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カタラギ《ヴァンパイア》  作者: 天壌カケル
16/29

16 成り不利構わず

16話目でっす。

よろしくお願いいたしまーす(__)。

閉じていた目をカッと開くと、武史は飛び跳ねる。

クルクルと回転して、グラウンドの真ん中に着地。


「おお、すげええなおいッ! てめえなんて力を有してんだよ、あり得ねえだろうこれッ」


身体の底から溢れ出る信じられない力に、武史はゲラゲラ笑って興奮した顔つきで、グッと手刀を形取り、光星へ向かって思いっきり振り下ろす。


「あーあ、後始末が大変さね」


と、何の驚きもなく、アストレアはパチンと指を鳴らした。

それだけで、この周辺の音は『外』に聞こえなくなった。

グラウンドを覆う、小さな結界。


――爆発するような衝撃をもって地面が抉れて。

斬撃が飛び進み、土埃を巻き込んで光星を縦に斬り飛ばした。

アストレアも斬撃の余波に襲われるが、微弱に張った結界によって無傷である。


「この力、この全能感ッ、ははっ、テメエを食えば俺は最強になれるじゃねえかッ」


と、馬鹿みたいに叫びながら飛び出してくる武史に。

光星は身体をピタッとくっつけて回復して。

だが何の興味もなく、虫を叩き落とすように地面へと打ち付けた。


「ッ!?」


バキイイイッと、武史が放った斬撃よりもなお激しい、陥没と地割れを引き起こす。

頭部が落下したトマトのように潰れていたが、光星がまた血を与え、二秒で元に戻った。

武史は立ち上がったと同時にアッパーカット。

顎にクリーンヒットさせて、空気を震わす。


「あ、が、、、」


だが腕を押さえて、武史が唸った。

光星は身体を頑強で強固にして、逆にその力を反射させたのである。

その片腕がひしゃげて、折れた骨が飛び出ていた。


「ああ、俺もそんな戦いをしていたなあ――確かに人間の領域だ」


アストレアとジョーカーとの戦いを振り返り。

分析、そして解析。


――ああ。


――楽しいなあ。


と。


ギョロリと眼球を動かして。

力に順応できていないこの吸血鬼。

こんなくだらないクズに。

怒るよりも呆れた。


「こうか」


そして、ズズズッとその容姿を変化させていった。

くせ毛の無い茶髪と、綺麗な黒目。

端正整った顔立ち。鼻は高く、少し堀のある顔つき、そしてスマートな顎のライン。

服はシンプルに、誰もが知るユニクロン。落ち着いた青色のシャツと黒のベスト、黒色のジーンズ、そしてワンポイントアイテムとして、右耳に小さなイヤリングをはめていた。

靴も黒だが、グッチーのスニーカーを履いている。あの高級ブランドのシューズをだ。


武史は目を見開いた。


「なんだそれ、ふざけてんのかッ」


「いいや、ふざけていない」


爽やかな声。ハスキーボイス。イケメンボイス。

甘い甘い、それはもう世の女性の耳に中毒性を与えてしまいそうな声をしている。

誰もが魅了されるような、そんな誰をも裏切りそうな声を。


――わなわなと震える武史。


全く同じ姿で、全く同じ顔で、全く同じ声で語られる『自分』。

あらゆるものを拒絶し、あらゆるものを食料と考え。

誰よりも強いと思い込んだその顔で。


下卑た表情で見つめてくる凶悪そのものだった。

狂気に狂って人を簡単に刺し殺すような笑顔。

人格破綻した、殺人鬼よりも殺人鬼らしい顔で。


回復した武史――。

上げた顔をすぐ下げて。

背を向けた。


――クソ、、、ッ。


やっていられない、これ以上はダメだ、と。

逃げた。

取り込んだ血が言ってくるのだ――殺すと。

耳元で囁いてくるのだ――消してやると。


強化された脚力を利用してグランドの端にまで一瞬で移動したのは良いことだったが、不気味なものを見る目で、嫌悪した表情で振り返ったのは良くなかった。


「――お前自身だぞ? 何をそんなに嫌がる」


「ひッ!?」


もういた。真後ろに。

ニヤニヤヘラヘラ笑って、武史と全く同じ顔で。

見せつけるようにして、待ち構えていたのだ。


ガクンと体勢を崩れ、顔面から路面とキスする。

転がり、そしてうつ伏せになってようやく止まった。


「え、、、あ?」


――何が起こった?

