26:推理ー③
「えっと、誰なの?」
「こんだけヒントあげたのになんで分かんないんだよ。おれは教えないよ、犯人」
「なんでさ?」
「だって、そんなのを書いたって、みんなにバレたらかわいそうじゃん。瀬戸じゃないけど、今度はそいつが学校に来られなくなるぜ。どうせウソなんだし、ほっときゃいいよ」
直人の意外な優しさに、それ以上つっこんで聞くことができなかった。
「分かった。もう聞かないよ」
「意外と素直だな。その誰にでも優しくて素直な性格が羨ましいよ」
急に真顔になる直人。いつもの小バカにするような顔で言われていたら怒ることもできるが、そんな表情では、なにを言っていいのか分からない。
ふと人の気配を感じて病室の入り口を見やると、ワチコが所在なさげに佇んでいた。
「あ、来たんだ」
「うん」
まだ奈緒子とのケンカを引きずっているらしいワチコは、力なくうなずいて、直人の寝転がるベッドに腰を下ろした。
「暑いんだから、向こう行けよ」
ワチコの心境などおかまいなしで、直人がいつものように憎まれ口を叩く。
ワチコはなにも言わずに立ち上がり、今度はマットでアグラをかく慎吾のとなりに座った。いつもみたいになんの理由もなく肩パンでもしてもらった方が、いくらかこの場の雰囲気もなごむような気がしたが、体育座りで膝に顎を乗せるワチコは、なにかを考えているようで、まるで慎吾が眼中に入ってないようだった。
「ねえ、今日はどうする?」
「これからまたキャッチボールの練習だろ」
「それもいいけどさ、ワチコが一人になっちゃうじゃん」
「あたしのことは、べつにどうでもいいだろ」
「そういうわけにいかないよ」
「なんでだよデブ」
「なんでって言われても困るけど」
「……じゃあさ、またどっか行く? おれはどこも知らないけど」
「バカ、あんまりここから動かない方がいいって直人は」
「なんでだよ?」
「罰がいつやってくるか分からないだろ」
「だから、そんなのウソなんだってば」
「ウソじゃないって」
「ガンコだなあ。じゃあいいや、ここで寝てるから見張っててください」
「そのつもりだよバカ」
ワチコに皮肉の入り混じる笑みを浮かべてから、直人は背を向けて本当に寝てしまい、五分と経たないうちに静かな寝息がここまで聞こえてきた。どうやら直人は慎吾とちがって寝つきのいい人間らしい。




