26:推理ー➁
紀子が直人に好意を寄せているのは、端から見ていても分かる。だけど、直人のほうはどう思っているのだろう? 奈緒子が言ったとおり、男子が好きな相手に冷たく当たるものだとしたら、直人の紀子に対する態度はまさにそのとおりだ。
だが、そういう普通の性質というものが、この、目の前であおむけになった少年に当てはまるのかというと、はなはだ疑問だ。
直人のように、普通という枠からはみ出したような人間にも、それが当てはまるのだろうか?
ただ単純に紀子のことを嫌っている可能性も、十分にあり得る。
いずれにしろ自分には分からない問題だ。
それにあのとき、なんで奈緒子がそんなことを言ったのかも分からなかった。直人が紀子を好きなのかどうかが、そんなに気になっていたのだろうか? だとしたら、まさかだけど、奈緒子は直人のことが好きだったりするのかしら? もしそうだとしたら、とてもじゃないけど勝ち目がない。哀しいけど、それが事実。
「ねえ」
「ん?」
「……ううん、なんでもない」
聞けない。怖い。直人が奈緒子をどう思ってるのかなんて。
「なんだよ、言えよ。おれそういうのが一番イヤなんだよ」
「し、失恋大樹のさ、あの名前のことどう思う?」
「……ホントにそれかよ、聞きたいこと?」
「う、うん」
「……どうって言われても、ウソだろってしか言えない。ワチコはさ、なんか知らないけどちょっとマジになりすぎなんだよ。たまたまだよ、瀬戸のことは」
「そうかな?」
「そうだよ。え、チャーってそういうの信じてんの?」
「分かんないけどさ、ほら『金田鉄雄の家』でさ、UFO見たでしょ。だからさ、そういうのあるのかな、とかは思ってる」
「UFOは見たけどさ、だからってそれがなんで『失恋大樹』のハナシがホントだってことになるわけ? ぜんぜん関係ないじゃん」
「そう、だけど。でも奈緒子が前に、噂ってのはそれがどんなにバカバカしくてもその噂のある場所にはなんかの理由とかがあるんじゃないか、って言ってたよ」
「奈緒子が言ってりゃ、ぜんぶ正しいのかよ?」
「そういうことじゃなくて」
「うーん、でもさ、そういう幽霊とか呪いとかって、ウソだと思うんだよな」
「だけど、だけどさ、失恋大樹にはいっぱい名前が書いてあるよ。それに、セト君は名前を書かれてから十五日目に、学校に来なくなっちゃったじゃないか」
「本気で恨んでて、あんなとこに名前を書くヤツなんていないよ。好きな人にフラれたとか、好きな人に好きな人がいたとか分かって、イライラした奴らが書いてるだけだよ。瀬戸のはそれがたまたま重なっただけだって」
「直人の名前、だれが書いたんだと思う?」
「思うって言うか、99%で分かってるけどな」
「なんで分かるの? 男だって言ってたよね」
「男だって言ったのはさ、おれはだって、誰からも告白されてないからってのが理由の一つ。誰かは分からないけど、おれを好きな女子がいてさ、その女子を好きな男子が、それに気づいて書いたってことになるだろ」
「うん」
「それにさ、あの失恋大樹の周りって土じゃん。雨で濡れてたからさ、足跡が残ってたんだよ。まあ、足跡よりも確実にアイツだっていう証拠もあったけど。それに名前を書く奴らって面白くてさ、ちょっと悪いなっていう気持ちもあるのかもしれないけど、みんな下のほうに書くんだよ。たぶん隠れようとして、しゃがんで書いてるんだろうな。だけどさ、おれの名前は上のほう、おれらが立っててもフツーに見える場所にあった。そうなったらさ、悪いけど犯人はアイツしかいないじゃん」
ぜんぜん分からない。男だっていうのはなんとなく分かったけど、それ以外のヒントはどういう意味なのかさっぱり分からなかった。