感覚の無い自分の足を見て、絶句。


「ああ、探し物はコレ?」


を光星が両手で持って、プラプラと遊ばせながら。

そして適当に捨てる。

消滅して、武史の脚が再生された。


「ほら笑えよ」


光星がニチャアと笑えば嗤うほど、武史の表情が憎悪に――いや恐怖に歪んでいく。


「自己嫌悪してんか? 下らねえ」


「う、うるせえええええええええッ!」


スパッと。

武史の腕が何かに斬られた。


「ああああッ!!!!」


痛みか、はたまた恐怖か。

ばっさりと斬り分けられていた肩口からは血液が迸る。


――何に斬られ、、、


両腕も再生していき痛みが引いていく。

呼吸が落ち着き、鼓動は遅くなり、頭も少しずつ冷えてきた。


「ほら、早く立てよ」


武史と全く同じ声で、同じ口調で、語尾を強めた一言。

浴びせられる血液。

――ビクウウッ、と。

武史は身を震わせた。

悪魔の顔をした自分の顔が、月明かりの逆光でより不気味な笑みを作り上げて、口の裂けたピエロさながらに。


火照っていた身体が冷えていくのが分かる。

――逃げないと。


「逃がさねえよ」


「ッ!?」


――考えを読まれ、、、?


「お前をこれから徹底してバラす。臓器一つ一つ、骨の一片、皮一枚に至るまですべて――ふふっ、楽に死ねると思うなよ」


路面を跨いだ草地の上。

サワサワと動く雑草の一本一本が神経のようにうねっていた。

その側面が鋭利な刃のようになって幾重にも束ねられたそれが脚を斬り飛ばしただけ。


その周辺の草をさらに集めて、武史を地面に縛り付けていく。

普通に土に根付いた草を抜くにも大変な労力なのに、離れた場所の草をも無限的に成長させて、さらに武史の自由を奪っていく。


「や、、、やめ、、、ッ」


必死に草を引き千切ろうとするが、何百何千と体中に巻き付いた自然の力には手も足もだせず。

それもそのはずで――。


「ただの雑草如き、なんて考えるなよ?」


根強さや頑丈さをより強固に。

葉の鋭さを名刀の如く。


悲鳴を上げる武史。

骨が折れ、内臓が潰される音が、彼自身の脳に届く。


「ほら、やるよ」


また血が降り注ぎ、怪我が一瞬で治って、痛みが消える――事はなかった。

締め付けられた状態で無理やり怪我を直したことにより、さらに苦痛が増した。

圧迫した血管に強引に血が流れ、逆流と決壊が繰り返されて激痛に襲われる。

粉々になった骨はすぐ治るとまた粉々になる。


――生殺し。


始まって一分しか経っていないのに

地獄のような時間が延々と流れる感覚に。

武史は涙を流した。


「んだよ、脆いなあ。まだ死ぬなよ? もっと試したいことがあるんだ」


「ああッ、、、、、、」


「そんな怖がるって。たっぷり可愛がってやるからさ」


「あ、、、ああああああああああああああああああッ!!」


目の前にいるこの『吸血鬼』は――違う。

違い過ぎるッ。

こんな吸血鬼、いるはずが。


ごきり、と。

一度首を折られて、武史の意識が途切れた――。




「はあ、、、ほんと、恐ろしい男さね」


女子中学生がここに居なくてよかった、と思うほど。

目の前で繰り返される惨劇。

私刑であっても、ここまでやる人間をアストレアは識らない。

精神を壊そうが、肉体を壊そうが。

一定まで往くとそこまで執着はしなくなる。

食べ終えた獲物にそっぽを向くのと同じように。

――それは化物であろうと吸血鬼であろうと根本は変わらない。


だが、光星は異常だ。


一向にこの惨劇を緩めることも終えることもなく、数分という短い時間で何十何百と苦痛を与え、二十二回目の『死』を齎していた。

それもすべて違うやり方で。


光星の感情がいつにも増して残虐に駆られている。だが至って冷静だ。

無計画で合理的で、破壊的で癒しに満ち。

悲し気で怒りに燃えた、楽しみながら喜んでいる姿に。


「、、、さて」


光星の始終を見守っていたアストレア。

女子二人がこちらに近づいてくるのを識って、その場からすっと離れた。


「おまえたち」


「ひっ!」「わあっ!」


グラウンドへ向かう途中の坂道にて。

二人引っ付いて、そろりそろりと移動していたところを。

後ろから突然声を掛けられ千代と佳代は可愛らしい悲鳴を上げた。

恐る恐る振り返り、そこにいたのがアストレアだと気づくとほっと胸を撫で下ろして笑っている。


「あの、アストレアさん、お兄さんは何しているのですか? 何か不気味なくらいものすごく静かと言いますか」


「けど地響きがしたような、、、何かあったの? 大丈夫なの?」


