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1. 義姉と間違えて求婚されました

★2025.3.4追記★

このたび、本作が小学館ガガガブックスfより書籍化されることとなりました!

2025年4月刊行予定です。

書籍化にあたり大幅に加筆しておりますので、今作をすでにお読みの方もそうでない方も、ぜひご覧くださいませ!


そしてそして!

なんとなんとコミカライズも進行中!

詳細はまだ言えませんが……クラリスが超可愛くて、アレンが超かっこいいです♡

ご期待ください(^^)


「……求婚相手を間違えた。私が望んだのは君ではない」


 目の前のソファに居丈高に座るベージュブロンドの美丈夫は、その氷のようなアイスブルーの瞳を不機嫌そうに細める。

 私は俯いて、くすんだドレスに包まれた膝の上で丸めた手のひらにギュッと力を込める。

 やっぱり、私を受け入れてくれるところなんてどこにもなかったんだ………。

 意を決して顔を上げ、私は口を開く。



 私───クラリス・シーヴェルトは子爵家の一人娘としてそれは大切に育てられた。

 しかし7歳のとき両親が馬車の事故で亡くなると、子爵を継いだ叔父家族によって自由や権利を奪われ、狭い納屋に押し込まれ下女のような生活を強いられた。


 叔父にはアラスタという名の息子とイベリンという名の娘がいるのだが、このイベリンは艶やかなハニーブロンドに薄紅の瞳と何とも愛らしく可憐な容姿をしており、社交界では『春の妖精』などと称されている。

 しかし公式な場では可憐な令嬢を演じているものの、その内面はただの男好きの尻軽女である。

 仮面舞踏会などでは派手な男遊びをしているようで、どうやら一夜の相手には私の名前を名乗っていたらしい。


 そしてそれを真に受けて「クラリス・シーヴェルト」に求婚してきたのが、目の前の美丈夫だ。

 目の前に座るベージュブロンドの男性はオスカー・ガルドビルド公爵。

 弱冠34歳にして宰相に任命されてご多忙のため、婚約前にシーヴェルト子爵家を訪れることはなかった。


 高位貴族から貧乏子爵家にきた縁談だ。

 義父である叔父は何度もガルドビルド公爵家に「本当にクラリスですか?イベリンではなく?」と聞いたのだが、「クラリスで間違いない」と返されて不承不承ながら私を公爵家へ送り出したのだ。

 公爵家へ送られる朝の義母とイベリンの射殺すような視線は凄まじかった。

 それはそうだろう。

 下女扱いして見下していた従姉妹が格上の貴族家に請われて嫁ぐのだから。


 しかし彼女らの心配は杞憂であった。

 本当に花嫁に請われていたのはイベリンだったのだから。



「……そうですか。それでは、閣下の想い人は義姉のイベリンでしょう。彼女は夜会で私の名前を名乗ることがあったようですから」


 私がそう返すと、オスカー様は眉根を寄せる。


「イベリン?……『春の妖精』か?」


「左様でございます。私との婚約は破棄していただいて、イベリンに再度求婚なさるとよろしいかと思います」


「そうか、分かった。クラリス嬢、わざわざ来てもらったのに悪いが子爵家へ戻ってもらえるだろうか」


 そう言われるなり私は立ち上がり、滑らかな足取りで応接室の入り口へと移動する。


「短い間でしたが大変お世話になりました。それでは」


 そう言って恭しくカーテシーをすると、私は応接室を出た。

 低頭から顔を上げた時、オスカー様は驚いたように目を見開いていたけれど引き止められることはなかった。

 「お世話になった」などと嫌味を言ったけれど、私はオスカー様の正式な婚約者としてつい2時間ほど前にこの公爵邸に入ったばかりだ。

 いただいたものといえば、応接室で出されたお茶ぐらい。


 笑顔で家令に応接室に案内してもらったのとは逆の道順を辿り、一人で玄関に到達する。

 王都のタウンハウスだというのにお城のように広い公爵邸だが、幸いにも玄関まで迷うことはなかった。

 そして玄関のドアを開けて出ようとすると、後方から「ご令嬢!」と声がかかり、振り返る。


「お一人でどちらに行かれるのですか?護衛の者は?」


 歳の頃は20代そこそこほどの黒髪の若い騎士が走り寄ってくる。


「用が済みましたので帰ります。護衛は元々おりません」


 私はそう言って会釈し、玄関から出ようとする。


「それでは私がお送りいたしましょう。どちらに帰られるのですか?」


 騎士にそう聞かれ、私ははたと動きを止める。

 どこに帰る?

 私には帰る場所などないではないか。

 もともと公爵邸にも荷物も持たず身一つで来たのだ。


「……どこに帰りましょうか」


 ついそんな言葉が口をついて出るが、言葉を発してしまってから我に返る。

 騎士は少し驚いたような、訝しむような顔で私を見下ろしている。


「あっ、すみません。ご厚意だけ受け取ります、お気になさらず」


 私はそう言って今度こそ玄関を出た。




★感想、いいね、評価、ブクマ★

いただけると嬉しいです!


全24話で完結。

毎日7時と17時に更新。

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【お知らせ】

拙作『義姉と間違えて求婚されました』が4/18に小学館ガガガブックスfより書籍化されます!
web版より大幅加筆しておりまして、既読の方も楽しんでいただける内容となっております。
こちらもぜひチェックをお願いします!

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― 新着の感想 ―
冒頭から胸がつまります  クラリスに幸あれ
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