28:ハンマーおじさんー③
その中は、生活のニオイがするほどに整い、天井部分の板のそこかしこの隙間から差し込む陽光が、薄暗いながらも小屋の中を照らし出していた。そしてその中央に、ボロボロで、綿が至るところからはみ出した敷き布団だったものがあり、その上で素っ裸の男が呑気にいびきをかいて寝ている。
意外でありながらマヌケな光景を目にした慎吾は、しばらく呆けてその男を凝視していた。
「ミオカさんじゃん」
慎吾の肩越しに、中のようすを窺った直人が呟いた。そこでようやく我に返った慎吾は振り向いて、ミオカさんのあられもない姿を、目を伏せて見ないようにしているワチコを見やった。
この状況はどうするべきだろうか?
「んあ?」
考えあぐねていると、ミオカさんがとぼけた声を出して目を開いた。恥ずかしげもなく股間の毛に手をうずめて掻いている、あまりにも不気味な光景に、顔をしかめて無言で立ち尽くす、直人と慎吾。
ミオカさんがゆっくりと立ち上がり、
「なんだ、お前ら?」
と、さほどおどろいた様子もなく、酒臭い息を二人に浴びせかけた。
たしかに見覚えのあるその男に、なんと言っていいものか分からず、そっと直人の様子を窺うと、信じられないことに満面に笑みを浮かべていた。眼前のミオカさんを、待ちわびた面白いことだとでも思っているのだろうか?
「ねえ、あんたがハンマーおじさんなの?」
直人がきくと、ミオカさんはその質問がよほどおかしかったのか、呵々と大きな笑い声を上げた。
「お前らもそう思って来た奴らか。さいきん多くて困ってるんだよな、チキショウめ」
悪態をつきながら笑うミオカさんを見ているあいだに、すっかり緊張の糸が緩んだ。
ミオカさんが「暑いんだよなチキショウめ」と言いながら、ゴムの伸びたブリーフを履き、中へ入るよう促した。警戒しつつも、なぜか入らなければいけないような気がした慎吾は、直人のあとに続いて小屋に入った。
「お嬢ちゃんも来なよ」
酒ヤケのしゃがれ声で、中へ入るのをためらっているワチコに言ったミオカさんは、そのままアグラをかいて、シケモクに火を点けた。その煙が、天井に空いた穴から外へと抜け出していく。
ワチコはようやく中へと入ったが、それでもミオカさんへの警戒を解いていないらしく、慎吾のうしろに隠れるようにして座った。四人いるとさすがに窮屈に感じる。




