11:たそがれ坂ー①
今日はいっぱい変なことがあって、ドッと疲れたなと思い、無意識のうちに出た大あくびを奈緒子に笑われた慎吾は、
「神社どうだった?」
と、涙目で返すのがやっとだった。
「うーん、ヘビとかワチコちゃんとか、いろいろ面白かったけど、あの樹はダメかな。やっぱり、バチアタリだもん」
《都市伝説コレクション》にすると言って拾った五寸釘を、手持ち無沙汰にいじりながら言う、奈緒子の言葉を聞いて、なぜか、自分がガッカリさせてしまったのではないか、という思いにふと駆られた。
「でも、アレだよ、この坂にも都市伝説っていうか、言い伝えがあるんだよ」
「え、ホント?」
「うん」――
◆◆
『たそがれ坂』
神社へと続くその坂道には、古くからの不思議な言い伝えがある。
たそがれ時に下から坂道を見上げると、ほんの少しだけの間、そこに、もう死んでしまった、一番会いたいヒトが夕陽を背にして立っているという。
しかしそのヒトに近づくことはできず、近づけば、それは陽炎のようにぼやけ、しまいには消えてしまうらしい。
ちなみに、『たそがれ坂』でヒトに会えるのは、一人につき一生に一度だけだと言われていて、その見たヒトが誰なのかを、誰にもしゃべってはいけないと言われている。
もしそのことをしゃべると、そのヒトとの生前の思い出が、すべて消えてしまうらしい。
現在では、夕刻を伝える、有線放送の『夕焼け小焼け』が流れるタイミングで見上げるのが、いちばん出会える確率が高い方法とも言われている。
◆◆
――「ホントに?」
明らかに疑いの目を向けながらも、その話を嬉しそうに聞いていた奈緒子は、慎吾が語り終えると、意地の悪い目を向けて言った。
「ホントかどうかは分かんないよ。やってみたことないし」
「じゃあやろうよ。もうすぐ『夕焼け小焼け』が流れるし。ホントだったら、わたし、会いたい人がいるんだ」
目羅博士の腕時計を見ながら言った奈緒子が、唐突に慎吾の左手をひいた。
心臓が止まるほどの柔らかな衝撃に声すら出せない慎吾は、そのまま奈緒子に手をひかれて、たそがれ坂を夢見心地でくだった。
「あと一分ね」
坂道の方を向き、腕時計を見て、ソワソワしながら有線放送を待つ奈緒子。
その横で、慎吾もソワソワ。
奈緒子と手を握った。
しかも結構長いこと。
恥ずかしくて、横にいる奈緒子を見ることさえできない。
もう夕方だというのに元気に鳴く、セミの大合唱だけが耳に障る。




