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無銘退魔剣風帖  作者: 曼陀羅悪鬼
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第六話 当主召集会議


 退魔士、刀堂家の壊滅。

 この事件は瞬く間に神祇省により大和の退魔組織、退魔士へと広められた。

 刀堂家は数ある退魔士家系、組織の中では有力な組織であり、御三家に次ぐ功績を持っていた。

 故に壊滅に伴い、その地位、遺産を狙う退魔士がいくつもあり、それにより退魔士間での争いが起こる可能性があった。

 さらに問題はそれだけではなく、壊滅の原因である地下に封印した妖魔。

 刀堂家は討伐した妖魔を完全には滅ぼさずに、動けぬ状態に封印をしていた。その封印が破れ、妖魔たちが逃げ出した。

 組織が壊滅したとなれば、この現状は責任を取る者がおらず、神祇省はこの対処を他の退魔士に依頼として伝えることになる。

 しかし、組織としては壊滅したが所属していた者が一人生き残っていた。

 刀堂家無銘衆の青年。唯一の生き残りとなった彼に、その多大な責任が圧し掛かっていた。






―――――






 今現在の状況を一言で言えば、絶対絶命と青年は考えていた。

 刀堂家本拠地の壊滅から発生した火の手は一番近い町から来た消防組により治まった。その後に警察がやってきて死屍累々の惨状を目にされ、事情聴取として青年は身柄を確保された。

 そのまま町に連れていかれ、一日の拘留を経て神祇省構成員に引き渡された。

 頭に袋を被せられ、手を背後に縛り、馬車に乗せられ幾時か。馬車が止まり、降ろされ、歩かされ、重々しい門の開く音が聞こえた。そしてまた扉の開く音。そこから足場の感触が板張りの上を歩く感覚に変わったことから、屋外から屋内へといることがわかった。

 そしてまた扉の音。先導していた神祇省構成員に肩を押すように座らされ、袋を外される。

 

 今いる部屋は光源が蝋燭が三本のみの光の入らない密室。一見したところ、六畳ほどの広間。

 今この部屋にいるのは青年自身を含め七人。青年を囲むようにに四人。青年の前後左右に並び、その四人が几帳で全身を隠し、微かな影しか見えない。

 青年のすぐ背後には二人。青年をここまで先導した者たちが待機している。


「さて」


 前方にいる人物が口を開く。姿は見えないが声から老齢とわかる。


「此度はこちらの招集に応じていただき、御三家当主方に感謝いたします」


 御三家。この言葉が意味するのは大和における強大な退魔士の三大家系。

 帝直属組織である神祇省の下、大和を妖魔より守護する最も力を持つ家系であり、火御門(ひみかど)水波羅(みずはら)草鹿部(くさかべ)の三つを指す。

 前方の人物の言葉から青年の左右後方にいる人物がその当主。


神祇伯(じんぎはく)の権限において、刀堂家の遺産の分配についての話をさせていただきます」


 神祇伯。帝直属組織神祇省筆頭の長官である最高責任者。

 目の前の人物もまた、大物であった。


「刀堂家は聞いての通り、壊滅した。その財産を欲する退魔士も多く、衝突を避けるために御三家の方々に分配して管理していただきたい。

 刀堂家の所持していた土地は火御門家に。武具は水波羅家に。研究の書物に記録は草鹿部家に。そのように分けさせていただきます」

「神祇伯殿。よろしいですかな?」

「どうぞ、火御門様」


 青年の左側にいる人物が口を開く。


「その分配に異論はございませんが、この者は如何するのですかな?」


 この者、とは当然青年のことである。



「えぇ、えぇ。此度の刀堂の一件は遺産分配に関してだけでなく、まだ問題が残っております」


 青年の右側の人物も口を挟む。


「ゴホッ、火御門のに草鹿部の。神祇伯殿の話を遮るな」


 後方の人物が二人を諫める。

 今の会話から青年の周囲には前方に神祇伯、左側に火御門家当主、右側に草鹿部家当主、後方に水波羅家当主がいる

 青年は今まさに四面楚歌、蛇ににらまれたカエルのような状態である。


 そして先ほど草鹿部家当主の口にした問題。

 それは――。


「そう。御三方も懸念していると思われますが、刀堂家の封印から逃げ出した妖魔たちについてのことがあります」


 神祇伯の言葉に、青年のすぐ背後に控えていた神祇省構成員の一人が神祇伯へと歩み、紙の束を手渡す。


「妖獣に悪霊、付喪神……。先代刀堂家当主の代からの実に多くの妖魔を討伐している」


 ぺらぺらと紙をめくっていく神祇伯。

 手渡されたのは刀堂家の討伐した妖魔の記録。

  

「大入道に土蜘蛛、鬼に鵺……。実に多くの妖魔を生かしている」


 同時に殺さず、生かして封印していた妖魔の記録でもあった。


「退魔士は原則、妖魔は如何なるものであろうと討伐が絶対。刀堂家はその功績から、特例として妖魔の生け捕りを許可されていました。無論、その妖魔が逃げ出せば処罰を下すと帝様より受け賜っています。

