28:ハンマーおじさんー①
赤錆びた不気味な金網の前に立った慎吾は、網目越しに見える、乱雑に積み重ねられた廃材の山を眺めながら、本当にここに来て良かったのか、と急に不安になっていた。
しかし、となりの直人とワチコの横顔を見ていると、ここで、このグループ内での地位を少し上げられるチャンスではないのかという気にもなる。
奈緒子が戻ってくるまでに、この二人に対等な意見を言えるようになっていたい。
「じゃあ、行くか」
そう言ったかと思うと、直人がすぐに金網をよじ登り、気づいたときにはもう敷地内へと飛び降りていた。
その無鉄砲ぶりに一つため息をついたワチコも、慎吾を置いて金網をよじ登り始めた。
「ま、待ってよ」
慎吾もあわててそのあとを追った。
思案に暮れているあいだに、また最下層に戻るのはイヤだ。
せめて、女子であるワチコには勝たなければ。
不格好に金網をよじ登っているあいだに、ワチコが敷地内に飛び降りてしまった。揺れる贅肉に邪魔されて、まだ半分しか登れていない慎吾を、いつものように二人が笑う。
恥ずかしさに顔を真っ赤にしながらようやく金網を登りきって、敷地内を見下ろすと、目眩がするような高さで、正次と来たときには、金網になぜか空いていた穴をとおり抜けたんだっけ、とふと思い出した。
だがそんなことを、眼下で笑う二人には言えない。
意を決して飛び降りると、見事に尻もちをついた。二人の笑い声がさらに大きく耳に響く。気がつけばいつもの二人に戻っていて、それに苛ついた慎吾は、意味もなく、近くに落ちていた拳大の石を拾って立ち上がった。
「なんで石なんか拾ってるんだよ」
直人が、その不自然な行動を見て笑う。
「こ、これはアレだよ、奈緒子の《都市伝説コレクション》にしてもらおうと思ってさ」
「なるほどね」
言外に皮肉を込めた、直人の言葉。
表情はすっかりいつものそれに戻っていた。
だけど、正直その方がやりやすい。
「で、チャーさ、どこにハンマーおじさんはいるの?」
「さあ」
「さあって、デブ、なんだよそれ」
「だ、だってぼくここに来るの、久しぶりだもん」
「まあ、いいじゃん。探そうぜ」
直人が歩き出した。そのあとを二人も追う。




