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カタラギ《ヴァンパイア》  作者: 天壌カケル
18/29

18 大漁

18話目っす。

ではでは(__)b

8月16日


『本日未明、大津市内の暴力団幹部が、何者かに襲われ死亡しているのを発見され――』

『本日十二時頃に、未解決事件となっていた、大津市のバラバラ殺人事件の容疑者が自首したと発表されました』

『ストーカー被害の犯人が自首し――』

『指名手配の容疑者が警察へ出頭したという件が相次いでおり――』

『市長暗殺計画を企てていた犯人グループたちが午前五時頃、■◆交番へ現れたという報告が――』

『麻薬組織が壊滅――』

『××教会の幹部らが、金銭目的で詐欺、及びわいせつな行為を行っていたことが発覚。体中に一万円札を張り付け、裸で警察署前へ列をなしたとして――』


『現在、滋賀県ではこうした、未解決事件並びに容疑者たちが次々と警察へ殺到しているとのことです。反社会的組織の崩壊、もしくは死亡するという事件も相次いでおり、目撃証言をした者はみな口をそろえて、『あいつらが来る』などという供述しております。警察は組織ぐるみによる大体的なテロを予測して捜査しているとのことで――』


「なんか怖いね~、急にこんな物騒な話が流れてきてさー」


と、午後二時を過ぎた頃。

羽月はソファに座って膝の上のシロウを撫でていた。

光星は食後のソーダアイスを口にしている。


「今までの罰が当たったんだろう」


「それでもこんなにもいっぺんに出てくるとか不思議だね」


と、カーテンを閉め切り、LED照明がリビングやキッチン等を照らす中。

羽月は呑気にそう言った。


アストレアは昼ご飯をさっさと済ませると、昨日と同じく部屋で就寝している。

夜を十二分に満喫し、朝には寝る。

何百年と過ごしてきた彼女の普段の生活サイクルである。

だが光星は、今日六時に寝ても一時間後には起きていた。

ごそっと変わった体質ではあるが、習慣はそうすぐに変えられるわけでもなく。

光星は小さく欠伸をして目元を拭っていた。

というフリ。


「ねえ、にぃに?」


「ん?」


次のニュースで流れるのは、ある市長が闇金業者と手を取り合って、貧乏人を搾取していた話に移り変わった。


この市長。

昨日光星に殺された。

市民を助けてやった褒美、や。

弱者が強者に奪われるのは当然、といった。

自分よがりな発言を残し。

羽交い絞めにされた首を三百六十度捻り折られて死んだ。


そして彼に関わった人間は漏れなく。

ブタ箱行きである。


「なんかしたでしょ?」


と、鋭い質問。

疑問形ではあるが、もはや確信を持って問いかけられるそれ。

あくまで確認しているだけと言わんばかりの言い方に。

だが光星は――。


「できるわけねえじゃん。俺は人間だぞ?」


誤魔化した。

羽月の目を見て。


「ふーん」


羽月は兄の顔を凝視した。

じいいいっと、覗き込むように見つめた。

そしてぷっと噴き出す。


「あははっ、だよねー。にぃにはすごいけど、さすがにそこまではねー、ふふふっ」


と言ってからまた笑った。


光星が行った場所は必ずしも、そんな物騒な現場だけではない。

植物状態の人、不治の病を持つ人、障害を持つ人、精神疾患で苦しむ人、過去のトラウマに苦しむ人、後悔を抱える人、金銭的に苦しむ人――。

会社での人間関係、家庭内での人間関係、学校での人間関係、恋人との関係、孤独な人間関係、自分の人生観との関係など――。

見えているようで見えてない苦しみを持つ人も助けた。

本来なら向けていけないような所も、光星は土足で上がり込むようにして強引に。

罪を犯すようなやり方はさせず、むしろ光星が代わりを買って出るくらい。


だが、突然病気が治ったとかの内容が含まれるニュースは一切報道されていない。

如何せん――。


「国のトップも、何もかもすべて改善した方がいいかもな」


と。

何気ない一言であるが。

光星が言うともはや国家転覆である。

冗談じゃない。


「にぃにも、そんな冗談言えたんだね、吃驚だよ」


と、笑いの収まった羽月が涙目で。

普段とは違う兄に関心を示していた。


光星は視線を斜め上にして考えるが。

確かに、「冗談」を言うのはほとんどないな、と。


「アストレアさんと何かあった? それともわたし?」


「夜遊びで疲れただけだ」


人間でなくなったこと。

太陽の下を歩けなくなったこと。

吸血鬼になったこと――。

話すことはできないし。

