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カタラギ《ヴァンパイア》  作者: 天壌カケル
10/29

10 半端者

十話目ですね。

まだまだ続きますm(__)m

――バリイインッ、と。

飛び出る窓からの影。


寝間着姿のまま。

光星は湖岸沿いの公園へと落ちていく。


「、、、、、、ちっ」


くるっと空中で軽々と回転して体制を整え。

着地と同時に土埃を舞わせるも。

すぐに風に運ばれて空に消えていった。


公園で散歩する人、運動する人、休憩する人――。

皆一堂に驚いて見向きして。

だが数秒後には、何事もなかったかの(・・・・・・・・・)ようにその場を後にし(・・・・・・・・・・)ていった(・・・・)


「威張るな、生り立てのルーキー。まともな吸血鬼に成れていない半端者の分際で、私目に勝てると思っているのか? 不愉快だ」


もはや誰もいなくなった公園で。

瞬きをした時にはもういた。

テレポートの如く、すでに居た。


「やってみねえと解んねえだろ?」


驚きはしなかった。

それくらい吸血鬼なら当然だろ、と。

何の疑いもなく受け入れていた。


――だが何より、戦力や経験値は素人同然。

ジョーカーの言う通り光星が劣っているのは事実で。

あるのは、眷属としての強力な腕力と、光星が持つ元々の地頭だ。


「嗚呼、、、この屈辱的で不愉快極まる胸中。貴様を八つ裂きにし、杭で心臓を串刺し、十字架に縛り上げ、明日の朝日にて燃やし尽くしてやる。始祖様の隣にいる貴様を、何も想っていない貴様を、早く、早く早く――」


ジョーカーが語るアストレアはまさしく崇拝だ。

これこそが宗教と言わんばかりの敬愛に満ちた――模範的な姿。


「、、、あっそ」


けれどずっと、何を言っているのかさっぱりだった。

宗教が如何に人を惑わせ、かつ救いを齎すのか解っている。

だがジョーカーが告げた言葉には何も響かなかった。

薄っぺらい、あまりにも薄っぺらい。

まるで愛を感じない、自己愛に塗れたただの自己中心的な考えだ。


光星はただただ――。

ため息をついた。


「――始祖、とはよく言ったものさね。今のあたいより強い者はそこら中にいるだろうに」


と、電灯に寄りかかっていたアストレア。

煙草を手に取り、火を点けている。


「何を仰られますか。この二十一世紀に入った今でも、貴女様を超える者は存在しておりません。始祖様は今なおもこの世界における王なのです」


と。

だがアストレアはつまらなそうに。

煙草を吹かす。


「――慰安旅行の最中、下等で愚かな人間どもと対話した。はじめは忌避感しかなかったが、やはり話し出すと案外面白くてね。地球の隅々まで散歩して、色々と興味深く奥深く物事を確認して、直に体験してきた。お前も出張先で散歩してみるといい。いつまでもあたいに固執するな、他に関心を向けるべきものはいくらでもある」


「では、共に世界を回って頂きたいものですね」


「、、、ああ、それならゲームや映画鑑賞してる方がよっぽどマシさね。いや――」


光星を見向いて、ふっと笑った。


「それ以上に、厄介なものを背負わされてしまってね――だが、これが案外面白い。他にかまけている暇なんてないんだよ」


と。


「、、、、、、そうですか」


ジョーカーは空を見上げ。

再度光星を見た――。

大切な人を犯罪者に奪われたかの如く。

深い深い憎しみの込められた、殺意に満ち溢れた目をしていた。


「――日本支部から派遣されたのは、私目一人。それだけで十分という上の判断と、私目もすぐ片をつけて帰還する気持ちでこの地へやってきた」


「あ?」


そして膨れ上がる緊張感。

戦争のはじまりが近い。


「やめだ。貴様の関わる全てを破壊し尽くしてやろう。備考欄に『特筆すべき報告なし』と提出するためにも、友も家族も記録も記憶も、何もかもすべて――始祖様の眷属とはいえまだ成って間もない素人。力のコントロールができていない今、早急に終わらせてやる」


