22:夜遊びー➁
「あ、そっか……ごめん」
舌打ちを一つしたワチコと、そのやりとりを笑顔で見ていた奈緒子が、懐中電灯の光だけを頼りに闇の中に消えた。
「おい、どうする? 覗く?」
さっそく悪巧みを提案する直人への苛立ちを抑えながら夜空を見上げると、あと数日で満ちそうな右辺の少し欠けた月が雲間から顔を出しているのが見えた。
「……ねえ、かぐや姫ってホントに月にいるのかな?」
「さあ、どうだろうなあ。NASAの人に聞いてみろよ。月に行ったとき見たかどうか」
「電話番号とか知らないし英語も分からないよ」
「じゃあ、諦めろよ。いるわけないし」
「ロマンがないなあ」
「サンタクロースがいるって信じてるようなもんだろ、くだらねえよ」
「あ、去年は、なにもらった?」
「なんだっけ? あ、あれだよ『ジュキラスのクレイジーマシンガン』とかいうクソゲー」
「へえ、直人もゲームとかやるんだ。それ学んチでやったけど、ぜんぜん面白くなかったな」
「おれもべつに嬉しくなかったけど、喜んでるフリしたなあ。チャーはなんだった?」
「ぼくはジャージセットとジョギングシューズと万歩計。ほら、この靴がそうだよ」
「完全にダイエット用じゃん。イヤミなサンタさんだな」
「お待たせ」
他愛のない話題で盛り上がってる二人に、すでにバラバラ女に成りきった奈緒子の氷みたいな声が闇の中から囁きかけた。
声だけで十分にヒヤリとする。
「まだだからな」
先に姿を現したワチコが、逸る二人を制して意地悪く口を歪めた。
「じゃあ、バラバラ女さん、どうぞ」
眼前の、どこまでも続いているような暗闇から、バラバラ女が姿を現した。右手には包丁、左手には生首を抱えて。
「地を這うヘビと糸を生むクモ、どちらがお好きですか?」
頭からつま先までを冷たく貫く氷のような声。その女の無機質な笑みのどこにも、昼間のよく笑う少女の面影はなかった。
「……もう、なんか言ってよ。わたしがバカみたいじゃん」
聞き慣れた少女の声色に戻ったバラバラ女が、生首で慎吾の肩を優しく小突いた。
「う、うんごめん。すごいね」
「……それだけ?」
闇に溶ける奈緒子。
それが、怖かった。
「すっげえよ、マジで怖いじゃん!」
突然、興奮気味の直人が鼻息荒く大声を上げた。
「あ、うん、ありがと」
「じゃあ、お前らこっちに隠れろよ」
懐中電灯を点けたワチコが、手招きしながらふたたび闇の裂け目へと姿を消した。
慎吾と直人も慌ててそのあとを追う。
奥まで行くと、どちら側のビルの荷物なのか判然としない雨ざらしの段ボール箱がいくつか積まれて、不格好なトーテムポールみたいになっていた。その影にしゃがみ込み、背を向けて佇むバラバラ女の方を見やると、そこはここよりも幾分か明るく、車道を挟んだ向こう側にある街灯の赤黄色い光が煌々と照っているのが見えた。




