27:提案ー➁
「だ、だからさ、そういうことだからさ、どっか行かない?」
「どこに? 言っとくけど、おれはどこも知らないよ」
「あ、あそこは? ほら、廃材置き場のところ」
慎吾は廃材置き場にまつわる都市伝説を二人に語り始めた――
◆◆
『ハンマーおじさん』
学校の近くの廃材置き場。
危険な場所なので、そこに立ち寄る者はほとんどいなかった。
そこから、夜な夜なハンマーで何かを叩くような金属音がリズム良く響いているという。
そして、最近は昼間にもその中をうろつく人影が度々目撃されており、その右手にはハンマーらしきものを持っているらしい。
◆◆
――正直、そんな場所にいる人なんて変質者にちがいないと思う。
この話は単なる目撃談だ。『のいず川のドクロネズミ』のときと一緒だ。だがこの町の都市伝説の場所にほとんど行ってしまった今となっては、そこくらいしか残ってないのも事実。
「でもそこってさ、行っちゃいけないところじゃん」
いつもならどこにでも興味を持つ直人が、珍しく渋った。たしかに町山先生やその他の大人たちに、行ってはいけない危険な場所であるとは言われている。だが危険だと言っても、気をつければ大丈夫な場所だということを慎吾は知っていた。むかし正次と一緒に秘密基地の材料を調達しに行った場所だったから。
それにあの時は誰もいなかった。
「だ、大丈夫だよ。ぼく、何回か行ったことあるけどなんにも起こらなかったよ」
「でも危ないんじゃないの? おれいやだよケガとかするの」
「ビビってるの?」
直人が妙に慎重なのがおかしくなり、慎吾はいつもの仕返しとばかりに小バカにするような顔を作った。
「怖くはないけどさ」
「やめようぜ、そこ」
ワチコも、眉間にシワを寄せて廃材置き場へ行くのをためらっていた。きっと直人がそこでなにかの罰を受けてしまうのではないかと思っているのだろう。
そんな二人を見ていると、いつもと立場が逆転したようで、胸の空くような気分になった。
「大丈夫だよ。ぼく行ったことあるけどなんにも怖いことなんかなかったよ」
「なにも無いのはそれで面白くないけど」
直人が、さっそく言葉尻をとらえてつっこんできた。
「でもさ、直人が言ってたんじゃん、そういうのは暇つぶしだって」
「まあ、うん、そうだけど……」
「行こうよ」
いつになく消極的な直人とワチコを見ていると、ますます楽しくなってきた。
「……そうだな、じゃあ、そこ行こうぜ」
「やめた方がいいって。絶対なにか起こるから」
慎吾の提案にようやく乗った直人を、ワチコが止める。
「だからお前がついてくるんだろ。そういう時のために見張ってるんじゃないのかよ」
「そう、だけどさ」
「いいや、チャー、行こうぜ」
「うん」
直人に腕を引っ張られた慎吾は、それでも渋るワチコを見やった。
目が合ってすぐにワチコは視線をそらし、仏頂面で二人の横に並んできた。