と、光星のおかげですっかり元気になった佳代と千代。

瞳をうるうるさせて光星の安否を気にしているが――。


「別にどうでもいいさね」


と、適当に返答したのち。

何の前触れもなく彼女たちの片腕を掴んで、身動きを封じたのである。


「あ、ちょっとッ」


「何するんですかッ」


抵抗するも、アストレアの腕を振り払えるはずもなく。


「お前たちはよくやった。殺してもよいが、今回はあいつに免じて見逃してやる」


チロリと犬歯を見せつけて。

唇を舐める。


そうしてのしかかってくる恐怖に。

二人は身体を震わせた。


「え、、、」


「なんで、ですか――」


「お前たちをあいつの食糧にするのも良かったのだがなあ」


と、興味無さげに。


「所詮は吸血鬼――人間は食料さね」


見つめてくるアストレア。

ゾッとした。


――逃げないと。


だが身体が動かない。

動きたくても脚が一向に動かない。


「ま、関係ないがね」


面倒くさそうに発言したそれに、何かを感じとってか。

二人は目に見えて慌てだした。


「ま、待ってッ、あたしたちは何も話さないからッ」


「す、すぐに帰ります、ですからッ」


と。

だが二人は急に意識を失った。

掴まれていたおかげで地面に倒れることはなかったが、ぐったりと膝を曲げて宙ぶらりんになっている。

千代はボーイッシュ系、佳代はナチュラル系の服装。

どちらもボロボロでドロドロだった。

記憶は消去したのでこのまま放置してもいいのだが。

結局は光星が送り届けるのは目に見えている。

チラリと彼女たちの服を見た。

それだけで、服の汚れや汚物、血痕そして破損部分が目に見えて新品同様に復元されていく。


「世話のかかる」


気を失うお荷物を両肩に担ぎ上げて。

――合流する。


「ああ、アストレア、助かるわ」


勿論、千代と佳代を連れて来たことだ。

記憶消去と服の修復等を代わってもらって助かるわと。

そう労いの言葉を掛けたのだ。

姿は――元の光星だ。


「終わったさね?」


「ああ」


地面に転がる塊。

身体がバラバラされ、まるで標本のようにズラリと並べられていた。

筋繊維、内臓、骨、神経、皮――そして血液。

解体のプロも真っ青の神業である。


「だが、死んじゃいない」


その手に持つ心臓。

ドラマやアニメで見たまんまの心臓が、活きの良い脈動をドクンドクンと繰り返していた。


「すべて持って帰る。マンションの屋上で最後の仕上げだ」


「あ、、、、、、、、、、、、、あ、、、、、、、、、、、、」


肉の中から風が吹くほどの小さな声が聞こえた。

普通の人間が耳を澄ませても聞こえない。

だが、光星とアストレアの耳にはしっかりと届いた声。


「こんな状態でも命乞いとはな、あほくせえ」


いつもの面倒くさそうな表情だ。

だが。

以前にも増してより化物になっている。


「御前もだいぶ仕上がってきたね」


「ああ」


よりアストレアの眷属として、より吸血鬼として――完成しつつある。

相手が格下ということもあり、本気は出し切れていないが、実験としては超上々。

悪意ある化物や人間はまだまだいるのだ。

やりたいことは――まだまだたくさんある。


「こいつと二人はあたいが片付けておこう。今宵はまだやるのだろう?」


「ああ」


応答すると、光星は心臓をアストレアに投げ渡した。

それが彼女の手中に収まる前に。

光星は姿を消していた。


「、、、、、、」


光星が移動した方向へ顔を向ける。

また一つと、悪意ある化物の反応が消え、もしくは改心し。

悪意ある人間もまた同様にして。


「正義のヒーローとやらは、本当に忙しいねえ」


月光によって浮かび上がるアストレアの影が、武史の肉塊を吞み込んだ。

土に染み付いた血液一滴も残さずに、飲み込んだ。

それはもう影も残さず綺麗さっぱりと。


「神のみぞ識る、ということか」


そう言葉を残して。

いつの間にか修復されたグラウンドやその周辺。

アストレアも姿を消して――。

しんと静まり返る茶臼山公園。

夜はまだ、深まっていくばかり。


次回は5月1日に更新します。

次回は4月の17日です。


ご愛読ありがとうございました。


よければ、いいね、ブクマ、星評価、感想等いただければより励みになります。


誤字脱字があれば仰ってくださいね。


今後とも、よろしくお願いいたしますm(__)m

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