7:秘密基地ー③
「……ごめん、ぼく帰る」
「……うん」
「……セト君はどうするの?」
「……もうちょっと、いようかな」
「そう……じゃあね」
「あ、待って」
「なに?」
「コレ、置いてくの?」
「うん、だってそんなの、家に持って帰れないよ」
「ふうん……」
「……じゃあ、また明日」
「うん」
「……じゃあね」
「うん……」
秘密基地を出た慎吾は、頬に冷たいものを感じて空を見上げた。
雨がポツリポツリと降り出していた。
そして秘密基地の中からは、ペリッ、ペリッ、という吸い込まれてしまいそうな音。
それに心を奪われないよう、慎吾は無我夢中で駆け出していた。
ずぶ濡れになりながら家に着き、そこでようやく、いつも楽しみにしていた『妖怪博士 目羅博士』を読み忘れたことに気がついた。しかし大降りの雨を言い訳にして、その日、慎吾は秘密基地に戻ることはなかった。それから寝るまで、あのマンガを思い出してボウッとしていた慎吾の耳には、いつもなら心地よく鼓膜を揺らすはずの雨音さえ届かなかった。
◆◆◆
それが慎吾の、とても甘くて、とても苦い思い出。
それからは、恥ずかしくて、女子とまともに目を合わすことができなくなって、正次とはあのあとも普通に遊んだし、秘密基地も、小五の八月の縁日の次の日に行ったら、なぜかメチャクチャに壊されていて、ブルーシートはだれかに盗まれていたけど、それまでそこにあったし、本当に、あのエロ本の一件いがいは、普通に普通だった。
でも小六になってすぐに、正次は学校に来なくなって、噂では、近所の小さいオンナノコを秘密基地のあった雑木林に連れ込んでイタズラをしようとしてケーサツに捕まって、今はずっと家から出てこないのだとか。
みんなは知らないけれど、その噂が本当なら、正次は、あの日、あのエロ本を読んでから、おかしくなっちゃったのかもしれない、と慎吾は思う。
だから、怖くて、正次に会いになんて行けない。
それ以来、慎吾は《セックス》のことを考えないようにしていたし、神社にも近づかないようにしていたし、薄情とは思いながらも、正次のことを忘れるように努力していた。




