないとな」
そう言うと、今度は唇に優しいキスが落ちてくる。
アレン様はいつも心配するけれど、余所見なんてするはずがない。
だってあのたくさんの釣り書きの中に、私が苦しかった時に手を差し伸べてくれた人は一人もいない。
私を救ってくれたのは………アレン様だけ。
だから私はアレン様の手を取って一生離すことはない。
2人で手を取り合っていれば、どんな困難も乗り越えられると信じているから。
アレン様の腕に包まれてうつらうつらと眠りに誘われていると、横抱きにして抱き上げられる。
どうやらこのまま寝室へ運んでくれるらしい。
私はアレン様の首に手を回し、ギュッと力を込める。
今この瞬間の幸せを噛み締めながら、アレン様の厚い胸板に顔を埋めた。
〜 完 〜
11/18日間総合2位!ありがとうございます♡
11/19日間総合初の1位をいただきました!驚愕∑(゜Д゜)
〜あとがき〜
クラリスの物語にお付き合いいただき、ありがとうございました!
たくさんの⭐︎、いいね、感想をいただき大変励みになったし嬉しかったです!!
この作品は本当は短編を書く予定が、色々と冗長になってしまいました〜。
書いては中断し、書いては中断し……。
何とか最後まで書き上げたので、公開供養させていただきました(o-_-o)
他にも書きかけの物語が多数……笑
できるだけ日を置かずに新作上げられたらと思います!
またどこかでお目にかかりましたら、よろしくお願いいたします!
★感想、いいね、評価、ブクマ★
いただけると嬉しいです!
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★2025.3.4追記★
このたび、本作が小学館ガガガブックスfより書籍化されることとなりました!
2025年4月刊行予定です。
書籍化にあたり大幅に加筆しておりますので、今作をすでにお読みの方もそうでない方も、ぜひご覧くださいませ!
そしてそして!
なんとなんとコミカライズも進行中!
詳細はまだ言えませんが……クラリスが超可愛くて、アレンが超かっこいいです♡
ご期待ください(^^)





