19:新しい遊び-④
「でもさ、バラバラ女はさ、誰をバラバラにするわけ?」
「チャーを」
「や、やめてよ」
「ビビんなよ。おれはあれだな、夜、一人で歩いてる人をバラッバランにするのがいい」
「えー、突然そんなことするの? それってなんか反則なような気がするな、わたしは」
「ぼく思うんだけどさ、バラバラ女はまず歩いてる人に話しかけてさ、質問とかするの」
「おー、それいいな。なんか、ぽいよそれ、ぽい」
「どんな質問にする? 『あなたはバラバラになりたいですか?』とかそういう感じ?」
「奈緒子それ単純すぎ。そんなもん、誰でもイヤに決まってるじゃん」
「例えばじゃん。じゃあ直人君は良いアイディアあるの?」
「考え中」
「なにそれー、逃げるのウマイなあ、直人」
「あれがいいんじゃないのか、ほら前にナオちゃんが言ってた『ヘビとクモ』のやつ」
「あ、それいいね。ぼく、ワチコに賛成」
「どっちかが好きなら助かるわけ? それつまんねえよ、二分の一じゃん」
「じゃあチャーみたいにさ、どっちも嫌いって答えた人が助かることにしよっか?」
「それ、ぽいぽいぽいぽい。難問だよな、普通はどっちか答えるもんな」
「じゃあ、ヘビって答えたヤツはすぐにバラバラにされて、クモって答えたヤツはそいつの家族が順番にバラバラにされていくのってどうだ? まるでクモのようにジワジワと追いつめていくのだ!」
「なんだよワチコ、お前そんなにクモっぽいことさせたいの?」
「でもそれ面白いよね。わたしはそれでいいと思うけど」
「ちょ、ちょっと待って、クモって答えた場合さ、最後はその人もバラバラにされちゃうわけ?」
「さあ、どっちが怖いんだろ? おれはどっちでもいいけど」
「あ、あたしいいこと考えたよ。クモって答えた人の家族が行方不明になって、それをその人が見つけるわけ。それでバラバラ死体の前で座り込んで泣いてたら、後ろから人影がー!」
「ギャアアアアッ!」
「うわ! もう急に大声出さないでよ直人」
「ハハハ、チャーてばホントにビビリだよな。でもさ、それいいよ。都市伝説って、大体そうやって、最後まで教えてくれないもんだもんな」
「じゃ、じゃあさ、うしろに人影が現れたらバラの香りがするってどう?」
「デブお前それダジャレじゃねえの?」
「でもそのほうが怖くない?」
「わたしもそれいいと思う。だってバラの香りってイヤじゃない?」
「でもおれ、バラの香りって嗅いだことねえよ」
「バカだな直人。ナオちゃんからしてるニオイってのがそうだよ」
「え、そうなの? 奈緒子って香水とかつけてんの?」
「そんなわけないじゃん。家でバラのお香を焚いてるから」
「へえ、オシャレだなあ、奈緒子んチ」
「わたしのことはどうでもいいでしょ。それでどうするの、バラの香りは?」
「いいんじゃねえの、そのほうが怖いんなら。おれはよく分からないけど」
こうしてノートに《⑤バラバラ女は、「ヘビが好きかクモが好きか」という質問をしてくる》《⑥ヘビと答えた人はその場でバラバラにされて殺される》《⑦クモと答えた場合、その人の家族がさらわれてバラバラにされる》《⑧そして、質問をされた人がそのバラバラ死体を見つけて泣いていると、うしろからバラの香りがただよってきて黒い人影が現れる》という項目が書き足された。
「こんなもんか」
直人が言い、
「うん、そうだね。あんまりごちゃごちゃさせても流行らないよ」
奈緒子が応え、
「じゃあ、まとめようぜ」
ワチコが鼻を鳴らし、
「うん」
慎吾はうなずいた――




