24:縁日ー④
ひとつため息を吐いた紀子が、
「山下さんを捜してたんでしょ?」
と、慎吾に微笑みかけた。
「う、うん」
「直人とワチコは?」
「なんか、どっか行っちゃった」
「あ、そうなの?」
少し落胆の色を浮かべた紀子は、手招きをして、慎吾を奈緒子のとなりにやった。
「来ないと思った」
横にズレながら、つっけんどんに言う奈緒子。
「え、だって金魚すくいやろうって約束したじゃん」
「……」
店のオバサンに三百円を払って、ポイと水色のプラスチックボウルをもらった慎吾も、さっそく金魚すくいに挑戦した。
こういうときこそ、自分の器用さを見せつける最大のチャンスだ。
となりの奈緒子はさすがにもう五匹もゲットしていて、ポイもまだまだ破れそうもなかった。慎吾も負けじとすぐに二匹の赤い金魚をゲットした。
「チャー、やっぱり器用だね」
紀子が嬉々として慎吾を褒める。吉乃と清実も、同様に感心しながら慎吾のポイさばきを食い入るように見ていた。
正直、悪い気はしない。
「コツさえ覚えればね、簡単だよ」
「へえ、じゃあ教えてよ。オバサン、もうひとつちょうだい!」
紀子が新しいポイをもらい、袖をまくって大げさに構えた。
「真ん中ですくおうとしないで、端っこに寄せてすくうようにするんだよ」
「……あ、できた」
単純な教えが功を奏し、紀子はすぐに金魚を一匹ゲットした。
喜ぶ顔が近い。
ドキドキとしながら、紀子は人との距離感がいつもおかしい、と慎吾は思う。
「あーあ、破れちゃった」
二匹目の金魚の抵抗にあえなく破れたポイを見つめて、嘆く紀子。
「惜しい! でもすぐにとれるなんてさすが紀子だね」
「えー、そうかな。うん、でもありがとう。チャーのお陰です」
「い、いいよお礼なんて」
ビニール袋の中で気持ちよさそうに揺れる金魚を嬉しそうに見つめた紀子は、次に行こうと言う吉乃たちに促され、「また学校でね」と言ってすぐに雑踏の中へと消えた。
「なんか、楽しそうですねえ」
しばらくそのうしろ姿を目で追っていると、険のある奈緒子の言葉に後頭部を叩かれた。
「え、あ、うん、ごめん」
「だから、謝らないでよ」
「う、うん」
やっぱり変だ。奈緒子と二人になると急に言葉がどこかに隠れてしまう。
「わたしのこと忘れてたでしょ?」
「そ、そんなわけないじゃん」
戸惑いながら返すと、奈緒子がボウルに蓋をするように手を被せた。
「じゃあ、何匹とったか分かる?」
意地の悪い質問。
「えっと、ご……七匹くらい?」
「それでいいの?」
「う、うん」
奈緒子が手をどけたボウルの中で、十匹の金魚が窮屈そうに身を寄せ合っていた。
「不正解!」
「あ、でもすごいね! ぼくそんなにとれないよ」
「ギブアップするの? 命令をひとつ聞く約束だけど」
「あ、うん、そうだった。頑張んなきゃ」
意気込んで金魚をすくおうとした慎吾は、欲をかいて黒い出目金を狙い、気持ちいいくらいにポイが破れた。
「はい、負けー」
奈緒子が嬉しそうに笑った。
「じゃあ、なんか考えておくからね」
「う、うん」
金魚をビニール袋に入れてもらい、さて直人たちを待つべきか、と二人で相談していると、向こうから直人が一人でやって来た。
「あれ、ワチコちゃんは?」
「それがさ、なんかよく分からないんだけど二人を呼んでこいって言ってんだよ」
「ワチコちゃんどこにいるの?」
「こっち」
言って、直人はふたりを見ることもなく、元来た道をもどりはじめた。




