表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バラバラ女【改稿版】  作者: ノコギリマン
60/159

18:のいず川のドクロネズミー①

 淀んだ川面を眺めながら、慎吾は、ため息を吐いた。


 臭い。


 こんなどぶ川を見つめていても、なにも起こらないのは分かりきっている。それなのに、横の奈緒子や直人やワチコは、転落防止の若草色の手すりから身を乗り出して、真剣にドクロネズミを探している。


 自分よりもアタマの良い三人のその行動に、慎吾は笑いをこらえきれなくて、思わず吹き出した。


「なんだよ、なにがおかしいんだよデブ」

「みんなマジメに見てるのが、ちょっとおかしくて。ワチコなんて、口が開いてたよ」


 お決まりの肩パンをうけて、肩が今日もジンジン痛む。


 だがそれすらもおかしかった。


「やっぱいないのかなあ」


 意気消沈とした奈緒子が、手すりから離れ、手についた土埃を払った。


 その横の直人は、まだ諦めずに川面を眺めている。


「でもさ、川の中にいるっていうか、河原とかにいると思うんだけど」

「そこってここからけっこう歩くんでしょ?」

「うん、まあそうだけど」

「……あ、ほらあれドクロネズミ!」


 直人が指さす先に、黒い影が浮いていた。川面をたゆたいながら流れてくるそれは、生きているものにはとても見えなかった。ちょうど眼下に来たときによくよく見てみると、果たしてそれは黒いゴミ袋だった。


 それを見て落胆した直人がネットリとしたツバを垂らし、それが糸を引いて、濁るどぶ川とつながった。


「汚えなー、なにやってんだよ」


 声を荒げるワチコの仏頂面が、ふたたび慎吾の笑いを誘い、奈緒子もまた顔を綻ばせた。


「あー、ホントにいたら、捕まえて自由研究に使おうとか思ってたのに」


 口をぬぐいながら、悔しそうに言う直人。


「まだお前、自由研究やってないのかよ」

「考えるのめんどくせえじゃん。ワチコみたいにクモの研究するなんてイヤだし」

「これか?」


 ワチコが紙袋からガラス瓶を取りだして、直人の顔に近づけた。


「や、やめろよ。ていうか、なんで持ってくるんだよ、置いてこいよ」

「犬に食われたらかわいそうだろ」

「タローたちはそんなことしないよ、ワチコちゃん」

「そうかな。でもだって食べたくなるくらい可愛いぜ」


 ワチコがガラス瓶を撫でながら笑うと、巣の中央のクモがその愛情に応えるように長い足を少し動かした。


 その時、手すりに背をあずけて並ぶ四人の前に、けたたましい金切り音を上げて一台の自転車が止まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