 本来であれば財産没収に断絶、構成員は処刑か投獄。しかしすでに刀堂家は当主に構成員、下部組織の者たちも死んでいます。この者を除いて」


 つまりは、自分の処遇を決めるのであろう、と青年は四人の視線を四方から受けながら思いの外冷静であった。

 処刑となってもそれを退魔士の重鎮四人が決定したのであれば、覆すことはできないであろう。

 死にたくないが、現在自分には発言権がなく生かしておく理由もない。ほぼ諦めの境地と言える状況である。

 

「死刑でよろしいのでは? 聞けば、この者は無銘衆という刀堂家の下人なのでしょう? 死んでも困ることはないでしょう」


 そう火御門家当主が口を開いた。案の定、処刑することが提案された。


「あぁ、でしたら草鹿部に身柄を預けていただければ」


 草鹿部家当主も処刑に肯定的だ。その声はどこか楽しみにしているように恍惚としている。


「まぁ、待て……。俺はこの者には、まだ働いてもらうべき、だと思うが……」


 対して水波羅家当主は否定的な態度であった。

 それに火御門家当主が食って掛かる。


「働いてもらう、とは? 何の功績もない若輩に何を期待しているのですかな?」

「何も功績がないからこそ、俺たちは、こいつがどれほどか知らんだろう?

 報告を聞く限り、空亡を討伐しているらしい、のだから、弱いわけでは、あるまい……」

「逃げ出した妖魔を、この者に一任すると? 後世育成のおつもりですかな?」

「そういうつもり、ではないがな……」

「一度取り逃がした家の者がまた取り逃がさないとは限らないでしょう。逃げ出した妖魔は我々が対処すればよいでしょう」


「我々、ではなく、火御門が、と言いたいのでは?」


 火御門と水波羅に、草鹿部が口を挟む。


「おや? 草鹿部殿、貴公は死刑に賛成では?」

「いえ、その通りですが。少々火御門様の言葉が気になりましてね」

「ふむ。別に草鹿部殿の考えているようことはありませぬが……。草鹿部家は妖魔に対して及び腰なのですかな?」

「はは、面白いことを言いますね。正直、妖魔よりもそちらの火の手の方が恐ろしいですね。いずれは人へも向かいそうだ。いや、すでに姫様が向けていましたかな?」

「おや、こちらの家の事情に口出しですかな? そちらも後継者であるご子息が亡くなられたらしいですなぁ」

「やめろ、二人とも……話が、進まん……」

「水波羅殿、貴公にも答えを聞きたいですな。もしこの若輩が取り逃がしたらどうするおつもりで?」

「当主の責務を放り、病弱な身に鞭打って自ら出向くおつもりでございますか?」

「……貴様ら」


「御三方、そこまで」


 神祇伯が当主たちの口論を止める。

 御三家の当主たちはどうやら互いに反目しあっているらしい。今の会話から相手に対する嫌悪、敵意を蚊帳の外と化していた青年にも感じられた。


「以前、伝えましたが、この場における組織間の対立は抑えていただきたい。

 さて、この者についてですが、刀堂家は壊滅状態から断絶、財産は御三家に分配。罰則はすでに施行済みという状況であります。

 そこで、この者は神祇省が預かる、ということにしていただきます」


 神祇伯の言葉は青年を含め、他の者たちにとっても意外であった。


「火御門様の言った通り、この者を生かしておく必要はないですが、わざわざ殺す必要もない。であれば、水波羅様の言う通り、利用価値はまだあります。

 一応、この者は退魔士として認定はされていますので、神祇省所属の退魔士として活動してもらい、こちらで監視と事後処理を行わせていただきます」


 神祇伯の言葉は、青年の命は助かるが監視と言っている。

 監視と事後処理。刀堂から逃げ出した妖魔の討伐捜索は神祇省で受け持ち、その対処にこの青年を使う。そして青年はそれから逃げ出さぬように監視を付ける。

 以上のことが神祇伯より御三家当主に告げられる。

 それに対し、火御門と水波羅は了承。草鹿部は青年の身柄を草鹿部家で預かることを提案したが却下された。


「さて、では刀堂家の生き残り殿。貴公はこれより神祇省に所属してもらうこととなった。発言を許すが、それに異論はないな?」

「……はい」


 無論、異論はない。

 生きながらえることができるなら、その選択をする。


「では、貴公のことは何と呼べばいい? 刀堂家は退魔士となれば名をもらえるのだろう?」

「名前……」


 たしかに青年は刀堂家の銘在りとしての資格を得た。

 師匠である村雨から、銘も考えられ伝えられていた。

 だが、正式な銘付の儀を行う前に、師匠から銘を授けられる前に、皆死んでしまった。

 だから、今の自分は銘の無い退魔士でしかない。

 故に、名乗るとすれば――。


「――無銘。刀堂無銘、と名乗らせていただきます」


 秋水に呼ばれた無銘という呼び名が今の自分に相応しく。

 そして今の自分は刀堂の名を名乗る資格があるという自負と覚悟があった。


「……ふむ、刀堂を名乗りますか……。

 では、刀堂無銘。近々貴公には神祇省の任務に就いてもらう。同時に刀堂家から逃げ出した妖魔の調査・討伐を行ってもらう」

「承知しました」

「では、貴公はもう下がってよい」


 神祇伯のその言葉に無銘はまた袋を被せられ、先導され退室していく。

 処刑は逃れ、生き残ることはできたが、現状多大な責任が自分に背負わされている。

 現状は絶体絶命から、今まさにお先真っ暗な状態であった。




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