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バラバラ女【改稿版】  作者: ノコギリマン
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16:奈緒子の部屋ー③

「…………四年生の時にさ、お父さん交通事故で死んじゃって、わたしも、わたしもそのとき車に一緒に乗ってたんだけど、なんでか知らないけどちょっとした打撲だけだったんだ。お母さんは一緒じゃなかったんだけどさ、そのときお母さんって妊娠してたのね。でもショックで流産しちゃって、もともと体が弱かったってのもあると思うんだけど。それから少しおかしくなっちゃって、ううん、おかしくって言ってもべつに前とそんなに変わらなかったんだけど、それでもやっぱりなんかどっか、心だと思うんだけど、おかしくなっちゃったんじゃないかと思うの。前みたいに笑わなくなったし、わたし、お母さんの笑い声が好きだった、今でも好きなんだけど、それでもやっぱりあんまり笑わなくなったし、お父さんが死んじゃってから、お母さんってばちょっとのあいだは窓からボーッと空ばかり見てて、天国なんてここから見えないのにね、それがおかしくて、でも悲しくてさ、わたしも一緒にお母さんのそばで空ばっかり見てた。あの頃はよく分からないけど、しょっちゅう泣いてたな、わたし。それからさ、お母さんが急に元気になって、でもやっぱりあの笑い声が聞けなくて、なんでかな、とか思ってたら、あのヒトを連れてきたの。あのヒト、最初からあんな格好でさ、わたしも最初はビックリしたけど、それ以外はべつに普通だったのね。変なことはいっぱいさせられるけど、ほら、このワンピースだってあのヒトが、コレを着なさい、って言うから仕方なく着てるんだよね。最初はそれもイヤだったんだけど、そうしないとお母さんが怒るの。ジャアクタイは交通事故の時にどこかへ行っちゃったけど、まだ奈緒子を狙ってるんだから、とか言ってさ。その時のお母さんの目がね、おかしいの、わたしを見てるんだけど見えてないって言うか、よく分かんないけどそんな感じ。あのヒトと同じ、キモチワルイ濁った目をしてて、それでさ、わたし、分かったの。ああ、お母さんはもうわたしの知ってるお母さんじゃないんだって。それからさ、今まで友だちだったみんなに無視されるようになって、友だちのヒロミちゃんとかはそれでもしばらくはわたしと遊んでくれてたんだけど、その時にね、奈緒子のとこにいるあの変な人って変な宗教とかやってるの? とか言うの。わたしさ、なんて言ったらいいのか分からなくて笑ってごまかしたなあ。それからヒロミちゃんも遊んでくれなくなっちゃって、気づいたらわたし…………イジメられてたの。それで学校に行かなくなっちゃって、そしたらお母さんが、奈緒子はまたジャアクタイにニュウコンされたかもしれない、とか言ってさ、変な儀式とかいっぱいさせられたりして、それで、それでまあお母さんは満足したみたいでなんとかなったんだけど、あのヒトが、ナオちゃんのために、あのヒトわたしのこと、ナオちゃんって言うんだよ、イヤだよね。ワチコちゃんに言われてもなんとも思わないんだけど、あのヒトに言われたらなんかイヤでさ、うん、あ、ちがうなんの話だっけ? あ、そうそうあのヒトがさ、ナオちゃんのためにもこの町を出よう、とか言うの。わたしはイヤだったんだけど、お母さんはあのヒトの言いなりだからすぐに引っ越しが決まっちゃって。それでさ、この町へ来たの。この家もね、あのヒトの知り合いの家なんだって。あのヒトの知り合いって沢山いてさ、時々ここに集まったりして、変な呪文っていうかお経っていうかずっと言ったりしてるの。なんだったかな、ケルビムの炎がマリシテンにナントカカントカ、とかね、そういう感じ。ナオちゃんにはまだ早い、とかあのヒトが言うからわたしはまだその中にいないけど、大きくなってもわたしは絶対に参加しないって決めてるんだ。だってそうでしょ、バカみたい。わたしは大人になったら日本から飛び出して世界中を旅したいんだ。フランスとかイタリアとかドイツとか、あ、全部ヨーロッパだけど他の国も行きたいな。とにかくあのヒトとか集まってくる変な人とかと一緒にいたくないの。べつに何かされたわけじゃないけど、あのヒトね、時々、わたしをぢいっと見てくることがあるの。それが本当にキモチワルクて。それから笑って、ナオちゃんは可愛いね本当に天使みたいだね、ジュンケツがシコウだよ、とか言うの。それもお母さんがいないときにしか言わないから、わたしあのヒトと二人になるのがイヤなの。だけどお母さんは仕事で夜にしか帰ってこないからさ、あのヒトなんでか分かんないけどずっと家にいるしね。わたし、だから本当にチャーと友だちになれて良かったって思ってる。それに今日からワチコちゃんと林君もいるし。今は、お父さんが買ってくれたこの腕時計とみんながわたしの味方なの。この時計もね、男子のヤツだからお父さんにもらったときはイヤで着けてなかったんだけどね。やっぱり、なんでかな、今はコレがないと不安になるんだ」


 心の底からあふれ出す、今までため込んでいたのであろう奈緒子の長い独白を、無言で頷くことしかできずに聞き終えた慎吾は、ようやく話し終え、大きく深呼吸をする奈緒子を見ていることができなくて、グラスに目を落とした。


 泡は、もうはじけていなかった。


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