10:失恋大樹-④
眉間にシワを寄せて考えていると、不意にお尻をなにかが撫でた。
一瞬、まさか奈緒子に撫でられたのかと思い、それをすぐに頭から振り払って、背後を見ると、そこに白い蛇が這っているのが見えた。
「きょあえぇー!」
十二年の短い人生の中で初めての、言葉にもならない言葉を大声で吐いた慎吾は、そのまま尻餅をついて、金魚のように口をパクパクとさせた。
その声に一瞬ビクッと身を震わせた奈緒子が、慎吾の視線の先、這うのをやめて舌をチロチロと出す白蛇を見つけて、
「あ、ヘビだ」
と、呑気に笑った。
「え、ウソ? だって、ヘビだよ」
「うん、べつにヘビなんて、怖くないじゃん。それにあのコ、きっと毒とかないよ」
「なんだよそれ、なんで分かるの?」
「わたしどっかで聞いたことあるけど、頭が三角のヘビには毒があって、丸いヤツには毒がないんだって」
そう言われてよくよく見ると、確かに奈緒子の言うとおり、その白蛇の頭部は丸く、その事実が、慎吾を少しだけ安心させた。とは言っても、ヘビはヘビ。慎吾は微動だにできなかった。
いつの間にかとぐろを巻いた白蛇は、慎吾には興味がないと言わんばかりに奈緒子のことをしばらくぢっと見て、ふたたび這って、そのまま草むらの中へと消えていった。
「ああ、触りたかったのに……」
横で落胆する奈緒子に、慎吾は我が耳を疑った。
「な、なんで、怖くないんだよ?」
「えー、でもだって、可愛くない?」
「可愛くないよ、こ、怖いよ」
「じゃあ、チャーは、クモとか好きな人なんだ?」
「え?」
「クモ。虫の。お父さんが言ってたんだけど、人間には、ヘビが苦手な人と、クモが苦手な人の二種類がいるんだってさ。ヘビが嫌いなら、クモは好きでしょ? わたしはクモ苦手」
「クモも嫌いだよ」
「アハハ、じゃあ、チャーは三種類目の人間ね。おめでとうございます」
「や、やめてよ」
バカにされたような気がして、慎吾は少しだけ腹立たしくなりながらも、その『ヘビとクモのウンチク』を、誰かに試してみたいという気にもなっていた。
ようやく落ち着き、汗で額から剥がれかけた絆創膏をまた貼り直してから、「まだもう少しいたい」と言う奈緒子を説得して、二人で神社を出た。




