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カタラギ《ヴァンパイア》  作者: 天壌カケル
11/29

11 思い通り

11話目ですねえ。

よいよいよきよきm(__)m

「よくこっちを見れましたね~ってか?」


罵倒の含んだ明らかな嫌味。

ジョーカーの首が百八十度、捻り回っていた。

その眼に映るのは、頭部に短剣を突き刺したままの光星。


「仕方ねえから元に戻してやるよ」


さらに百八十度回転。

計三百六十度。

一回転。


「俺、アサシンとか目指せるんじゃね?」


そしてそのまま蹴り飛ばす。

背骨が折れて、くの字に吹き飛んでいくジョーカー。

結界に加減なく叩きつけられた。


「で? 誰が弱いって?」


「、、、ふん」


ゴキンと首が戻り。

コキコキッと背骨の治る音を聞きながら振り返る。

光星が蹴りの姿勢を保ったままジョーカーを見据えていた。


「、、、私目が油断した」


「言い訳すんなよ、反応できてなかっただろ?」


と、光星は小さく笑った。


「ふふっ――普通ならもう少し掛かるはずなのに、、、やはり始祖様は素晴らしい」


と、光星の言葉には全く耳を貸さずにアストレアを見つめた。


「、、、まあいいか」


頭部から抜いた短剣を、捨てる。

佇まいを直し、ジョーカーを睨みつける。


「死ぬのってやっぱ変な感じだが、もう首飛ばされてもいけそうだ」


「――余裕ぶるな半端者」


短剣が地面を打つ前に。

回復したジョーカーが目の前にいた。


「そりゃあ余裕だからな」


落ちる短刀を手に取って下から切り上げてくるのを。

光星はパシッとその右手首を掴んで受け止める。


「ふッ」


そして掬いあげるように下から豪脚を繰り出し。

ジョーカーの腹部を蹴り上げ、掴んだ腕を引き千切りながら数メートルも宙に飛ばす。

腕から大量の出血を迸らせながら。


「ああ、痛いなあ」


感慨深く呟いて。

ピタッと。

ジョーカーは宙で止まった。


「確かにさらに速くなったな」


空から糸で引っ張られるように、空気の壁に立つように、光星を見下ろしていた。


「だがまだだ」


引き千切れた腕はボロボロと消失し、その腕が彼の身体から再生され。

そして無造作に振るった。


「ッ!!」


唐突な横からの衝撃に面食らいながら。

湖岸に沿った長い公園の端にまで。

寝巻が地面に引きずられてボロボロになっていく。


「死ぬのが変な感じ、か」


ふわりと地面に降り立って、光星にゆったりと近づいていく。


「それは人間の価値観だな」


腰の短剣を手に取る。


「私目は一度でも、『死』んだかね?」


起き上がって睨みつけてくる光星に、ジョーカーは笑う。

新たな短刀を抜き、シャリンともう一方と擦り合わせて火花を散らした。


「化物の【死】は消滅を意味する。魂の欠片も残さずに、この世からただ消えるだけ」


と、ジョーカーの話を聞きながら。

光星は理解していた。


「――念動力も厄介だが。その剣」


「――そう、聖女の加護だ」


「はっ、そんな武器を使わなきゃ勝てません、ってか?」


「安い挑発だな」


――姿が消えた。


背後から気配。

迫る刃に、光星はバック宙返り。


「――不意打ちにしては気配が消えてねえな」


アクロバティックにまた首を折る。

着地。


「俺とよく目が合う」


「はは、アイコンタクトは世界では常識だぞ?」


ジョーカーは首をその位置のまま身体を反転。


「殴る蹴る、折る――それくらいしか能がないのか貴様は」


と、煽るジョーカーに、光星はわらった。


「ちょっとばかし時間がかかったが、少し解ってきたところだ」


愉しそうに。


「解ってきた? 何を解った気でいるんだガキが」


「んー、まあ、あんたの技を真似してみるかって」


「私目の真似をする――それは随分と大層な嘘を」


ゾルゾルと、光星の身体が不自然に動く。


「、、、ほう」


沈んだ。

街灯の明かりの影に。

潜り込んだ。


――へえ、なるほど。


真っ暗な中を進み。

視えるもう一つの出口に向かって。

アストレアのすぐ横へ。


「これは驚いたさね」


忖度のない純粋な驚きを露に。

光星も自身の変化に小さく頷く。


「俺もそうだ――」


そして掌を前にして、握り潰すようなイメージで。


「俺もお前らと同じ吸血鬼だぞ?」


「ッ」


ぐしゃり。

と。

ジョーカーは自身の右腕を見る。

肩先から腕が潰れていた。

血が噴き出る。


「、、、、、、ああ、素晴らしい」


一秒もかからずに元に戻るが、その光星の驚異的な成長に目を張る。


「何ぼけっとしてんだ」


スパッ。

修復した腕が飛ぶ。


スパッ。

もう片方の腕。


スパッ。

スパッ。

スパパパッと。


「ほら、、、お前がやったことだ。俺の脚をさ」


握りしめる『影』。

鞭のように操り、縄跳びを振り回すようにして。

胴を、脚を、首を。

乱切りに。


バラバラと落ちた。


「仕切り直しだ、さっさと立てよ」


挑発。

聞いて、ジョーカーはおもむろに笑った。


「ふはは、そうでなくて」


クツクツと笑う。


「まさかここまでとは、、、確かに面白い」


血肉が引っ張られるようにくっついていき。

手も使わずに直伸のまま立ち上がって。


「半端者にしては良い出来だ。私目も流石に驚いたぞ」


歩く。

光星もそれに合わせて。

円状に。

光星とジョーカーの立ち位置が変わった。

アストレアはそこから少し退いている。


「これに耐えられたら褒めてやろう」


ジョーカーは首から十字架のペンダントを取り外し、ポケットの中へとしまった。

優雅にゆったりと、余裕のある動きで。

光星には十二分すぎる時間だ。


だがすぐには動けなかった。


――ぞわりと、身体に奔る嫌な予感に。

恐ろしさに(・・・・・)

