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ホワイト・アウト  作者: ニソシ
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05.ブルーディゾルブ

 次に黒野達が足を踏み入れた部屋。中央には処刑用の断頭台が設置されている。この部屋の扉に取り付けられているプレートは紫色だった。


「本当にここに来て良かったのかい? 新田さん」


 久保田が質問を投げかけた先は、断頭台まで近づいていったボブヘアの女性、新田 紫音(にった しおん)。“紫”のプレートの扉という事は、彼女を刺激するようなゲーム内容だという事。


「結局、プレートのある扉以外は全部閉まっていましたし。他に行くところはない。危険があったとしてもこうして手がかりを探さないといけないですよ」


 全員が部屋に入っても、出入口の扉が閉じられる事はなかった。今回のものは強制的に開始させられるゲームではない。新田をはじめとした参加者に委ねられていた。


「あ、危ないよ紫音ちゃん」

「ももかは少し黙ってて」


 平 桃花(たいら ももか)に心配されつつも一人で断頭台を調べ始めた新田。協力行為が黒幕の逆鱗に触れてしまうのならば、ここで手を貸してしまえばまた死人が出るのかもしれない。その疑いもあり慎重に、遠目で見るだけに留まった。

 断頭台は所謂ギロチンで、上から落ちてくる刃で首を切り落とすタイプだ。ただこれが部屋の中にあるだけで脱出の手がかりは見つかっていない。


「何か見つけたか?」

「いや、なんにもないですよ……」


 黒野が問いかけるも進展はなし。人を殺すだけの装置があるだけの部屋。“協力”が禁じられていると思われるゲーム。新田と黒野は勘づいた。


「これで、この中の誰かを殺せと……?」

「それ以外の用途が今の所見当たらないな」

「例えば自分以外の全員を殺したら外に出られる。そんなありがちな生き残りゲームだとしたら、閉鎖空間でそれぞれに武器を持たせてやればいいですよね……意図が読めません」


 今の状況で他の参加者を殺すメリットは一切ない。“協力”を極力避けなければならないのは分かっているが、ただギロチンのみが用意されているその真意は読めない。


「他の部屋に行くぞ。何かが起こっている様子もない、扉も閉められていない。ここに留まる理由もない」


 無駄な時間を過ごしたくない黒野は割り切って部屋を出ていく。久保田と平も後を追った。しかしギロチンを調べていた新田と、様子を見ていた蛎灰谷かきばやは立ち止まった。


「新田、でいいんだよな。久保田の予想通りならこの部屋はお前をターゲットにしているはずだ。何か心当たりはないのか?」

「……私はマジシャンです。なので何か仕掛けがあるのかと探しましたが、何も。単なる処刑道具でした」

「そうか。ますます謎が深まるな……そういえば、平って奴とは知り合いなのか?」

「ええ。ももかちゃんはYouTuberです。中学の頃からの付き合いで、私も時々出演してますよ?」

「YouTuber……俺の知らない世界だ」


 何も手がかりはない、という手がかりを得た蛎灰谷達は部屋から去っていった。ギロチンが置いてある部屋など二度と入りたくはない。だが再びここに来なければ脱出は果たされない。残虐なゲームの本番はこれからだった。


 次に開かれた扉には青いプレートがあった。この部屋を選んだのは久保田。名前が“青輝”の彼自らが開けていた。


「今度は僕が」

「お前もなかなか肝が据わってるな」

「これでも戦場カメラマンです。危険はできるだけ回避はしますが、どうしても避けられない時もあります。それに黒野さんも動揺してないじゃないですか。“黒い”プレートは見つからなかった。何故か貴方だけ対応する色が無いんですよ。もう少し慌ててもよかったのに」


