12.話し合い 2
しばしの沈黙、その沈黙を破ったのは国王だった。
「さて、リアテム嬢の気持ちが優先される以上、これ以上は話し合いを設けてもしょうがない。次の議題に移ろう。」
ハロルドは耳を疑った。今日はあの婚約破棄の騒動の話し合いの場ではなかったのか。それなのに次の議題とは?
「さて、貴殿たちは貴族間に起きた詐欺騒動を知っているか?」
ハロルドが周囲を見渡すと誰もがその話を知っているようだった。学園に通って外の情報が入りにくいウェイラとも話したことがあるくらい有名な話だ。
「実はこの場にその被害者がいる。ルーテル伯爵殿、そうだな。」
「は、はい…恥ずかしながら…」
ドーフェは申し訳なさそうに答える。
「やり口を見れば私だって被害にあっていたかもしれないんだ。そんなに気落ちすることは無い。」
「は、はい…ありがとうございます。」
国王は一度咳払いした。
「次の議題は詐欺の話ではなく、その後の話だ。詐欺にあった後ブライダ伯爵の商会から金を借りた。間違いないな?」
「は、はい…」
ハロルドはなぜその話を国王がと思ったが、国王のそばには王太子が、そして聖女ミューリがいる。ミューリはドーファの娘であるためもちろんこの話を聞いていたのだろう。それを国王に話していたのかと理解する。そして、自分が父親から聞いていた話と同じことをミューリも聞いていれば…
「その時の契約書、持ってきてくれたな?」
「は、はい。ここに…」
ドーファは丸めて紐で括っている用紙を差し出す。国王はそれを受け取り紐をじっと見る。特に問題なかったのか紐をほどいて内容を検めた。
「…なるほど、無利子で貸す代わりにリアテム嬢をヴィッジマーラ殿に嫁がせる契約になっておるな。」
「さようです。そのように契約しました。ただそれはリアテム嬢がハロルド様に嫌気がさした後に行った契約です。その契約で無理やり婚約破棄を迫ったわけではございません。」
ヴィッジマーラは慌てたように言っている。はっきり言ってそのあたりの因果関係は証明が難しい。契約書の日付など後から書き加えることもできるためあまり重要視されていないこともあるくらいだ。だから先ほどの話が効いてくるのか。証明ができない以上、それにかかわった者の心情や証言を引き出そうとする。これが裁判ではなく話し合いだからできるかなり強引なやり方だとハロルドは思った。
ちらりとリアテムを見る。その時リアテムと目が合い、二人は慌てて目をそらした。わずかに…まだほんのわずかだが希望が持てる気がする。
「それにこの契約書…何かおかしいな…」
国王は契約書の裏を見て再び表にして、天井の光で透かすように持ち上げ見ている。それを見たヴィッジマーラは焦った。
「へ、陛下…契約に用いる用紙に不備などは…」
国王は何かに気付いたように用紙の端を指先で触れ、その部分が二つに裂けた。そして裂けた両端をもって引っ張ると契約用紙が二枚に分かれる。
「あぁ!!」
悲痛な叫びをあげたのはヴィッジマーラだった。
「やはりな。かなり古い改ざん契約書だ。表面に普通の文面を書き、こちらの中面に相手の不利になる契約を追加で書く。それを張り合わせてしばらくすれば中面の文字が表面に染み出るって寸法だ。確かこの詐欺商品を開発したのはブライダ領の者だったと記憶している。もっとも、私が子供の頃に摘発されたものだから今知っているものも少ないと思うが。」
国王が分けた用紙をヒラヒラと振りながら言う。
「さて、この用紙の出自はどうであれ、今回これが使われたのは明白。よってこの契約は無効になる。とりあえずこれはこちらで預かろう。」
国王は用紙を側にいる王太子に手渡す。
「さてヴィッジマーラ殿。この用紙は現在製造も禁止しているものだったはず。なぜ貴殿がこの用紙を持っていたのかな?」
少し低い声で国王が問う。
「も、申し訳ございません。そのような用紙だとはつゆ知らず、商会に有ったものを使っておりました…」
その言葉はある意味自白だとトライスは思った。製造も禁止している以上商会に有ること自体が問題。他の契約でも使い詐欺を行っていると言ってるも同意だと。
「ふむ、まあいい。その件は今回とは別の話になる。今は置いておこう。」
その言葉にヴィッジマーラは安堵した。やはりどこか抜けているなとトライスに思われているのも知らずに。そして次に国王が言う言葉をトライスは予想できた。
「リアテム嬢、契約が不当であった以上君の本心を聞かせてほしい。君はハロルド殿との婚約破棄を望むかね?」
トライスは国王は最初からここまで想定していたのかと驚く。だからどんな証拠を出してもリアテムの気持ちが優先されると言っていたのかと。




