13:直人とワチコー②
「お前さ、夏休みも、山下と遊ぶの?」
「え、なんで?」
「気をつけろよ、太一とかにさ」
「太一? 奈緒子のこと好きなの?」
「好きかどうか知らないけど、お前が山下と喋ってるとき、いつもチラチラ見てるぞ」
「それを、直人は見てるんだ?」
「太一が好きなワケじゃないぞ」
「分かってるよ」
「それに太一だけじゃないからな。お前いつもバカにされてるんだから、わざわざ一コ理由を作るなよ」
「大丈夫だよ、ただのトモダチだもん。女子とか男子とか関係ないよ」
「……あ、そ、じゃあ今日は、おれも一緒に遊ぼうかな」
「え?」
慎吾はグルグルと回す腕を止めて、直人を見た。
「どういう意味?」
「おれもお前と山下と一緒に遊ぼうかなって意味」
グルグルと腕を回しながら笑う直人。
ハメられた。
直人は始めからそのつもりで近づいてきたのだ。あのやりとりのせいでそれを断る理由がなくなってしまった。
たぶん直人にとっては、奈緒子と遊ぶことに、あまり深い意味はないのだ。
単なる暇つぶし。
直人にとっては、この世のありとあらゆることが、ただの暇つぶしなんだ、と慎吾は思う。普段から暇をもてあます直人にとって、夏休みは、慎吾とはちがう意味で苦痛なものなのかもしれない。
「気にすんなよ、暇つぶしだから」
直人は本当に人の心を読み取る能力があるのではないかと思い、背筋がヒヤリとした。
「でも、でもさ、ぼくと直人って、そんな友だちじゃないじゃん。奈緒子とだって」
「だからさ、これから仲良くなればいいじゃん。町山先生も言ってたろ、『クラスメイト同士仲良くしましょう』って」
言葉に窮し、大きなゲップが出た。
ホントにマジで最悪の最悪。
「出たな、困りゲップ」
「変な名前つけないでよ。分かったよ、連れてけばいいんだろ」
「連れてく? なんだ、お前ら秘密基地とかあんの?」
目を輝かせる直人。
コイツには勝てないと思い、慎吾は深いため息を吐いた。
◆◆◆
今日は本当にツイてない。
理由は三つ。
一つ目は、直人がついてきたこと。
二つ目は、奈緒子の機嫌がまだ治っていなかったこと。
そして三つ目は、奈緒子が本当に誰かを連れてきてしまったこと。
「なんでいるんだよ?」
207号室の、埃まみれのベッドの上でアグラをかき、ニヤニヤと笑うワチコに、そう聞かずにはいられなかった。
「ラジオ体操の時に、ナオちゃんに誘われたから。お前には関係ねえよデブ」
「デ……やめろよ、そんな汚い言葉」
ワチコにいらつきながら、背を向けて窓辺に立つ、白いワンピースの少女を見やった。
白いリボンのかかる大きな麦わら帽子をかぶる奈緒子は、ここに来てから、まだ一度も口をきいてくれない。