「ほざけッッ!」


先に動いたのは光星だ。


「だったらお前のを全部奪ってやるよッ!」


地面を蹴り、土を爆発させ、数メートル先のジョーカーへ一秒と掛からず肉薄した。

打拳。

その凄まじいスピードに乗せた身体全体を、さらに地面へと踏み込んで加速加重――あらゆる関節を稼働させてさらなるスピードへと至らせて拳を打ち放つ。

爆音。

爆撃。

正確無比の正拳突きが、ジョーカーの胸元へと吸い込まれた。


めり込む拳。

バキミシと骨と肉を断つ音。

そして爆散する血肉。

芝生の上へ、宙へ、遊具へ。

勢いよくぶちまけられる。


ザザアアアと。

べちゃぐちゃっと。


余波で、光星が住むマンションが下から崩れた。


――ということはなく。


空気砲から放たれた空気が最後には消えていくように。

アストレアが事前に展開した、公園をぐるりと囲い込む結界。

――人が消えていったのもそれだ。

結界に触れた直後にその衝撃が霧散したのである。


「、、、、、、」


光星は見下ろし、告げる。


「死んだふりはどうでもいい。さっさと起きろ」


ぐにゅぐにゅと蠢く肉片。

その飛び散った血肉が空気に溶け消え。

――芝生から頭が生えてくる。


「ええ、勿論」


ズルリと。

何事もなかったかのように。

立っていた。


「もう少し芸のある技を見せて欲しいですね」


だがズブリと、剣先がいつの間にか腹に差し込まれていた。


「、、、ッ!」


全く見えなかった――。

吐き出す血液。


「見抜けないのか? 間抜けめ」


獲物が月光で赤色に煌めく。


「この程度か?」


新たな短刀が首筋を狙う。

その気配を感じ、後ろへ飛ぶ。

喉元は切り裂かれたが、首が別れるはなかった。

動脈から迸る大量の血液。


「うるせえッ」


反撃にと、後ろ回し蹴りをかます。

鳩尾を狙った一撃。

だがジョーカーは一歩下がっただけ。


「ふっ」


と、クスクスと笑っていた。

光星はすぐに態勢を整え、正面に対峙する。


「やはり人間の常識的範囲内だな」


「あ?」


だが、ガクッと。

崩れ落ちた。

重力に従って――横へと地面に倒れたのだ。

困惑の中に訪れる痛み。

――片膝がない。

ジョーカーの足元に、その脚先が転がっている。


「さて、私目はいつ貴様の膝を斬り捨てたでしょう」


「、、、、、、」


と、わざとらしい質問にイラっとしながらも、後ろ回し蹴り時だとすぐに思い至って。

だがジョーカーが短剣を振り斬る素振りは無かったし。

一歩退いただけで、それ以外は何もしていないはずだ。


「お前は弱いな」


と、ジョーカーの影が蠢いているのを。

暗闇に紛れる何か。

黒い影そのものを見て。

理解する。


「私目はね――闇が好きなのだよ」


踏みつぶされるのを光星は地面を転がって避けた。

ドンッと地面が踏まれると、陥没して蜘蛛の巣状にヒビが入った。


「すべてを平等に包む闇、そして影は『無』そのものなのだ」


立ち上がった。

立ち上がれた。

足が生えていた。

膝から下の寝巻は元には戻っていなかったが。

足はしっかりと元のまま。


だが、治りがほんの少し遅い。

斬られた時点ですぐ再生するはずのそれがコンマで遅れていた。


それを疑問に思っている最中。


「何も理解していないな」


「、、、ッ!?」


解消させる暇もなく、短刀が飛んでくる。

身体を後ろへ反らして避けるも、その短刀は急に進路を変え、光星の眉間へと飛んだ。


「が、、、ッ」


短刀の根元まで突き刺さる。

即死だった。


「やれやれ」


そう言って背中から倒れて虚ろに目をむいた光星に近づき、その死体を見下ろす。

復活しない、治癒もしない。


「始祖様、これが貴女の眷属なのですか?」


頭を抱えるジョーカーに対し。

アストレアに慌てた様子はない。


「そう、あたいの眷属さね」


指をちょいちょいと差して。

――よく見ろと。


「――――――?」


と、足元へ視線を戻す前に。

視界がぐるりと回った。

次は3月20日ですm(__)m


ご愛読ありがとうございました。


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誤字脱字があれば仰ってくださいね。


今後とも、よろしくお願いいたしますm(__)m

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