7:秘密基地ー①
《セックス》という言葉とその行為について、あやふやながらも慎吾が理解したのは、小三の五月のことだった。
慎吾はその日も、神社の裏手の雑木林に瀬戸正次と一緒になって作った、はじめての秘密基地へ向かっていた。
空は、まるで黒のペンキを一面にぶちまけたかのような曇り。もうすぐあそこから雨があふれ出して、町を心地よい雨音でいっぱいにするのだ。
慎吾は急いでいた。雨音は好きだけど、雨に濡れるのはイヤだったから。
しっとりと湿気を帯びはじめた空気を、胸一杯に吸い込みながら神社へとつづく坂道を走っていると、不意に、道ばたに捨てられた一冊の雑誌が目に入った。足を止めて、その雑誌の表紙を見た慎吾は、思わずゴクリとツバを飲み込んだ。
『CHO! 巨乳王』と題字されたその表紙には、少しハニかみながら、自身のなにも着けていない豊満な胸を両手でかくす、とってもカワイイ女性のグラビア写真が載っていた。
慎吾は、あたりを見回して誰もいないのを確認し、すっかり茶ばんだ紙が幾層にも重なる雑誌の側面を見て、「ミルフィーユみたいだな」と思いながら、そっとそれをTシャツの中にしまい、ふたたび秘密基地へと走り出した。
◆◆◆
学校の近くの廃材置き場から持ってきたいくつかのベニヤ板を、木のあいだに乱雑に組んで作った天井。そこから四方を釘で固定したブルーシートを垂らして、テント状にしたものが、慎吾と正次の秘密基地で、そこへ着いたときには、もうすでに中では、正次が敷かれたゴザの上であおむけになって、きょう発売されたばかりの『週刊少年 サクセス』をゲラゲラと笑いながら読んでいた。
「セト君。ちょっと、アッチ寄って」
「あ、チャーやっと来たか。今日は来ないのかと思ってたよ」
「今日は、サクセスの発売日だからね」
「目羅博士おもしろいぞ。サガリ先生が」
「ちょっと言わないでよ」
「アハハ、ドッキリだよ、ドッキリ。びびった?」
「そんなことよりさ、さっき、いいの見つけてきたよ。見る?」
「え、ナニナニ?」
「ほら」
「うわ、すっげ、エロ本じゃん。おれ、初めて見るよ」
「すごいでしょ」
「うん、マジですげえ」
「ドキドキするー」
「ドキドキするー」
「あ、ちょっと待って、でもこれ、ペリペリで全部くっついてるよ」
「カンケーないよ。おれこういうの剥がすの、得意なんだぜ」
「ホントに?」
「ホントだって。貸してみ」
「ちょっと、気をつけてよ」
「大丈夫だって……ほら」
「ほらじゃないよ、破けてるじゃないか」
「だから大丈夫だって。写真のカラーのところはちょっと無理だけど、白黒になってるマンガのところは、やりやすいんだってば」
「ホントに?」
「ちょっと、待ってろよ」
「……あ、ホントだすごい!」
「だから言ったろ、おれ、こういうの得意なんだってば」
「いいから、読もうよ」
「ドキドキするー」
「ドキドキするー」




