七話目 魔法を教わりました
よろしくお願いします!
深い眠りから覚醒し、朝日が顔を照らす。
なんだか暖かくなってきたので、私は瞼を開ける。
「……知らない天井だ」
言ってみたかったセリフ第3位だ。
元の世界では、幸い病院にかかることはなかったので言う機会もなかったが。
まあ、死んでるんだけどね。
「うんしょっと」
私は寝ぼけ眼で体を起こし、ふわぁと大きなあくびをする。
顔を洗わないとね。
私にあてがわれた部屋は、中世の貴族社会に出てきそうな、よくある豪華な子供部屋という感じだ。
照明には幻想的な輝きを放つランタンが使われている。
ふかふかのベッドの横に、ローグが持ってきてくれたのか透明のガラスの水差しと果物のようなものがサイドテーブルに置いてあった。
水をごくりと飲んでから大きな鏡がある場所に向かう。
鏡の前には洗面台ようなものがあり、桶に水が張られている。
さらに、私でも使えるように踏み台が置かれている。
ローグって気がきくのね。
「そういえば『あたし』の顔、見るの初めてだ」
洗面台の踏み台に乗る前に、そんなことで少し緊張する。
一歩踏み出して、鏡の前に立つ。
鏡の中には、透き通るような銀髪を鎖骨まで伸ばした幼女が映っていた。二つの瞳は、宝石のルビーのように真紅の輝きを放っている。
「わぁ、お人形さんみたい」
私はペタペタと顔を触ってみる。
幼女だからか、もちもちでふわふわのほっぺただ。
「でもちょっと目が赤色って不気味かも」
そう思うと、鏡に映る私の瞳は、エメラルドのような淡い緑色に変化した。
「うわっ!?なにこれ」
瞳の色って変えられるの!?
そんなゲームのキャラメイクみたいな感じなんですか。
「んー、また赤色になあれ」
そう念じてみると、また瞳は真紅に変わった。
なんだか真紅の瞳の状態だと、体がふわふわする感覚になる。
「我ながら変な体だ」
なんだか体力を使いそうなので、ひとまずは瞳は緑にしておく。
見た目も不気味だし。
顔を洗ってタオルで拭いた後、マスカットのような果物を頬張って廊下へと出る。
ロークがどこにいるかわからないけど、昨日ご飯を食べた場所にいればいいだろうと思い、私はそこに向かった。
◇◇◇
「やあカミナ。よく眠れたか」
椅子に座って足をぷらぷらしていると、ローグが扉を開けてやってきた。
「おはよー、ローグ。夢も見ないくらいぐっすりだよ」
「そうか」
ローグに手をひらひらと振り、座るのを待つ。
ローグは椅子にかけると、何やら改まった姿勢でこちらをむいている。
はて?なにかにゃ?
「カミナ、これからお前には外の世界でも暮らしていける術を身につけてもらう。具体的に言うと、魔法、体を動かす技術だ。この二つが身についていれば、大抵大丈夫だろう」
ローグさんや。それだと原始的な生活になってしまうのですが。
まあ、ドラゴンだもんね。
「……まほうと、ぎじゅつね!」
それにしてもファンタジーみたいでワクワクするなぁ。
「でも、あたしでも覚えられるものなの?」
「それに関しては問題あるまい。今朝も瞳の色を変えたのであろう。そんなことは魔力を使わずしてできまい」
「それって、まほうなの?」
「そもそも『真紅の瞳』は我もあまり詳しくない。魔眼と言われる魔法らしいが、魔力で行使する力のようだ。まあ、我には大抵効かぬが」
「ふーん、そうなんだ」
「だからカミナには魔力を操るセンスと、潜在能力はあるはずだ」
やはり転生だからか。
少し特殊な体に生まれているのかもしれない。
「では、これから魔法を教える。場所を変えるぞ」
「はーい!先生、お願いします」
ぴんと手をあげて返事をした。
なんだかワクワクしてきた!