この恐怖心は、太陽に焼かれるのと負けず劣らない。

危険だ、危険すぎるッ。


「これだから雑魚は困る」


震える身体に力を入れて、歯を食い縛り、無理やりに大地を蹴る。


「そうだ、その意気だ――」


空気が一変した。

――死の香りがした。


声を張り上げ、拳を握るも。


「解放」


「てめえッ――」


ゾンッッッッッッ。


光星が駆けてくる前面。

結界の内の端に至るまでのすべてを呑み込んで。


――消し飛ぶ。


「」


言葉も悲鳴もなく――。

血と内臓が飛び散り木っ端みじんになるわけでもなく――。


唐突に跡形もなく。

消えていた。

ごっそりと、パソコン操作で切り取られたように。

遊具も植物も土地も湖岸も全部まるごと。


「ふふっ」


【闇】が、蠢いていた。

抽象的で概念的な闇ではなく、何かこう煙のような霧のような空気のような。

はっきりと目で捉えられない、あまりに曖昧で説明のしようがない何か。

そこに在ると認識させるだけの、凄まじい気配は存在する。

無――まさしく無。

無闇。


パッと、【闇】が取り払われた。

真っ黒な気配。

するするとジョーカーの身体へ消えていく。


「大人げがないねー小僧」


振り返る。


ぷッと吐き捨てた煙草を。

ジョーカーの影が獰猛にも口を開けてすりつぶした。


「何故ですか? 何故、私目の邪魔をするので?」


アストレアの手に浮かぶそれを見た。

意識の存在しない――光星の血。

隣り合った時に密かに回収していただろう代物。


「――死合ではなくあくまで試合さね。やり過ぎは良くない」


「私目ははじめからそのガキを【殺】す気でいました。それを容認していたからこそ、こうして闘わせていただいたと考えていたのですが」


「ああ、、、それは悪いことをしたね。ただの正義感の押し付け合いだと思っていたから、まさかそこまでこいつを憎んでいたとは考えが至らなかった――」


――と。

アストレアは自身の腕を引き千切り。

それをジョーカーの足元へ放った。


「詫びと取引さね。一日欲しい。どうせなら――完全体になったこいつと闘い、完全勝利をもぎ取ってこそだと思わないか?」


というその態度。

交渉にしてはやけに上から目線だ。

――今回は身を引いて後日に改めろ、と。


ジョーカーにとって今光星を仕留めることは絶好の機会だ。

完全な戦闘不能となり。

後はその血と魂を蒸発させるのみ。

簡単な作業である。


普通なら突っぱねるだろうこの取引。

だがその価値を知る者には。


――そう。


ジョーカーは隠す気もなく歓喜した。

まさか神にも等しい存在自らが。

格下相手に謝罪と譲歩を行っているという、虚数にさえ匹敵する究極の機会。


それも完全勝利という美酒まで提供するという、血肉を分け与えて力の底上げまでサポートしてくれる破格を越えた度外な超好条件。


これを至福の極みと言わずして何と言おう。


「、、、ふふ、ここで突っぱねてしまうのはあまりに勿体ない。しかし恐れ多くも不肖の身である私目から一つ――」


「ああ、その時はあたいの眷属として迎え入れよう――約束は違えないさね。低級の吸血鬼の眷属、しかしその身に宿した才を発揮させ、されど溺れず、弛まぬ努力を重ねて辿り着いたその境地――惚れ惚れするさね」


「そう言って頂けただけでも十分報われております――こちらからも後日贈り物を差し上げましょう」


丁寧に美しい礼をして。

影にアストレアの腕を沈めた。

後ほどゆっくりと、密かに堪能するために。


「ああ、楽しみにしているさね――」


――と、身を引いた。

敵意はあれど、殺意や戦意は綺麗さっぱり消えていた。

それはもう清々しいくらいに失せていた。

懐から手帳を取り出して、ペラペラとページをめくっているほどに。


「その間、雑用をこなしに行きましょうか」


雑用。

吸血鬼狩りをその一言で済ますのがまた恐ろしい。


「明後日にはまた来ます、では――」


そう言い残して。

スウッとジョーカーの姿が薄れていき、完全に消えた。

闇夜に紛れるかのように、溶け込むように。


「期待を裏切らない小僧だ」


と、光星の血を見た。

魂のほとんどを削り取られた、未熟すぎて甚だしいそれ。

だが普通なら、こうして【血】として維持することなく消滅している。

魂の原型を保てなく、魂の根源を繋ぎ留められなく――。


ああ、その魂。その在り方。


――格が違う。


「さて」


ポケットから二本目の煙草を、その再生した腕で取り出し。

火をつけて、吹く。


「――始めるかね」


ボロボロの公園と光星の家に視線を移し――。

少しだけ力を開放した。


次回は3月27日です。


ご愛読ありがとうございました。


よければ、いいね、ブクマ、星評価、感想等いただければより励みになります。


誤字脱字があれば仰ってくださいね。


今後とも、よろしくお願いいたしますm(__)m

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