13:直人とワチコー①
次の日、慎吾はラジオ体操に遅刻しそうになって、家の近所にある集合場所の空き地まで、無我夢中で走っていた。
走りながら、《遅刻が少し目立つので、早寝早起きをするようにしましょう》という、通信簿に書かれた、町山先生の言葉を思い出す。
夏休みの初日でこれじゃあ、二学期が思いやられる。
昨日は、遅刻が多いということが両親にバレて、大変な思いをした。
まだ少し腫れる赤い頬を撫でて、なにもぶたなくてもいいじゃないか、と、慎吾は思う。
お父さんは厳しすぎる。昨日は一発ですんだけど、また遅刻したら、今度はなにが待ってるか分からない。
「だから、お前はダメなんだ!」と、お父さんは言った。
「だからって言えるほど、ぼくのこと見てないじゃないか!」と言いたかった。
「お父さんもお母さんも、ぼくが図工の時間に褒められたのを知らないじゃないか!」と叫びたかった。
褒められたことなんか、一度も無い。
過去にはあったのかもしれないが、それはいつのことだか思い出せないほど、昔の話。
ダメなところを叱るのが趣味のお父さんと、それを横で聞きながら、慎吾の擁護を一切しないお母さん。
共働きで家を空けていることが多いから、躾を厳しくしないと、グレてしまうとでも思っているのだろうか?
本当は、ちがう。
そんなことをされて、両親を尊敬の対象として見ることなんかできない。褒められることもなく、なにかあればぶたれるだけ。そんな悲しい関係性のまま、大人になってしまうのがとても怖かった。このままだと、本当に両親を嫌いになりそうで、それを思うと心の底から憂鬱になる。
◆◆◆
「チャー、なんだよお前、今日も遅刻かよ」
空き地に着くと、慎吾を見つけた直人が、笑いながらとなりに並んできた。
「まだ始まってないよ。ていうか、なんで、となりに来るんだよ?」
「いいじゃんかよ、ほかに誰もいないし」
たしかに、この地域のラジオ体操に来る六年生は、慎吾と直人しかいない。そういえば直人とは家がそんなに離れていないな、とふと思い出す。
それほど直人とは仲良くない。
近所だからという理由だけで仲良くできるほど大人じゃないし、正直、どちらかというと、直人のことが苦手だった。
昔から勉強ができるのとはちがう意味で頭の良かった直人が、なぜか好きになれなかった。直人としゃべっていると、自分のすべてが見透かされてしまうようで、すごく居心地が悪くなる。
たぶん直人にはなんでもバレてしまうのだ。ちょっとした情報で、人の秘密や知られたくないことを言い当てる。
ここがどこかの呪われた山村で、そこで不可思議な密室殺人でも起きれば、直人はきっと、少年探偵よろしく事件を解決してしまうのかもしれない。
だけどここは田舎とは言っても、東京だし、密室殺人なんて、フィクションの代名詞だ。
だから、解決すべき事件のない少年探偵は、人の秘密を暴くのが趣味になる。