これ以上羽月を巻き込みたくないと。

そういう想いで。


ズキッと頭痛がした。

目元が一瞬痙攣する。


「、、、、、、」


久しく感じた頭痛。

アイスソーダの棒をテレビ横のゴミ箱へ投げ入れ。

ソファの背もたれにもたれかかって天井を見上げた。


「、、、、、、ねえ、にぃに」


「?」


ちょいちょいとシロウを脇に下ろして手招きする羽月。

自身の膝元を指さして、ここに横たわるよう言った。


「、、、」


素直に、光星は羽月の膝元へ倒れた。

服越しに伝わる柔らかさと温かさが気持ちよかった。


「小さいときは、にぃにがよくこうしてくれたよね」


柔らかい笑みを浮かべて、光星の頭をゆっくりと撫でた。


「そうだな、、、泣き虫羽月にはいつも困らされてばかりだったよ」


少しだけ、頭痛が和らいだ気がした。

目を閉じ深くゆっくり呼吸する。

羽月を見上げる。


「泣き虫は余計」


ブスッとしたその顔を見て


「ははっ」


――笑った。


「良かった」


「、、、ん、何が?」


朗らかな笑み。


「元気そうで」


そう言って、光星の頭を撫でる。


「元気だろ? どこをどう見て元気ないなんて思った?」


「んー、何となく。あ、なんか一人で抱えてるなあ、って」


「抱えてる、、、ねえ」


一概に否定はできない。

一人で抱えてはいないが、抱えているのは事実だからだ。

むしろ背負っているといってもいい。


「――そういや最近聞いてなかったが、学校はどうだ? いじめとかないよな?」


話を強引に変えた。

これ以上はあまり考えさせない方がいいという判断で。


「全然」


と、即答。


「学校生活なんて余裕のよっちゃんよ」


大都高校から徒歩五分ほどの距離にある志賀大学附属中学校。

進学校と謳われながらも、生徒たちの勉強意欲の方が高いという。

もっぱらの噂では勉強部屋と評されるとか。

主体性に任せる面が多いため、サボった奴はそれ相応の成績になるのは勿論。

それ故に『競争』も激しいらしいが、真面目で大人しい子も多いとよく聞く。


「ま、お前は俺よりも成績いいんだ。のんびりすればいい」


「ところがどっこい、それが案外つまんないの――みんな勉強勉強ばっかだし、部活も少ないから個別のクラブチームとかに入ってたり、放課後遊ぶことはあんまりないみたいだし」


パシパシッと腹を叩かれる光星。

音はそう可愛らしく聞こえるが、腹に力を入れていないと内臓に支障をきたす威力はある。光星だからこそ平然としていられるのだ。


兄妹そろって血の気が多いというか喧嘩っ早いというか。

一度として勝てていない兄に敬いと慕いはあれど、容赦はなかった。


「じゃあ仲のいい友達とかいねえのか?」


「んー、小学校からのコミュニティが既にあるから入っていくのは大変だったけど――ま、そこはわたしのコミュニケーション能力でちょちょいのちょいよ」


と、平手から握り拳へと形態変化させ、より衝撃が増していく打撃に、光星は飄々。

痛いことに変わりないが。太陽に焼かれたり、ジョーカーやアストレアの戦闘に比べれば痛気持ちいい程度である。


「で、クラスでめっちゃ仲良くなった子が二人いて、もうめちゃくちゃ可愛いの。何ていうか、妹? みたいな感じに見えちゃって」


「いや、お前にとってクラスメート全員そうじゃね?」


「あ、確かにそうかも」


「まあその中でお気に入りが見つかったってことだろ?」


「なんか言い方が物扱いで大噴火」


――草ならぬ火。

大草原ならぬ大噴火。

肘鉄が落とされる一秒前。


「じゃあ言い換えて親友だな」


「うん、わたしの親友♪」


――は、落とされなかった。

上機嫌である。


「そういえば、にぃにお風呂入った?」


「入ったけど、臭うか?」


「分かってるんなら風呂入ってきて」


と、膝を跳ね上げ、光星の頭を上げた。

やはり昨日、というか今日の朝シャワーで済ましたのがいけなかったようだ。

湯船に浸かっていないから物足りない気はあったし、さっと流しただけだとそんなもんだろうと。


「はいはい」


と。


ニュースがいつの間にか天気予報に変わっていた。


次回は5月の15日です。


ご愛読ありがとうございました。


よければ、いいね、ブクマ、星評価、感想等いただければより励みになります。


誤字脱字があれば仰ってくださいね。


今後とも、よろしくお願いいたしますm(__)m

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