 茶化しながら久保田は入っていった。部屋の中央には大きいサイズのビーカーがぽつんと置かれている。ぐつぐつと、有害な硫酸が入っている状態で。


「……さっきの部屋もそうだったが、こりゃあ何だ? 今回は使い道がますます分からん」


 頭を抱えた蛎灰谷は大きなため息を吐く。他の面子も黙りこくってしまった。すると久保田が服の裾を上げ、右手首を顕にした。


「先程服を脱いだ時に気がついたんですけど。これを見てください」


 傷口が縫われているようだった。うっすらと血が滲んでいる。


「新田さん、首の後ろを見せてくれませんか?」

「え、はい」


 後ろ髪を上げて見えたものは、久保田と同じく縫われた傷口。ここで黒野も察する事が出来た。


「まさかその傷口の中に、何かを埋め込まれたのか?」

「恐らくは。ここに居る全員がそうでしょうね」


 黒野、蛎灰谷、平も自らの身体を触って確かめる。今まで痛みを感じてはいなかった。しかしすぐに縫われた傷口は見つかる。黒野以外は。


「俺は右膝の裏だ」

「ももかは左肩の後ろ。ガラスでできた傷のせいで気が付かなかった……」

「俺は、ないぞ……?」


 珍しく黒野が素で困惑した。なぜ自分だけが何も埋め込まれていないのか。再び上裸となり他の目線から探してもらったが、成果はない。


「黒いプレートもない。つまり黒野さんはこのゲームの全体を見ても特殊な立ち位置なのかもしれませんね」

「……どうする」

「ひとまず考えるべきは、これを仕組んだ黒幕の思惑です。僕達の身体に何かが埋め込まれている、そしてそれを取り出すためのギロチンや硫酸」

「埋め込まれたものを奪い合う“争奪”か」

「はい。“協力”を認めない黒幕が望んでいるものはそれだと思っています。でも実際に取り出さなければ実態も分からないままです」


 場が久保田のペースに乗せられていた。戦場を渡り歩いているとはいえ、彼の予測と言葉の信頼感は高い。


「僕がとりあえず犠牲になります」


 すると、久保田は突然にそう言って自分の右腕を硫酸に突っ込んだ。身体が拒否反応を起こしていたが無理やりに抑えようとしている。


「僕が離れようとしたら抑えてください……! 流石にこれはっ、堪える……!」

「わかった」


 素早く反応したのは黒野のみ。他は躊躇してしまった。率先して犠牲の道を進んでいく久保田に恐怖すら感じていた。特に蛎灰谷は、今まで見た事のない人種である久保田に憧れすら抱く。


「久保田お前……決断が早過ぎるだろ」

「総合的に見て、僕がこうするのが最善手かと」

「俺はそもそも傷口が見当たらない。久保田は右手。蛎灰谷は膝の裏、平は肩、新田は首だ。この中で最も、失ったとして命に別状がなく最低限の行動ができるのは久保田だろう」

「えぇ、それに……!」


 右手が黒ずみ、感覚が無くなったところで久保田は硫酸から手を引き抜いた。そして走り出し部屋から出ていく。唐突な行動だが黒野は彼の狙いを理解していた。後を追って着いた先は紫色のプレートの部屋だった。


「ここで落とせますから」


 久保田はギロチンに右腕を捧げていた。刃を固定している紐を誰かが引っ張れば久保田の右腕は切断される。硫酸による身体の侵食を止められる。名乗り出たのは黒野。


「俺がやる。出血はとりあえず、また上着で塞ぐぞ」


 あっさりとギロチンは動き出す。刃が落ちていき久保田の右腕は勢いよく吹き飛んだ。蛎灰谷の足元に転がり若干の狼狽。痛みを堪えながら久保田はその場に倒れてしまった。すぐさま黒野が駆け寄り、脱いだ上着で傷口を縛る。更に痛みは加速し久保田は激しく喘いだ。


「ぐぁぁぁぁぁ」

「耐えられるか? 意識を手放したら死ぬかもしれないぞ。お前には、できるだけ生きていてほしい」


 久保田の肩に手を乗せた黒野は優しい声で励ました。すると久保田の方も応える。


「ちょっと、僕は限界みたいです……死にはしないと思います。少し……眠るだけ……」


 そして意識を失った。呼吸や脈を確認した黒野は安堵した様子で他3人に振り向いた。


「生きてる。だが放っておくと出血で死にかねないな。久保田のためにも早くここを出るぞ。蛎灰谷、その手の中から何か出てきたか?」

「ん、あぁ…………なんだこれ」


 まだ硫酸がこびりついている。直接触れようとはせず靴でかき分けた。段々と崩れてくる皮膚の中から出てきたものは小さい鉄製の板と、それに掘られた数字。


「『6』か……」

 久保田 青輝は裕福な家庭で産まれ育ち、当時17歳。高校の夏休みに家族で海外旅行を楽しんだ。観光スポットで知り合った同年代の現地人とは連絡先を交換し友人となる。帰国してからもやり取りを続けていたが、その数年後に侵略戦争が勃発。友人の連絡は途絶え入国もできなくなる。ニュースに映ったものは知り合った観光スポットの変わり果てた残骸。無力感と絶望に打ちひしがれた久保田だったが、諦めはせず“自分なりにできること”として戦争の現実を目の前で知り、大勢に伝えられる戦場カメラマンの道を選んだ。

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