「せ、せんせい?……悪くない響きだ」
私はローグの後を追い、ふふんと鼻歌を交えて部屋を出た。
しばらく歩いていると、ローグが立ち止まり、大きな扉を開く。
そこには、バレーボールのコートほどの広さがある訓練場のような場所があった。
ご丁寧に、射撃訓練に使われそうな的まで用意されている。
「ここは、人間種がいた頃に使われていた訓練場だ。昔はよく人間種と遊んでいたものだ。情けなく悲鳴をあげていたが」
ドラゴンジョークだろうか。私も体持つかなぁ。
「さて、では昨日の続きからだな」
そこからはローグのながーい講義が始まった。
要約すると、魔法は火、水、土、風の自然属性、光、闇の固有属性の六属性で構成されている。大きく分けるとこの六つだが、この属性を組み合わせて発動する複合属性というのもあるらしい。
さらに属性は力関係も違うみたい。
最も強力なのは火の魔法。
いわゆる原初魔法と言われるらしい。
その次に水魔法、土魔法、風魔法だ。
この三つは神代魔法と呼ばれている。原初魔法と力関係はあまり変わらないらしいが、位は一つ下らしい。
その次に光魔法、闇魔法の固有属性の魔法だ。
自然魔法の複合魔法で、四つの属性を全て使い、使われる魔力の性質によって変わるらしい。この二つは古代魔法と呼ばれている。
ローグが言うには、四つの自然属性を覚えておけば、後は自分の思うがままに使えるようになるらしい。
本当かなぁ。全て使うのは難しそうだけど。
「ローグ、この魔眼は何属性なの?」
私は『真紅の瞳』にしてローグに聞いてみる。
「んー、そうだな。体に影響する魔法であれば闇魔法だが、詳しくはわからないな」
「闇魔法……じゃあ、あたしはすでに四つの自然属性が使えるということになるの?」
「そうだ。何か想像したことを魔力を使って具現化することを魔法と言うのだ。ただ、体ではなく外に影響する魔法であれば、多少のコツは必要かもな」
想像しただけでできるのか。何か呪文とかいらないのかな?
「心臓あたりに魔力を感じるはずだ。そこから魔力を使う想像をして、何か出してみろ」
ぶっつけ本番!?先生厳しいな。
「わかった。やってみるね」
…
私は何もない空間に手を突き出してみる。
よく漫画とかであるようなポーズだ。
火だと火傷しそうだし、とりあえず水かな?
「ムムム……」
あれ?
水が出るイメージをしているのに、何も起こらない。
「何か想像しやすいものを具体的に思い浮かべてみろ」
具体的に、ね。
水といえば、元の世界では消防車のホースからでる水が想像しやすいな。なんか技名叫んでみようかな?
「ムムム……ウォーターボール!ウォーターガン!ハイドロキャノン!」
なんとなく水魔法っぽい技名を叫んでみると、手から五十センチほどの大きさの水の塊が発射され、ぱしゃりと壁に当たって弾け飛んだ。
「わあ!本当にでた!!」
ローグの方をみると、ローグもすぐにできるとは思わなかったのか、我が事のように喜んでくれている。
「おお!こんなにすぐできるとは!」
「えへへ〜、すごい?……あれ?」
一発発射されただけだったけど、なんだか手がむずむずする。
不思議に思い手を出してみると、次は人差し指の指先から一直線にレーザーのような水が出た。
すご、まさに水鉄砲だ。
それも鉄とかを切るようなウォーターカッターみたいな勢いだ。
「ということは、次は……」
またしても手がむずむずしてきたので手を前に出してみる。
そうすると、まさに消防車のホースからでる水のように、勢いよく水が出てきてしまった。
どうしよう、止まらない。
「カミナ!やめよやめよ!!」
「ローグ〜〜!!止まらないよ〜!!」
どうしよ。止め方を教わってなかった。
結局、魔力が尽きるまで、私は水を吐き出し続ける羽目になったのでした。
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