25:彫られた名前ー③
神社を出て、ここまで聞こえる祭り囃子を背にしながら、四人は無言で横並びに歩いていた。
楽しくなるはずの縁日がこんな形で終わってしまうなんて、昼間は想像だにしていなかった。
右隣の奈緒子のうつむいた横顔がなんだか痛くて、なにか言わなければ、と大したものが入っていない頭の引き出しを片っ端から開いたが、案の定すっからかんだった。
「あれ、ワチコ、クマは?」
直人が不意に言った。
「あ、忘れた」
目を赤く腫らしたワチコが立ち止まる。
「取って来る」
「あ、いいよ、おれが取ってきてやるよ。明日、病院に持ってくからみんなはもう帰っちゃっていいよ」
直人がチラと慎吾を見て、そしてすぐに神社へ一人で駆けていった。
逃げたな、と慎吾は思う。
こういうとき、直人は我関せずになるヤツなのだ。
「どうする、帰る?」
「……あたし、やっぱりここで直人を待ってるよ、ごめん、ナオちゃんたちは帰っていいよ」
ワチコも、この気まずい状況から逃げ出したいのだろう。
「分かった。奈緒子、行こう」
「え、でも」
「いいから」
慎吾はワチコに手を振って、奈緒子を連れだって歩き出した。
きっと、今はこれが最善の策なのだと一人合点しながら。
「……ねえ」
「ん?」
「ワチコちゃん、わたしのこと嫌いになっちゃったかな?」
「そんなことないよ。ワチコだって、いまおんなじことを考えてるよ、きっと」
「そう、かな?」
「そうだよ。明日謝ればいいじゃん。それでワチコも奈緒子に謝れば、ぜーんぶ解決するよ」
「……」
「……」
「…………ねえ、直人君って沢田さんのこと好きなのかな?」
「え?」
「あのさ、のいず川に行ったとき、直人君、沢田さんになんか意地悪な感じだったでしょ。だから好きなんだろうなあ、とか思っちゃって」
「なんで意地悪だと、好きってことになっちゃうの?」
「え、だって男子って好きな女子に、そういう風になるんでしょ?」
「そうかなあ、よくぼくは分からないけど」
「……チャーって、誰にでも優しいもんね。わたしとワチコちゃんにも優しいし。なんで?」
「だ、だって友だちだし、それに意地悪くする理由がないよ」
「意地悪くする理由、ないんだ?」
「う、うん」
「……そっか」
それから無言のまま、いつも別れる商店街前に来た二人は、しばらく佇んでそれぞれ手持ち無沙汰に、金魚の入ったビニール袋を眺めていた。
「水槽ってある?」
「え?」
「わたしんチさ、水槽とか無いんだよね」
「あ、そうなの? ぼくんチにはあるよ」
「じゃあさ、このコたち飼ってくれない?」
「うん、分かった」
ビニール袋を手渡した奈緒子が、なぜか深呼吸をして、
「じゃ、もう帰るね」
とだけ言って、笑った。




