21:かけがえのない存在ー①
「ねえ、これ本当に大丈夫?」
奈緒子が不満顔で慎吾に言う。
先日、ついに完成した《バラバラ女の血だらけワンピース》を着たその姿が滑稽に見える。想像していたような怖い感じとはほど遠いその姿に、慎吾は苦笑した。
「やっぱね、無理があったんだよ、絵の具で塗ったくらいじゃ」
「そうかな。おれは大丈夫だと思うけど」
直人が笑いをかみ殺しながら、明らかなウソを吐く。
慎吾はおかしくて、それが悟れらぬよう、うつむいて肩を揺らした。
「笑ってるじゃん、二人とも」
奈緒子がしかめ面で腰に手を当て、袖から、固まった絵の具のかけらがいくつか剥がれ落ちた。
「ナオちゃん似合ってるよ。ほら、包丁とナマクビ」
ワチコが奈緒子の左手にナマクビ、そして右手に包丁を持たせた。その二つが合わさることによってますます滑稽な姿になった奈緒子を見て、慎吾は耐えきれずに吹き出し、その声につられて、直人とワチコも笑い出した。
「ちょっと笑わないでよ! これ絶対、失敗じゃん!」
奈緒子もおかしさに耐えきれなくなったらしく、笑いをこらえながら文句を言った。
八月十三日。快晴。縁日まであと二日。
「なんか安いオバケ屋敷みたいだな。ぜんっぜん怖くねえ」
奈緒子を指さして、さらに笑う直人。
「オバケ屋敷よりひどいよ。これチャーが悪いんだからね」
「だってやっぱ無理だよ。絵の具で怖くなんてできないって」
腹がよじれて痛かった。
「どうするのこれ? わたしこんな格好で外に行くのヤダよ」
「大丈夫だってナオちゃん。ナマクビはけっこう怖いし、包丁だってホンモノだからな。それに夜だろ、そのカッコで人を脅かすの。暗けりゃ分かんないって」
「そうかなあ……」
「そうだ! 地下室に行こうよ。アソコなら暗いから怖いかどうか実験できるよ」
「チャー、いいこと言った。じゃあ地下室に行こうぜ」
直人がさっそく立ち上がり、みんなを笑顔で見渡した。




