28:ハンマーおじさんー➁
あまり広くない敷地のあちらこちらにうずたかく積み重なった廃材が、迷路のようになっている。そこかしこが死角になり、いつ、どこから『ハンマーおじさん』が飛び出てくるのか分からないという、妄想じみた恐怖が背筋を撫でた。手にジットリとかいた汗が、握ったままの石を濡らしている。
前を行く直人は、死角になっている場所をのぞき込みながら、なにか面白いことが起きるのを今か今かと待ちわびているようだった。
左手に石を持ち替えながら、となりのワチコをそれとはなしに見やると、いつもの最凶の笑顔を浮かべながら、彼女もまたキョロキョロとあたりの様子を窺っていた。たぶん、直人を守らなきゃいけないというワケの分からない使命感は、頭の片隅に追いやられているのだろう。
右手を見ると、石についていた土埃が、湿って黒くこびりついていた。
「おい、あれ見ろよ」
敷地の奥まで来て、なにかを見つけた直人が嬉々として前方を指した。
見ると、不自然に積み重ねられた廃材があり、それがまるで不格好な小屋のように見えた。おそらく入り口だろう空洞部分の上方から、カーテン状に吊り下げられたブルーシートに、なぜか軽い既視感を覚える。
「行ってみようぜ」
「え、行くの?」
「怖いのかよデブ」
「べ、べつに怖くはないよ」
直人とワチコの両方ともが、慎吾を見ながら笑っている。
またバカにされているのが腹立たしくなった慎吾は、二人を押しのけ、
「ぼくが先に行くよ」
と、鼻息荒く宣言した。
こういう時こそ勇姿を見せるチャンスだ。
うしろの二人は無言で、振り向くことが妙にしゃくに障り、慎吾はそのまま小屋へと歩き出した。
一歩一歩進むたびに、照りつける太陽に水分を奪われた地べたが、土埃を舞い上がらせる。
手を伸ばせば触れられるほどにブルーシートへ近寄り、しばらく逡巡したあと、勢いよくそれをめくり上げた。




