6:あだ名ー②
「怒ってないの?」
恐る恐るふたたびたずねると、
「だからなんで?」
と、山下奈緒子も、ふたたびたずね返してきた。
「ぼく、山下さんを尾けてたんだよ」
「わたしを? なんで?」
「なんかよく分からないけど、前を歩いてる山下さんを見つけてさ、家と違うほうに歩いてたから、気になっちゃって」
「ふーん。よく分からないけど、わたしべつに怒ってないよ」
「ホントに?」
「うん。でもちょっと、ガッカリしたけど」
「ガッカリ?」
「うん。やっと血塗れナースに会えるんだって、ちょっとワクワクしてたから」
「ごめん、なんか、ぼくで」
「いいよ、気にしないで」
やっとのことで顔を上げると、目の前で山下奈緒子が微笑んでいた。
「でもホントにごめんね」
「いいよ謝らなくて」
そう言って、山下奈緒子は、シッポを振りながら近寄ってきた大型犬の頭を優しく撫でた。
「山下さんは、なんでこんなところにいるわけ?」
「言ったらバカにされるかもしれないけど、血塗れナースに会いに来たの」
「血塗れナースに? なんで?」
「うーん、ただの好奇心。わたし、言ったと思うけど、そういう話が好きなの」
「でも、山下さんみたいにアタマのいいコが、『血塗れナース』なんてどうしようもない話を、なんで信じるわけ?」
「わたしも本当に信じてるわけじゃないけど、ワチコちゃんにこのまえ聞いて、やっぱちょっと面白そうだなとか思っちゃって。噂話がどんなにバカバカしくても、そんな話があるってことは、やっぱりそこには、その噂話ができるだけの何かの理由があると、わたしは思ってるんだ」
「火のない所に煙は立たない?」
「そうそう、そういうこと」
「でもいなかったんでしょ?」
「うん。もし本当にいたら、わたしはメチャクチャに刺されて死んでるとこだけど、アハハ」
「すごいね、ぼくは、一人でこんな怖いところには来れないよ」
「来てるじゃん」
「あ、うん、でもそれはほら……」
しどろもどろになりながら慎吾は、山下奈緒子のかたわらでシッポを振る犬を見て、とっさに話を逸らした。
「こ、この犬たちはなんなの?」
「タローにジローにサブローにシロー、それにこのコは女の子だから、イツコちゃんね」
「名前じゃなくてさ、なんで犬がここにいるわけ?」
「わたしにも分からないけど、初めてここに来たときに、もういたんだよね」
「ふうん、それでなんでエサなんかあげてるわけ?」
「だって、かわいそうでしょ。多分このコたち捨て犬なんだよ。ていうか宮瀨君さ、さっきから、なんでなんでばっかりだね」
「あ、うん、ごめん」
「べつにいいんだけど。わたしも聞きたいことあるんだ」
「あ、うん、なに?」
「なんで、チャーなの?」
「え?」
「あだ名」
「あ、ああ、それね……」
言葉に詰まる。
《チャー》の由来なんか、思い出したくもない。
だが、山下奈緒子には、自分のことを全てさらけ出してもかまわないという思いも、ないわけではなかった。




