25:彫られた名前ー④
「うん」
「……あー、あのね、わたし、明日からちょっと行けないから」
「え、病院にってこと?」
「うん」
「なんかあるの?」
「うん、ちょっとね。お母さん明日から仕事が休みで、それでさ、ちょっと手伝いしなきゃいけないから」
うつむく奈緒子の物憂げな横顔が、それ以上つっこんで聞くことをためらわせた。
「そっか、いつくらいに来れるの?」
「うーん、二十日くらいかなあ」
「登校日じゃん」
「そうだね。学校に行ったあと、そのままみんなで病院に行こうよ」
「分かった、みんなにも言っとく」
「ごめんね」
「大丈夫だよ。金魚もちゃんと飼うからさ、いつか見に来てよ」
奈緒子がふと顔を上げて慎吾を見つめた。
「行っていいの?」
「いいよ。だってほら、友だちでしょ」
「……そうだね、チャーは友だちには優しいもんね」
顔を綻ばせ、さっきの慎吾の言葉をまねた奈緒子が、また視線を落とした。
「じゃあ、わたしもう帰るね」
「うん」
「……じゃあね」
そう言ってからしばらく名残り惜しそうにした奈緒子は、無理矢理に作ったような笑みを浮かべて手を振り、人影のない深閑とした商店街の路地を下駄を鳴らしながら帰っていった。
今日の奈緒子は少しおかしかったな、と、そのうしろ姿を見ながら思った。
ワチコにあんなに怒ったことも、直人が紀子のことを好きなのかと聞いたことも、それから誰にでも優しいという自分の性格をあんなにトゲのある感じで言ったことも、慎吾にはその本意が分からなかった。




