13:直人とワチコー④
「おお、それそれ。さすがチャーだな」
「さすがだなデブ。無駄に太ってないぜ」
「だからデブってのはやめてよ」
うつむく奈緒子の表情は、麦わら帽子のツバに隠れて分からなかった――
◆◆
『金田鉄雄の家』
五年前に起こった、ある惨劇。
住宅街の一角にある、ごく普通の一軒家で、それは起きた。
金田家は、父、母、それに長男と次男、末の長女の五人家族だった。
両親ともに教師の金田家では、高校生の長男と小学生の長女のそれぞれが優秀で、学年でも常にトップクラスだった。
だが中学生の次男、鉄雄だけはちがった。
《グレートマンシール》という、お菓子のオマケシール集めだけが趣味という根暗男子の鉄雄は、なにをやらせてもダメで、学校でも家でもバカにされる劣等生だった。
次第に世の中のすべてに、どぶ川のように濁る殺意を抱き始めた鉄雄は、ある冬の日、かねてからあたためていた《殺害計画》を実行する。
まず、リビングで両親を包丁でメッタ刺しにして殺害。
次に、自室でくつろぐ長女の首をしめて殺害。
最後に、帰宅した長男の後頭部を金属バットで殴打して昏倒させ、火あぶりにした。
長年の悲願を達成させた鉄雄は、屋上に上がり、
「イサダクテキーホーユー、イサダクテキーホーユー」
と大空に両手を伸ばしながら呪文を唱えた。
すると雲間からUFOが現れ、鉄雄はそれから伸びる一筋の光で包まれた。
そして鉄雄はUFOに吸い込まれ、いずこかへと消えた。
◆◆
――自分で語りながら、心の底からその話をバカバカしいと、慎吾は思っていた。
慎吾の知る限りで、最も稚拙な作り話である。
とにかく結末が突飛すぎる。
小学生でも鼻で笑ってしまうような出来だ。途中まではまだいい。抑圧された少年には思うところはあるし、共感や同情も覚える。
だけど、UFO。
それだけがこの話の中で浮いている。屋上の行為が、そういう心理状態にまで追いつめられた少年の奇行とするならば、まだ分かる。
だけど、本当にUFOは現れる。
そこだけがどう考えてもおかしい。
そしてだからこそ不気味だった。それをこの町の子どもたちは感じている。いや、そこに引っかかっている者は少数なのかもしれないが、この話を知らない子どもはほとんどいない。
それほどまでにこの話はこの町に浸透しているのだ。
バカバカしいけど、怖い。
「ありえねえよな」
その思いを、直人が一蹴した。そもそもオカルトな話をあまり信じないタチらしい。
ベッドでアグラをかくワチコは、興味深げに目を輝かせていた。
奈緒子は……分からない。
「でも直人さ、そういうの、好きなんでしょ?」
「好きだけど、べつに信じてるワケじゃねえよ」
「信じてるとかどうでもいいんだよ。ナオちゃんは、そこでいいのか?」
「うん、わたしはそこでいいよ」
「おいデブ、ここから遠いのか?」
「ううん、森荻のほうだから、そんなに遠くないよ」
「じゃあケッテーだな。行こう」
直人の言葉に促され、三人が207号室を出て行った。
ひとり取り残された慎吾は、実のところ、あまり乗り気ではなかった。




